クラシックのコンサートは6月〜7月でシーズンを終え、秋から新しいシーズンが始まるというのが慣例だ。7〜8月は国内・海外ともに音楽祭シーズンを迎えるわけだが、長期間にわたって毎年留守にするわけにもいかないから、やむなく東京でおとなしく過ごすことになる。だが、音楽会が少ないこの時期の不満を、今年は別の方法で解消することができた。インターネットの恩恵である。
年初からシーズン契約したベルリンフィルの「デジタルコンサートホール(以下DCH)」のアーカイブには、2008/2009年の計30回分の演奏会が保存されているのだが、まだすべてを見終えたわけではない。
7月と8月は、昨年9月まで遡って、まだ見ていないプログラムをじっくり楽しむことにしようと考えていたのだが、そんなとき、ベルリンフィルからメールが到着した。「来シーズンの契約をすると、2009/2010年の約30回に加え、2008/2009年の30回のコンサート記録も何度でも見られます。しかも7月末までに契約すれば10ユーロの割引付き!」。絶妙のタイミングでの、なかなか巧みなオファーだ。
年度末(8月末)で昨シーズン分が見られなくなるから見落としがないようにと思っていたのだが、あと1年見られるなら、急ぐ必要はない。早速更新手続きをする。
2年目を迎えて初めてフルシーズンでライブとアーカイブが見られることもあり、シーズン契約は正規料金の149ユーロ(10ユーロの割引で実質139ユーロ=約18500円)になった。60回分のコンサートが好きなときに何度でも楽しめてこの価格なら、けっして高くない。というより破格の安さといっていいだろう。昨年のユーロ高のときはともかく、最近のレートでは特に割安感がある。
来シーズンのプログラムの大半はすでに公開されているが、ざっと眺めても見逃せない公演がたくさんある。ラトル指揮のコンサートをピックアップしただけでも8月末の幻想交響曲を皮切りに9月:ハイドンのオラトリオ《四季》、2月〜5月:シベリウス交響曲全曲と内田光子の独奏でベートーヴェンのピアノ協奏曲全曲、4月:バッハ《マタイ受難曲》など興味深いプログラムが予定されているし、コープマン、バレンボイム、小澤、アバドなどおなじみの顔ぶれも続々登場予定だ(詳細は
http://dch.berliner-philharmoniker.de/#/en/の「Live Concert」の項を参照)。
自宅でDCHを楽しむときの環境は少しずつ変化しているが、音声は一貫してパソコンとUSB-DACの組み合わせが中心だ。パソコンは2年前のMacBookをほぼDCH専用に使用。限界ぎりぎりのスペック(Core 2 Duo 2GHz、メモリ1GB)にも関わらず、最上位のレートでも映像はなめらかで途切れはない。ただし、パソコンからPDP-5000EXやDLA-HD100にDVI接続した状態では映像が僅かに遅れるため、AVアンプ側で音声に10ms前後のディレイをかけている。
これまで使ってみたUSB-DACのなかでは、Ayre「QB9」(
関連ニュース)が情報量の豊かさと重心の低さで別格の性能を発揮。これだけ音がいいなら、パソコン音源専用に導入してもいいと思わせる説得力がある。DCHはいずれロスレス音源の導入も視野に入れているらしいので、そのときには迷わず導入することにしよう。
USB-DAC専用機ではないが、NuForceの「Icon」(
関連ニュース)はいろいろな場面で役に立つ存在だ。パソコンと組み合わせるときはUSB-DAC+プリアンプとして使っているが、持ち運びが苦にならないサイズなので、出先でのちょっとしたデモなど、小型スピーカーと組み合わせた用途にも重宝する。USB-DACとしては周波数バランスの良さと中低域の密度の高さが特徴。筆者は、ホームシアターのイベントなど暗室環境にも溶け込むブラック仕上げを選んだが、シルバーやブルーも質感が高く、お薦めできる。
DACではなくDDコンバーターだが、LINDEMANNの「USB-DDC」(
関連ニュース)も音の良さで推薦に値する。ポケットに入るサイズでバスパワー駆動という手軽さにも関わらず、透明感が高くしなやかな音を再生し、組み合わせるDACを選ばない。AVアンプとの組み合わせなど、手軽なシステムでも一気にPCオーディオの音質改善が狙える点が良い。自宅ではDCHだけでなく、ナクソスミュージックライブラリを再生するときにも常用している。
これまではUSB関連のオーディオ機器にそれほど強い関心はなかったのだが、ベルリンフィルが立ち上げたプロジェクトのおかげで、いろいろな製品を試す機会が増えている。DCHの思わぬ効用の一つだ。