<第10回> <第11回> <第12回>


<第10回>
 「一週間後の全国模試を生徒と一緒に受けて下さい」。内山田教頭(中尾 彬)の前で、鬼塚(反町隆史)はポカンと立ち尽くしていた。本当に鬼塚先生の知性や教養面は大丈夫なのか。証明してほしいと父兄からの問い合わせが殺到しているという。しかしこれは真っ赤な嘘。教頭以下、中丸(近藤芳正)、小谷(円城寺あや)、袴田(小林正寛)、勅使川原(井田州彦)が示し合わせて鬼塚を学校から追い出す作戦なのだ。鬼塚はおだてられて大見得をきってしまった。「アタマ(1番)を取ってやりますよ」。もし平均点を下回るようなことがあれば、教師を辞めなければならない。
 教頭らの企みに気付いた冬月(松嶋菜々子)は怒った。ところが試しに去年の問題を鬼塚に解かせてみると、平均点どころか劣等生なみの出来。鬼塚は無理やり冬月の部屋に連れてこられた。「これから1週間、あたしの部屋に泊まり込みで勉強してもらいます。女の意地にかけても、あなたをクビになんかさせないわよ」。冬月はソワソワしている鬼塚をよそに意気込んでいた。
 鬼塚の模試を心配しているのは冬月だけではなかった。「このままじゃ絶対クビだよ」。不安なナナコ(希良梨)はケンジ(徳山秀典)、マサル(山崎裕太)と共に、試験用紙を盗み出そうと深夜の職員室に忍び込んだ。ところが袴田の待ち伏せにあって、まんまと失敗。間一髪のところを助けてくれたのは菊地(窪塚洋介)だった。菊地はパソコンのネットワークを使って試験問題を盗み出そうとするが、今度は勅使川原に邪魔されてしまった。
 そのころ、クラスメートから孤立して不登校を続けるみやび(中村愛美)は、死んだ恋人によく似た青年に出会った。藤堂真一(松尾政寿)。都内で最高の偏差値を誇る高校で、しかも成績トップの優等生。父親は文部省に勤めているという。「同じ学校だったら、みやびちゃんにもっと早く会えていたのに」。優しさに飢えていたみやびは、一目で真一に夢中になった。しかしみやびは気付いていなかった。真一はかかってきた携帯電話にゾッとするような残酷な笑みを浮かべてこう答えていたのだ。「ゲームが始まったよ」。
 鬼塚は冬月の部屋をこっそり抜け出した。とにかく睡眠時間を削ってまでの分刻みのハードスケジュール。問題が解けないと食事抜き。禁煙で、しかもスタミナドリンクを次々と飲まされる。自分のアパートに帰ってみると、家出してきた良子(立石凉子)と好子(馬渕英里何)の母親が居座ったまま。しかもそこへ内山田までやって来て大騒ぎ。「貴様は娘ばかりか、妻にまで手を出すつもりか!」。鬼塚はまたもや逃げ出した。
 鬼塚がカフェで一息ついていると、みやびと真一に出くわした。「みやびの担任の鬼塚です。君、僕の代わりに模試を受けてくれないかな」「噂どおり、ユニークな先生だね」。真一はそつのない対応で笑顔を絶やさなかった。「もう行こう、こんなの放っといて」。みやびは足早に真一と去って行った。鬼塚は2人の後ろ姿を見送りながら釈然としなかった。さっき真一は残酷な微笑みを浮かべながら、テーブルの上のテントウ虫を押しつぶしていたのだ。
 「アイツと付き合うのは辞めた方がいいよ」。帰宅したみやびを村井(池内博之)が待っていた。昼間、村井はテニスコートでデートしている2人を目撃した。傍目にはアツアツぶりしか見えなかったが、村井は真一の男友達が「今度の犠牲者はあのコらしいぜ」、と話しているのを聞いてしまった。
 村井はみやびに忠告するが「もうこれ以上あたしに付きまとわないでよ」。と、みやびは村井の言葉に聞く耳を持たなかった。
 胸騒ぎを覚えた村井は鬼塚に電話した。「ごめんね、今ちょっと手が離せないの」、と電話に出たのは冬月。ナナコや菊地の一件を聞いてから、鬼塚は別人のように勉強に打ち込んでいたのだ。必死に問題集に取り組む鬼塚は、急速に正解率を上げつつあった。
 そのころ、みやびは真一に深夜の遊園地に連れてこられた。「休みなんじゃない?」。その瞬間、ライトに浮かび上がった乗り物が一斉に動き出した。「父に頼んで貸し切りにしてもらったんだ」。
 みやびは夢見気分でうっとりとした。コーヒーカップに乗って、楽しそうな2人。真一がみやびの体を引き寄せた。目を閉じるみやび。と、深夜十二時になった瞬間、すべての乗り物は止まり、あたりは暗闇に包まれた。「みんな、悪いな。俺の勝ちだ」。真一が笑い出すと、周囲から真一の男友達が姿を現わした。「こいつらと君を落とせるかどうか、賭けていたんだよ」「冗談でしょ」。みやびは絶句した。「あとはお前らの好きにしろよ」。真一の男友達がみやびに近づいてきた。

