お笑いコンビのオードリーが自身初の単独DVD「オードリーDVD」を出した。今や、この顔を見ない日はないと断言できる人気者。「TVでは見られないオードリーが見られる」という本作で、“鎖を解かれた野獣”とその使い手にインタビューした。
春日に生まれてきたら勝ちだよね
撮影・蔦野裕
今、もっとも熱いお笑い芸人をあげるならオードリーは外せない。ピンクのベストがトレードマークの春日俊彰と若林正恭の2人組だ。春日が発する周りを引かせるほど自信たっぷりな物言いを、若林がテンポ良く笑いにすり変えていく漫才で、昨年行われた「M-1」では敗者復活戦から決勝トーナメントに進み、準優勝。その勢いで今年は年初からひっぱりだこだ。
追い風が吹くなか、先日、DVD『オードリー DVD』をリリースした。「ここに、野獣が鎖を解き放たれたわけです」と、春日。
若林「……というのは、僕らお坊ちゃま気質っていうか、荒さがあまりない人間なんで、大御所や先輩とか一緒になると、きゅっと萎縮しちゃうんです。向いてねーじゃねーか、っていう話になっちゃうんですけどね(笑)。それが、単独ライブとなれば、鎖も縄もついていないですから、もう走り回ります! テレビではカットされることが多いアドリブや横道にそれた部分も見せられるし。僕は、春日さんの思いもよらぬミスやアドリブが好きなんです。DVDには、春日さんのアクシデントで、4分間のネタが7分になったものが収録されています」
オードリーにはかっちりとした台本がない。若林が設定したガイドに沿って即興ネタをやりながら具体的な形を作る。そのせいか、春日の頭には本番でもふわっと何かが浮かんでくる。
春日「なんといいますか、“困らせたい”っていうのが大前提としてあるんですね。ネタの前はそういうのはないんですが、始まると“今、これを言ったらどうなる”とか、“困るんじゃないか”とかいうものが浮かんでくるんです。それを言ってしまうのは、ウケたいというよりも興味なんです。どうやって対処するのかっていう、ね」
若林「それで反応が起こればいいんですけど、春日さんだけだと、客席にでっかいクエスチョンマークが生まれますから、それをあたふたしながら僕が拾いに行く。それがおもしろさでもあるんですけど、どこまで進んだか忘れてしまったりして、イラっとすることもありますね。例えば、鬼瓦の一発ギャグ。僕は少しもおもしろいと思わないし嫌いなんですけど、それを入れてほしくないところで入れてきたりすると、自然とたたき方が強くなります」“放牧状態”のDVDで、興味本位の発言やアクションをさく裂させる春日。「ライオンは檻に入れておけない。サバンナにいるときが一番生き生きしているわけです」と自信たっぷりだ。若林はそれを片目で見て、「ときどきむちゃぶりすると、ハムスターみたいな顔をするけどね」と、ニヤリ。いいバランス、いいコンビだ。
若林「同じ人種じゃないと思ってるから、お互いに深入りしないし、できないので、彼の感受性とか、価値観とかに興味がないんです。見た映画とか、話題の小説をどう思ったかって、まったく聞く気も起きないし。そんなだから、ずっと一緒にやってこられたのかなって思います。だから何となく、“仲がいい”っていうのは違う。この間、相方大好き芸人で『アメトーク』にも出て分かったんですけど、僕は面白いおじさんとして春日が好きなファンなんです。全速力の自転車から飛び降りてみてっていったら飛び降りてくれる、そんなの春日さんしかいない」
春日「春日の場合は、若林くんに限らず、他人に興味がないんですな。春日がどうなるのかっていうのが楽しくてしようがない。K-1に出場したのも春日がどうなっちゃうの?って思ったからなんです。普通の人間が3カ月練習したぐらいでリングに上がったらどうなるか、それを見せたいと思いました。だからこれからも日本の国民に、人間はこうなるっていう様を見せていきたい。そういう様を見てもらって笑ってもらえれば幸せですね」
「春日に生まれてきたら勝ち。売れてなくても、生きてて幸せだし」と、若林はしみじみと言う。「この間、1年後2年後が心配になって、オードリーってこれからどうなるんだろうって聞いたんですよ。そしたら、『死に向かって進んでます』と。そりゃ、生きとし生ける者すべてがそういう宿命のもとに生きてるって。自分が話し合いたい主題とあまりにもずれていたんで、ああそうだねってそのまま寝ました」
春日「まあ、この瞬間も死に向かっているわけですからね。それは否定できないわけで、ちょこちょこしてもしようがない。それまで時間をどう使うか、どう楽しむかでしょう」
最強のコンビ、オードリー。彼らがいる限り、日本から笑いは絶えない。
(本紙・酒井紫野)
DVD 『オードリー DVD』
数々のヒットネタのなかから、オードリー自らが厳選。漫才「親孝行」、漫才「転校生」、コント「スタイリスト」などを収録。彼らの高校生時代をほうふつさせるネタもある。特典映像に「春日にお金を使う楽しさを知って頂こうプロジェクト」 など。CCREより発売中。3990円(税込)