わずかに日が差し込む薄暗い病棟のベッドに、うつろな瞳の少女と女性がもたれ合うように腰掛けていた。1カ月前、武装勢力の兵士に強姦(ごうかん)され、治療で入院しているザワディ・イシャラさん(10)と、母のムケシマナ・カロンバさん(28)だ。
コンゴ民主共和国の東部は、恐怖心を植え付ける目的などから武装勢力によるレイプが横行。「子どもと女性にとって世界で最悪の場所」とも言われる。国連人口基金(UNFPA)は08年、毎月平均1300件の性的暴力を確認、65%以上は子どもだった。この親子が入院する北キブ州ゴマのケシェロ医療センター(101床)でも08年、3~80歳の469人が受診した。
イシャラさんとカロンバさんの家がある同州カシェベレが襲われたのは09年5月。銃声とともに軍服姿の男4人がなだれ込み、2人を乱暴した。「大丈夫か」。父ハビ・マナさん(30)が牧場から戻り、震えて動けずにいる2人に声をかけた。道端には、血まみれの隣人たち。イシャラさんが生まれた時に贈り物をくれた女性も息絶えていた。
ギレイン・ヌバマ院長(34)は「子宮を取ったり、命を落とす患者も多い。この親子は軽傷だが、精神的ダメージは深刻だ」と話した。カロンバさんは、人なつっこいイシャラさんが「口数が減った。幸せだった生活を……」と声を震わせた。取材のため、医師に2人を病室から呼び出してもらう時、イシャラさんが突然泣きだした。兵士に連行されると思い込んだという。
被害者が家族から拒絶されるケースも珍しくない。この病院でも何人もの女性が離婚された。それだけに、2人の退院を避難民キャンプで待つマナさんの存在は大きい。カロンバさんは「彼が支え」、イシャラさんは「将来はお父さんみたいに牧場を経営したい」と初めて笑顔を見せた。
しかし、イシャラさんのまぶたは半分閉じたまま。そして、ふと、つぶやいた。「この国にいる限り、幸せはない。どこか遠くの国に行きたい」【田中龍士】
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毎日新聞 2009年7月28日 東京夕刊