景気の底打ち感が広がる中、政府が公表した2009年度の年次経済財政報告(経済財政白書)は早急に景気が回復しないと、さらに大規模な失業者が出る恐れがあることを指摘した。
その根拠として、余剰人員となっている「企業内失業者」の推計数を示した。生産に見合った最適な雇用者数と実際の常時雇用者数の差である。
08年1〜3月期では最大38万人だったが、一年後の09年1〜3月期には最大607万人に膨れ上がった。昨年秋の金融危機による急激な景気悪化の影響だ。実に16倍も増加しており、驚くべき規模といえる。
1980年以降で最悪の数となった。バブル崩壊後もこんなことはなかった。もし607万人が職を失えば、完全失業率は約14%まで跳ね上がるという。
あくまで計算上の話だが、想像しただけで恐ろしくなる。
企業内失業者の増加からは、労働時間の短縮や休業などにより、できる限り解雇者を出さないようにしている企業の姿がうかがえる。雇用を維持した企業に支払われる雇用調整助成金の拡充も奏功していよう。
白書は企業の姿勢を評価するが、社会問題化した派遣切りなどで雇用の調整弁に使われたとされる非正規労働者の存在を忘れてはならない。正社員の雇用は彼らの犠牲の上に成り立っている側面があるからだ。
今後の見通しについて、白書は時短など雇用維持の対策は限界に近いと分析する。生産が早期回復しないと、大量の失業につながると警鐘を鳴らす。
対策に関しては、景気回復の重要性を強調するのにとどまり、具体的な方策は示さなかった。解決策を明示するのは容易でないことは分かるが、物足りなさを感じざるを得ない。
雇用問題に関連して、白書が憂慮したのは格差拡大の実情である。非正規労働者の増加などで賃金格差の広がりが続いていることを指摘した。
雇用者1人当たりの年収は、300万円未満の層が97年には全体の43・6%だったが、07年には50・2%と過半数に達した。不況の深刻化で、その後も賃金格差は拡大しているという。
失業者の増加懸念や格差拡大問題にどう対応すればよいのか。方向性としては、高齢者介護や環境分野など新たな雇用の受け皿拡充や、職業訓練制度の充実などが考えられる。
折しも衆院選が事実上スタートしている。社会全体で議論を深め、早急に有効な具体策を煮詰める必要がある。
大手スーパーのイオンが農業に参入することになった。9月から茨城県内の農地を借りて野菜生産に乗り出し、自社の店舗で販売する。閉鎖的だった農業分野も規制緩和が徐々に進み、これから企業の農業参入は一段と加速する可能性が高い。
企業の農業進出をめぐっては、既にイオンのライバルであるセブン&アイ・ホールディングスや居酒屋チェーン、食品メーカー、建設会社などが相次いで農業を始めている。
企業が農業を新たなビジネスチャンスととらえる理由はいくつかある。まず農家の高齢化や担い手不足による農産物供給の不安定化が挙げられる。
食の安全にまつわる問題も大きい。特に食品関連の企業では、生産段階から履歴のはっきりした商品を扱っている点をアピールできるメリットがある。
コスト問題も重要だ。農協や青果市場などを経る既存の流通ルートではさまざまな経費がかかり、日本の農産物の価格が高い一因になっている。自社で生産から小売りまで手掛けることでコストが省け、価格を抑えられる強みが生じる。
耕作放棄地の増加など農業基盤が弱体化する中、国も企業の農業参入を容易にする環境を整えてきた。今年6月には農地法を抜本改正し、農地の貸借を大幅に自由化した。
これに対し、農家や農協などの間では企業の参入を嫌うムードが根強い。経営圧迫の懸念などがあるからだ。しかし、後継者難などを考えると、担い手多様化策の一つとして企業の参入促進は必要だろう。
農業経営が軌道に乗った会社では、地域の雇用創出につながる例がある。農家の栽培ノウハウは畑違いの企業にとって貴重だ。互いが融和する形で農業活性化につなげてもらいたい。
(2009年7月27日掲載)