【注目インタビュー 私のターニングポイント Vol.41】佐藤 智仁『何が正解かわからないのが俳優の道。それが重圧でもあり、楽しみでもある』(掲載開始日:2008年12月18日)

佐藤 智仁(さとう・ともひと)
1984年2月22日生まれ。東京都品川区出身。大学在学中の2004年にデビュー。『仮面ライダーカブト』(テレビ朝日系)などの演技で好評を得る。『白と黒』(フジテレビ、東海テレビ系)、『ギラギラ』(テレビ朝日系)などに出演中の他、2009年には、2月14日公開の映画『少年メリケンサック』、4月の舞台『キサラギ』に出演する予定。

オーディション応募のワンクリックが人生最大のターニングポイントに (佐藤 智仁)

小学生から高校生まで、ずっと野球にあけくれていた僕にとって、未来の到達点は「プロ選手」でしかあり得ませんでした。やり続けていけばきっと夢は近づいていくものだと頑張っていたんですが、「注目の選手」といわれる人たちのプレイを見ると、「かなわないな」と思ってしまうんですね。スポーツの世界は、そういうことが如実にわかってしまうものなんです。理屈でも何でもなく、「この球は自分には打てない」って。

思い返せば野球選手としての僕は、まわりから「器用貧乏」と言われてしまうような選手でした。内野手としても外野手としても一定レベル以上の守備ができる。足もそこそこ速い。バッターボックスに立てば、右でも左でも打てる。はじめのころは、それが自分の売りだと思っていたんですけど、いざプロのレベルから見てどうなのかと考えたら、まったく話にならない。売りどころか、コンプレックスにさえ感じるようになっていました。

ところが、大学生になって目標のない日々を送っていたある日、「俳優」という2文字が浮かんできたんです。いろいろな人物を、さまざまな状況に応じて演じわける俳優なら、自分の「器用貧乏」がむしろ役にたつんじゃないかと思ったわけです。

でも、実際に何をしたら俳優になれるのかはまったくわかりませんでした。そこで、とりあえずパソコンを開いて「オーディション」という文字を打って検索してみたんです。

たどりついたのがトップコートの「Try to Top 2004」。全国各地で行われていて、しかも一次審査会場に来たすべての人と面接をするというところに興味を引かれて、「やるっきゃないな」と応募していました。それが、人生最大のターニングポイントを呼ぶワンクリックになるとは知らずに...(笑)。

器用にこなすのではなく、楽しむことの大切さに気づいた瞬間 (佐藤 智仁)

一次審査では、自己PRをするんですが、果たして自分の何をPRすればいいのかわからない。名前を名乗り、「特技は野球です」と言ったあとには頭がまっ白になって、何を言ったか、ほとんど覚えてないんですよ。

だから後日、電話で「二次審査にお越しください」と言われたときはすごく驚いたし、さらに「最終審査の15人に選ばれました」という電話がかかってきたときは、もっと驚きました。それが僕にとって生まれて初めてのオーディションだったというだけでなく、何をどう頑張っていいかわからないので「これは受かりそうだ」という手応えがまったくつかめなかったんですね。

ただ、3回目の最終選考ではさすがにコツをつかめた気がして、台本を与えられてセリフを話したりするときには落ち着いていて、自分でもその場を楽しむ余裕があったように思います。「器用貧乏」がさっそく役にたったわけですね(笑)。

こうして始まった俳優の道は、思った以上に厳しかったというのが僕の印象です。というのも俳優は、一度オーディションに受かればいいわけではなく、いい役を得るためには何度もオーディションを受けなくてはなりません。実際、すぐに壁にぶち当たりました。何度オーディションを受けても、受からないんです。今思えば、そのころは与えられた課題を器用にこなすだけで、本当に大事なことを忘れていたんですね。

それを思い出させてくれたのは、事務所のスタッフの人たちでした。生まれて初めて臨んだオーディションの最終審査のVTRを僕に見せてくれて、「君はこのとき、楽しそうに演じているじゃないか。今の君に足りないのは、それなんじゃないか」って。

目からウロコが落ちる思いでした。

初舞台は無我夢中だったけど 今こそその成長をアピールしたい (佐藤 智仁)

