きょうの社説 2009年7月28日

◎石川県民感謝デー 参考にしたい「隣県狙い」
 立山黒部アルペンルートを運営する立山黒部貫光(富山市)が初めて企画した「石川県 民感謝デー」がスタートした。来月2日までの期間中、石川県民はケーブルカーやロープウエーなどの乗り物を3割引きで利用することができる。気軽に足を運んでもらえる隣県にターゲットを絞った面白いアイデアであり、消費者の「安近短志向」が強まる不況下では有効なのではないか。石川県内の観光施設なども参考にしてほしい発想である。

 立山黒部アルペンルートは北陸を代表する観光地の一つとして知られてはいるものの、 立山黒部貫光によると、石川県民の利用率は決して高いとは言えないのが現状という。そこで、同社は以前から富山、長野県民を対象に実施して一定の成果を挙げているサービスを、石川県向けにも「応用」することにしたわけだ。同社は、石川県からの観光客はまだまだ伸ばす余地があるとみている。

 最近は、政府の経済対策の一環として、遠出の呼び水となる「高速道路1000円走り 放題」が実施されていることもあって、観光関係者の目は、首都圏や関西圏など「遠くの大市場」に向けられがちだ。もちろん、それを狙った取り組みも重要ではあるが、だからといって「近くの市場」を放っておくのはもったいない。

 近隣から来た観光客の場合、宿泊を伴わないことも多く、遠来客に比べれば経済効果は 小さいかもしれないが、数を集めれば、そうしたマイナス面もカバーできるだろう。「市場」が近い分、きめ細かいキャンペーンを展開することもできるだろうし、繰り返し訪ねてくれる「リピーター」も確保しやすいはずだ。

 高速道路の値下げは、遠来客を県内に呼び込む効果が期待できる一方で、近隣の人をよ り遠くの観光地へ流出させてしまう恐れもあることを忘れてはならない。たとえば、夏休みには必ず能登を訪れていた富山県民が、「交通費が安上がりだから」という理由で、より遠くの観光地に行き先を変更するといった事態も起こり得るのである。この点への目配りも欠かさないでもらいたい。

◎遭難が最悪ペース 万全の準備と戻る勇気を
 近年、中高年の登山ブームを背景に、全国的に山岳遭難事故の増加傾向が続いている。 富山県内の北アルプス一帯では、今年も事故件数が過去最悪のペースで推移しており、登山者が多くなる夏山シーズンを迎え、さらなる増加も懸念される状況という。白山などでも油断は禁物だ。

 先ごろ北海道・大雪山系のトムラウシ山と美瑛岳で相次いだ遭難事故は、普段は穏やか に見える夏の山も、ひとたび牙をむけば想像を絶する脅威となって人間に襲いかかることをあらためて教えてくれた。登山者、特に中高年の登山者は、事前準備に万全を期し、場合によっては引き返すという勇気をもって山に挑むことを重ねて求めておきたい。

 準備には、防寒具や非常食、医薬品などを十分に用意することだけではなく、あらかじ めしっかり情報収集して、それに基づいて自分の体力や技術に合った登山計画を立てることも含まれる。とりわけ、中高年の登山者は余裕のある日程を組むよう心掛けたい。「自分は、体力的にはまだ若い」という過信には要注意である。単独での登山を控え、万が一に備えて登山計画を家族らに伝えておくことも必要だ。

 また、中高年の登山者は、平地とはまったく環境が違う高山で激しい運動をしたことが 引き金となって、持病を発病するケースも少なくない。体調面で少しでも不安を感じる点があれば、登山の前に必ず医師の診察を受け、その指導に従ってほしい。

 大雪山系の遭難事故では、悪天候であったにもかかわらず計画を「強行」したガイドの 判断も疑問視された。悲劇を繰り返さないためには、無理な行動を慎むことも大切である。

 中高年の登山ブームを巻き起こす一つのきっかけとなったのは、加賀市出身の深田久弥 の著書「日本百名山」であると言われ、百名山踏破を目標とする登山者も多いという。郷土の偉人の名著が安易な登山を増やす一因になっているのだとすれば、悲しい限りだ。山の楽しさだけでなく、恐ろしさも認識して登山に臨んでほしい。