<第11回>
 真一(原田 篤)に刺されて面会謝絶の続いていた鬼塚(反町隆史)がようやく意識を回復した。つきっきりで看護していた冬月(松嶋菜々子)が安堵したのもつかの間、学校へ行こうとする鬼塚を制止するのに必死。「学校のほうはあたしが何とかしますから、あなたは体を直すのに専念して下さい」。と張り切る冬月の気持ちがうれしくて思わず微笑する鬼塚。和やかなムードになった病室に、みやび(中村愛美)と村井(池内博之)が血相を変えてやって来た。「学校が大変なんだ」。真一の父親で文部省の高級官僚でもある藤堂真人(篠井英介)が聖林学苑に乗り込んできた。「今回の事件の責任はどう取るつもりですか」。学校のとりつぶしまでちらつかせる藤堂に対して、内山田教頭(中尾 彬)以下、教師たちはすっかり舞い上がっていた。鬼塚の言い分がどこまで聞き入れられるか。「大丈夫だよ。あたしがママに頼めば、なんてことないから。絶対に先生のこと守ってあげるから」。みやびの言葉に鬼塚はつかの間、傷の痛みを忘れた。  職員会議の結論は予想どおり。鬼塚1人に責任をかぶせてクビにすることでまとまった。「鬼塚先生は教え子を守ろうとしただけです。これじゃトカゲのシッポ切りじゃないですか」。冬月は内山田にくってかかったが、応援してくれるのが藤富(沼田 爆)だけでは話にならない。一方、みやびはPTA会長でもある母親の麗子(田島令子)に鬼塚を守ってくれるよう頼んだ。「分かったわよ」。麗子は娘の頼みを二つ返事で聞き入れてくれた。  ところが当の鬼塚はまだ安静状態だというのに、看護婦にちょっかいを出したり、病室に入院患者を集めてギャンブルざんまい。見舞いに来たナナコ(希良梨)やのぼる(小栗 旬)も呆れ返ってしまった。教え子たちに囲まれてゴキゲンの鬼塚を隣りの病棟から真一が望遠鏡で覗いていた。「自分の置かれた立場が分かっているのか。こうなったら社会的制裁を受けてもらうよ」。真一は病室に備えたFAXにマスコミ向けの怪文書を流し始めた。  翌朝、聖林学苑にマスコミの取材陣が殺到した。「とにかくアイツらを追い出すんだ」。内山田はパニック状態。「とにかく退院するまで鬼塚先生を信じて待ちましょう」。桜井理事長(白川由美)の説得も舞い上がった内山田の耳には届かなかった。事件は麗子がコメンテーターとして出演するワイドショーでも取り上げられた。 「頼むわよ、ママ」。テレビの画面を食い入るように見つめるみやび。しかし彼女の期待は裏切られた。麗子は鬼塚のことを暴力教師と決めつけた。みやびは知らなかったが、麗子は藤堂から圧力をかけられていたのだ。  職員室の電話はマスコミや保護者からの問い合わせで鳴り止まない。「分かりました。私が会見します」。ついに内山田がマスコミの前で記者会見を開くことになった。しかしリポーターの厳しい追及にうろたえるばかりで、結局火に油を注ぐ結果となった。そのころ、菊地(窪塚洋介)と村井は真一に詰め寄っていた。「オレは鬼塚を守るためなら何でもやるつもりだからな」。村井の覚悟に真一は動揺の色をのぞかせた。冬月は藤堂の家へ向かった。「今回の事件はすべて息子さんに責任があると思っています」「文部省で責任ある地位についている私に説教するつもりですか!まったく信じられん」。と、結局は門前払い。冬月は自分の無力さが情けなかった。  その夜、内山田の家に藤堂から電話がかかってきた。「実は事態を収拾する方法がひとつだけあるんです。聞いていただければ、あなたはすぐにでも校長ですよ」「私にできることでしたら」。内山田は声をひそめた。数日後、緊急の全校集会が開かれた。そして鬼塚解雇のために仕組まれていたのは・・・。

