泥だらけの男約50人が赤褐色の岩壁にホースで水をまき、土砂をスコップでかき分ける。見つけた鉱石をハンマーで割ると、黒い塊が現れた。携帯電話などのコンデンサーに不可欠な希少金属(レアメタル)のコルタンだ。世界中で珍重されるが、アフリカ中部・コンゴ民主共和国では紛争の火種でしかない。
南キブ州ヌンビの集落。一帯では00年に政府系企業が鉱山の管理を始めたが、一部の鉱山は武装勢力のルワンダ民主解放勢力(FDLR)が支配。利権固持のため、政府軍や市民に襲撃を繰り返しているとされる。政府軍のカレラ・バヒンジ少佐(29)は「市民を使い取引をしている。ジャングルでも売買する」と証言した。
周辺ではルワンダの大虐殺(94年)を機に地域紛争が勃発(ぼっぱつ)。国連の報告書によると、武装勢力は地元住民にコルタン鉱石などを不正に採掘させ、ウガンダ、ルワンダなどを介して輸出して、武器調達の資金源にしている。利権の裏で罪のない住民が翻弄(ほんろう)される。
ヌンビでは純度の高いコルタンは政府系企業が労働者から1キロ約20ドルで買い、ゴマの取引所で同60ドルで売り、周辺のウガンダやルワンダに輸出されるという。買い取り価格は00年の同100ドルの5分の1に下落。労働者のザバイウ・カリブシさん(32)は「武装勢力に故郷を追われ、一獲千金を夢見て来たが、思ったほどではなく、生活は不安定。牧畜をしていた昔の暮らしに戻りたい」と話した。
鉱物資源はコルタンだけではない。東部州モングワルの金鉱山マカラ。ペンライトをくわえた労働者が、真っ暗な洞窟(どうくつ)を約30キロの袋を抱え行き交っていた。腰まで水につかり、しゃがみながら約5キロを歩く。中で寝泊まりする者もいる。豊かな大地にうずまく欲望。振り向いた時の無表情な顔が忘れられない。
一帯は政府が管理する05年までの3年間、二つの武装勢力が支配。別の金鉱を掘り当てたウゲン・マボタさん(29)は「売り上げの半分を彼らに渡した」と話す。同州イガバリエの金鉱で出会った孤児アリエル・マペンジさん(10)はプラスチックのたらいで泥水をすくいながら「おばさんの家で暮らしているけど、お金がないから」とつぶやいた。
長引く紛争と利権争い。その現状を報告する。【田中龍士】
==============
災害や戦争、貧困などで苦しむ子どもたちを支援する海外難民救援金を募集しています。郵便振替または現金書留で送金いただくか、直接ご持参ください。なお、お名前・金額などを紙面に掲載しますので「匿名希望」の方はその旨を明記してください。〒100-8051 東京都千代田区一ツ橋1の1の1 毎日新聞東京社会事業団「海外難民救援金」係(郵便振替00120・0・76498)
毎日新聞 2009年7月27日 東京夕刊