放送受信料の支払いを拒否した東京都内の30代と40代の男性2人に、NHKが未納分計16万6800円を請求した訴訟の判決で、東京地裁は28日、2人に全額の支払いを命じた。2人は「政治的介入を許したり、受信料の不正流用を行うNHKに受信料を支払うのは、思想良心の自由を定めた憲法に反する」と主張したが、綿引穣裁判長は「2人は元々自由意思で契約を交わした。(契約継続も)放送内容や経営活動を是認するよう認識の変更を迫るものではない」と合憲判断を示した。
2人の弁護団によると、受信料を巡る憲法判断は初めて。30代男性は控訴する方針。NHKによると、不払いを巡る訴訟は計169件起こされ、今回の訴訟を含め11件が係争中で地裁判決は初めて。
判決は、NHKを巡る問題を理由に受信料を支払いたくないとする2人の主張を「一つのものの見方として尊重されなければならない」とした。しかし(1)本人や家族が02~03年、自主的に契約を交わした(2)04年3月まで支払いを続けた(3)解約には受信機の廃止が必要だと事前に知り得た--などから「(契約や契約継続は)2人の思想良心の自由を侵害していない」とした。
2人は「支払いを免れるには受信機を廃止しなければならず、民放の視聴を妨げられ、知る権利を侵害され違憲だ」とも主張した。判決は「放送法はNHKの放送を受信できる受信機の設置者に受信料支払いを強制している。民放の視聴を妨げる規定ではない」と述べた。2人は04年4月~09年3月、計60カ月分の料金を請求されていた。【伊藤一郎】
▽2人の弁護団の話 形式的判断にとどまっている。「合憲」との結果があっても理由が書かれていない。
▽NHK広報局の話 主張が全面的に認められた適切な判決だ。
元プロデューサーの番組制作費着服事件など一連の不祥事で火がついたNHK受信料の不払い。ピークは大津放送局の記者が放火未遂事件で逮捕された05年11月の約128万件だった。NHKは06年11月以降、支払い督促に乗り出し、今年5月現在、不払いを約46万件まで抑え込んだ。
督促申し立ては24都道府県436件に及び、うち267件が支払いに応じた。残る169件は異議申し立てにより訴訟に移行したが、全額支払いを条件とした訴えの取り下げや和解が相次ぎ、簡易裁判所で判決が出た20件でもNHKがすべて勝訴した。
被告側に弁護士がつき、本格的な法廷闘争に発展した初めてのケースとなった今回、裁判所がお墨付きを与えたことで、NHKによる法的措置に拍車がかかる可能性もある。NHKは「今後も訪問や電話などによる支払いのお願いを誠心誠意行い、どうしてもご理解いただけない場合は督促する」としている。【伊藤一郎】
毎日新聞 2009年7月28日 19時54分(最終更新 7月28日 21時50分)