<第12回>
 文部省の高級官僚の藤堂(篠井英介)は神南学園の神村理事長(北見敏之)と結託して、聖林学苑を神南学園に吸収合併することに成功した。桜井理事長(白川由美)は解任、教師は全員解雇された。校舎は1週間後に取り壊し、運動部の専用グラウンドになるという。「話が違うじゃないですか、藤堂さん」。藤堂から校長のイスを打診されていた内山田教頭(中尾 彬)もようやく利用されたことに気づいたが、すべては手後れだった。
 一方、冬月(松嶋菜々子)は念願だったスチュワーデスの試験に合格し、連日研修で絞られていた。しかし喜びはなかった。頭の中にあるのは学校のこと、そして鬼塚(反町隆史)のことだった。「いったい何やってんだろ、あんな体なのに」。当の鬼塚は、昼間は村井(池内博之)の母親に紹介してもらったトラック運転手、そして夜はたこ焼の屋台で汗を流していた。2年4組の教え子、ナナコ(希良梨)たちは鬼塚のクビを撤回させようと授業のボイコットを続けており、その動きは全校生徒に広がっていた。けれど鬼塚の反応は冷ややかだった。「悪いけど、忙しいんだよ俺」。教え子たちの期待も空しく、鬼塚はどうやら教師という職業に未練はないらしい。「このまま学校がどうなってしまってもいいんですか!」。冬月も鬼塚に迫ったが、返事は「関係ないでしょう、もう教師じゃないんだから」。と、もう完全に気持ちは聖林学苑から離れてしまったらしい。
 そんなことを知らない村井や菊地(窪塚洋介)、みやび(中村愛美)は真一(原田 篤)の前で土下座していた。「頼む、お父さんに頼んで鬼塚を学校に戻してほしいんだ」。さすがに真一も動揺の色を隠しきれなかった。「君らが登校していない間に、事態はもっと深刻になっているんだよ」。神南学園との吸収合併は3人にとって寝耳に水だった。そして真一ですらあまりに卑劣な父親のやりかたに憤りを感じていた。
 ついに聖林学苑の取り壊しが始まった。次々とブルドーザーとトラックが校門を通っていく。新たに理事長に就任した神村が、満足そうに建設業者に指図している。
「それじゃ始めて下さい」。その時、物凄いクラクションを鳴らして1台のトラックが校庭に突っ込んできた。運転席から降り立ったのは鬼塚だ。そして荷台のカバーの下から現れたのは2年4組の面々。ア然とする神村たちに向かって、鬼塚はニヤリと笑った。
 同じ頃、とある居酒屋に聖林学苑を解雇された教師たちが顔をそろえていた。中丸(近藤芳正)、小谷(円城寺あや)、袴田(小林正寛)、勅使川原(井田州彦)、藤富(沼田 爆)。コネを使って神南学園に再就職が決まったのは勅使川原だけ。あとのメンバーは新しい仕事が見つからない。どの顔もショボくれて、口をついて出てくるのはグチばかり。ささいなことでまた口論になりかけた矢先、店内のテレビを何気なく見ていた藤富の顔色が変った。「大変ですよ、うちの学校が!」。リポーターが聖林学苑の前から生中継している。「あの暴力教師が今度は教え子たちを煽動して校舎に立てこもっています!」。と、鬼塚と2年4組の生徒達の立てこもりを伝えた。
 スチュワーデスの実習の終わった教室で、冬月もテレビの画面にクギづけになっていた。そして、冬月は血相を変えて教室を飛び出した。


戻る


[第1-3回][第4-6回][第7-9回][第10-12回]