そんな中、『仮面ライダーカブト』に起用されたことは、僕にとってはとても幸せな出会いでした。1年という長い間、ひとつの役に取り組むという経験は、俳優として、大きな成長につながったと思っています。ベテラン俳優の方との共演シーンも多く、特に父親役の本田博太郎さんの「どんな球を投げても打ち返してくださる」ふところの深さには、学ぶことばかりでした。

それ以前に、劇団「自転車キンクリート」の鈴木裕美さん演出の『ブラウニング・バージョン2』という公演で初舞台を踏んだ経験も大きかったですね。舞台に立つというのはカメラの前で演じるのとは違って、四方八方の観客の視線を受けるだけに、セリフの言い回しや動き方など、すべての場面を俳優が作っていくという自由さがある反面、経験の浅さのために場面を台なしにしてしまうという怖さもあります。実際のところ、内田春菊さんをはじめとする個性ある大人の人たちに囲まれて、無我夢中で突っ走ったという感じなんですが、主演の浅野和之さんには「役を演じる」という点で的確なアドバイスをいただきましたし、(鈴木)裕美さん流の「このセリフは、どういう気持ちで言ってるの?」というようなきめ細かな演出もあって、自分から何かを表現するというより、自分のいい面をまわりの方たちがうまく引き出してくださったという印象が強いんです。

でも、この舞台の稽古のさなか、『仮面ライダーカブト』のオーディションに受かるわけですから、僕の中ではすべてがつながっているんですね。だから今回、『風が強く吹いている』で裕美さんと3年ぶりにお仕事させていただけることはとてもうれしかったし、ある意味、俳優として、自分がどれだけ成長しているかを見せられる勝負だと思って気をひきしめているんです。

佐藤 智仁さんへQ&A

Q:最近、面白かった本は?
A:伊坂幸太郎さんの小説が好きなんですが、今は『魔王』に夢中です。伊坂さんの映画好きな感性に触発されます。
Q:最近、ハマってることは?
A:カクテル作りはもともと好きだったんですが、ドラマ『ギラギラ』に出演中に先生に習い、またハマっています。
Q:初めて感動したお芝居は?
A:2004年に観た藤原竜也さん主演の東京公演『ロミオとジュリエット』は衝撃的で、圧倒されました。

これから演劇を楽しもうと思っている人へ

僕は舞台を観にいくとき、主役の方の演技はもちろんですが、そのセリフを聞いている俳優の方たちがどんなふうに受けとめているのかが気になるんです。あるいは、その場面に関係していないはずの俳優さんたちも、その場面を盛り上げようと、いろいろな芝居をしているもので、その方たちがどんな演技をしているのかということに注目してしまうんです。これは、テレビドラマや映画では味わえない、演劇ならではの楽しみですよね。

これから演劇をしようと思っている人へ

僕自身、「器用貧乏」というコンプレックスを解放してくれたのがこの世界でした。ですから、どれだけ経験を積んでも、ありのままの自分をさらけ出すということの大切さを忘れてはいけないなと自分に言い聞かせています。そう考えてみると、舞台や映像といったカテゴリーにとらわれることなく、演じることに限りない可能性を求めていきたいと思っています。どうかみなさんにも、自分の可能性を信じて第一歩を踏み出してほしいと思います。

佐藤 智仁さんの次回公演情報

「風が強く吹いている」の画像画像を拡大する
アトリエ・ダンカンプロデュース 「風が強く吹いている」

三浦しをんの直木賞受賞後第一作『風が強く吹いている』が舞台化される! 演出を担当するのは、劇団「自転車キンクリート」の鈴木裕美。ひょんなことから箱根駅伝に挑戦することになった若者たちの群像劇をどう演出するのか? 主演の黄川田将也、和田正人らの演技にも注目が集まる。2009年年明けを熱く過ごしたい人は、劇場に集合だ!

※当公演に出演を予定しておりました佐藤智仁さんは体調不良のため、急遽本公演を降板せざるをえなくなりました。新配役として渋江譲二さんが出演します。

東京公演 富山公演
2009年1月8日(木)~18日(日) 2009年1月29日(木)
ル・テアトル銀座 by PARCO 富山県教育文化会館
名古屋公演 仙台公演
2009年1月31日(土) 2009年2月3日(火)
名鉄ホール 電力ホール
大阪公演 福岡公演
2009年2月6日(金) 2009年2月13日(金)
ウェルシティ大阪厚生年金会館 芸術ホール 福岡サンパレス
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取材・文/ボブ内藤(方南ぐみ) 撮影/庄司直人(TFK)

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