グランドプリンスホテル新高輪(東京都港区)に全国集会の会場使用を拒否された日本教職員組合(日教組)が、ホテルを経営する「プリンスホテル」と同社の渡辺幸弘社長ら役員12人に総額約3億円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は28日、ホテル側に全額の支払いを命じた。河野清孝裁判長は「正当な法的根拠もなく一方的に使用を拒否し、裁判所の仮処分命令にも従わず使用拒否を続けた違法性は著しい」と述べ、謝罪広告の掲載も命じた。ホテル側は控訴する方針。
日教組は07年3月以降、第57次教育研究全国集会(08年2月2~4日予定)全体会の会場使用と190室分の宿泊について契約を交わしたが、07年11月、「右翼活動で利用客や周辺住民に多大な迷惑が及ぶ恐れがある」とホテル側から契約解除を通知された。日教組は解除無効を求め仮処分を申請し、東京地裁、同高裁で認められて仮処分命令が確定したが、ホテル側が使用を拒み続けたため、全体会は中止され宿泊もできなくなった。
判決は「他の利用客に迷惑が生じると認められる証拠はない。予約は成立しており債務不履行は明らか」と指摘。さらに仮処分命令に従わなかった点を「司法制度を無視し著しく違法」と非難し、法人としての賠償責任を認めた。
渡辺社長については「集会が法的に保護されることを知っていながら、悪意で(故意に)職務を怠った」と指摘し、他の取締役も社長への監視義務違反を認定した。
さらに、ホテル側がホームページに「日教組が警察と済ませておくべきホテル周辺の方々、病院、学校などへの事前説明もされていませんでした」などと記載した点を「日教組は警察に警備を要請しており名誉棄損に当たる」と判断。そのうえで「(記載は)違法な妨害行為を助長する誤った内容で、日教組の活動に著しい支障となる危険がある」として毎日新聞など5紙への謝罪広告掲載を命じた。【伊藤一郎】
プリンスホテルの話 住民や利用者のご迷惑を防ぐためにやむなく使用をお断りしたとの主張に触れられておらず、ホームページ上で当社の考え方を述べたことが名誉棄損と認定された点でも納得ができない。控訴の方向で検討したい。
▽中村譲・日教組委員長の話 教職員による教育研究活動の重要性と集会の自由の保障を明確に認めた判決として高く評価している。
日本教職員組合(日教組)の会場拒否問題を巡る28日の東京地裁判決は、いったん成立した予約を一方的にキャンセルし、その後仮処分命令さえ無視した二重の過失を重視して、プリンスホテル側に約3億円の賠償を命じた。判決は社長ら12人の取締役の個人としての責任も明確に指摘しており、今後株主代表訴訟が起きれば、12人が再び賠償命令を受ける可能性もあり極めて厳しい内容と言える。
ホテル側は一貫して「集会を開催すれば住民に多大な損害が生じる可能性があった」と主張した。しかし、日教組は当初から集会への使用を前提に契約を結んでおり、ホテル側は契約を締結しない選択肢もあった。にもかかわらず2000人規模の集会について契約を結び、開催3カ月前になって突如キャンセルしており、判決はこの債務不履行について違法性を指摘した。
加えて判決は仮処分に従わなかった点を重視した。日教組の弁護団によると、集会開催拒否を巡り仮処分を申し立てたのは今回を含めて5件で、いずれも日教組側の申請が認められた。うち4件はこの段階で施設側が命令に従っており、会場使用できなかったのは今回だけという。
異例の対応を巡っては、日教組の刑事告訴を受けた警視庁が3月、同社と渡辺幸弘社長ら4人を旅館業法(宿泊させる義務)違反容疑で書類送検しており、東京地検が捜査中だ。仮処分は司法制度の根幹を成す制度の一つであり、命令に応じなければ民事刑事両面で責任追及される可能性があることが示された。【伊藤一郎】
毎日新聞 2009年7月28日 16時37分(最終更新 7月28日 21時26分)