<第7回> <第8回> <第9回>


<第7回>
 夏休みは残り2週間。鬼塚(反町隆史)は焦っていた。夏は恋の季節だというのに、このままだと今年も初体験はお預け。「女子高生と援助交際でもすんだな」。冴島(藤木直人)にからかわれて、冬月(松嶋菜々子)をデートに誘ってみることにした。「どうしようかな」。冬月はうれしさを悟られまいと気をもたせたが、結局は誘いに応じた。
 吉祥寺のお洒落なカフェ。冬月は真面目に村井(池内博之)とみやび(中村愛美)のことを相談しようとするのだが、鬼塚の頭の中には冬月とエッチすることしかない。「まったくあなたって人は!」。いつものごとく冬月を怒らせてしまった。
 2年4組の授業ボイコットを陰であおっているのが村井とみやび。ある事件がきっかけで2人は教師をまったく信じなくなっていた。
「もしかしたら鬼塚なら信じれるかも」。度胸試しで負けた村井はそんな気持ちになりかけていた。しかしみやびは違った。「鬼塚なんかに騙されてんじゃないわよ!。教師なんてみんな一緒よ」。
 村井の動揺にみやびは不安を覚えた。いつものように知佳子(白川みなみ)とえりか(林 知花)を連れてウインドショッピングをしていると、理科担当の中丸(近藤芳正)の姿を見かけた。営業マン風の男2人から頭を下げられてニヤついている。教頭の内山田(中尾 彬)の前でペコついているふだんとは、まるで別人のようだ。
 「あれ、うちの親父なの」。知佳子は憎々しげにつぶやいた。2人組の年配のほう。いかにも実直ながら、うだつの上がらないタイプ。それが知佳子の父親、卓三(高橋克実)。学校の教材やテキストの営業マンだった。
 聖林学苑では2学期から新しいテキストを購入する。その選定を任されたのが中丸。「どうか先生のお力でうちのテキストをよろしく」。キャバクラに接待されて中丸はゴキゲン。卓三の部下、山田(水谷あつし)におだてられて大いに盛り上がっている。いくら仕事とはいえ、真面目な卓三の胸中は複雑だった。
 「なんかムカつくな」。父親の卑屈な姿を見てしまった知佳子はイラついていた。
 「じゃあ、援交でもやろっか」。みやびの誘いに知佳子とえりかは驚いた。「ウリはヤバいよ」「バカね、貰うもん貰ったら逃げればイイじゃない」。みやびとえりかは相手の男からお金だけを奪って、ホテルから逃げ出してきた。しかし知佳子だけは気乗りしなかった。「あたし達、何するのも一緒だって誓ったはずでしょ」。みやびにそう言われると、知佳子は断りきれずテレクラに電話をかけてしまった。
 相手はTVドラマの脚本家だという。ところが待ち合わせ場所にやって来たのは、なんと鬼塚だった。「知佳子!」「援交のどこが悪いのよ」「なるほど、お前の言うとおりだ」。何を思ったか、鬼塚は知佳子をファッションホテルに連れ込んだ。いきなり知佳子をベッドに押し倒す鬼塚。「駄目だ、できねえ。こんなことしたら、本当に好きな奴とやる時、心から喜べなくなってしまう」。鬼塚のピュアな気持ちは知佳子にも痛いほど伝わった。2人は何事もなくホテルを出た。その様子が中丸に目撃されてしまった。中丸はキャバクラで声をかけた女の子を連れ込もうとしていたのだ。物陰に身をひそめた中丸はニンマリと忍び笑いをもらした。
 翌日、鬼塚と知佳子は職員室に呼び出された。「私は君たちがホテルから出てくるところを見たんだ」。中丸は勝ち誇った表情で言った。「あれは一種の課外授業ですよ。こいつと2人で愛と性について語りあっただけですよ」。鬼塚には恥じる様子はみじんもなかった。「知佳子、お前も何か言ってやれよ」。しかし知佳子の口から飛び出してきたのは、思いがけない言葉だった。「あたし、鬼塚先生に無理矢理襲われました」。鬼塚は絶句した。そして、なぜか一言の釈明もしなかった。

<第8回>
 知佳子(白川みなみ)とえりか(林 知花)は職員室に呼び出された。いつも威張っている内山田教頭(中尾 彬)と中丸(近藤芳正)が神妙な顔でかしこまっている。「この2人は援助交際したそうですね」。決めつけてきたのはPTA会長の相沢麗子(田島礼子)。2年4組の授業ボイコットをあおっている相沢みやび(中村愛美)の母親だ。「しかも相手は担任教師とか!」。「鬼塚先生は何もしていません」。と知佳子たちの言葉に麗子は耳を貸そうとしなかった。
 翌日夏休みにもかかわらず、麗子は緊急PTA役員会を招集した。 「PTAの総意として、2人の生徒は退学、鬼塚先生も即刻解雇するよう学校に要求します」。事情の分からない保護者たちをうまく丸めこんだ。「皆さん、これには深いわけがあるんです」。冬月(松嶋菜々子)は必死に弁明しようとするが、麗子に「あなたの口出しする問題じゃない」とぴしゃり。管理能力を問われた内山田がかばってくれるわけがない。それでなくとも娘の好子(馬渕英里何)が鬼塚とつきあっていると知ってからは、憎しみも倍増。ところが当の鬼塚(反町隆史)には危機感がまったくない。「2人とも反省したから大丈夫ですよ」。しかし今回ばかりは大丈夫で済まされるはずがなかった。
「こういう子はすぐまた非行を繰り返すんだ」。内山田教頭は知佳子とえりかに退学を言い渡した。「なんでPTAのババアの話は聞くのに、俺たちの話は聞かないんだ!」。鬼塚は食ってかかったが、知佳子とえりかは、「こんな学校、未練ない」。と学校を去って行った。解雇は時間の問題だ。心配のあまり、冬月は鬼塚のアパートをたずねた。「相沢みやびと話してみたらどうですか?」。彼女が母親に告げ口したのは間違いない。しかし鬼塚は電話で誰かと遊ぶ約束をしている。冬月は「勝手にクビになればいいです」と怒って帰っていった。
 鬼塚が約束したのは知佳子とえりかだった。「あたし達と遊んでいる暇なんてあんの。自分もクビになっちゃうんでしょ」。鬼塚は陽気に笑い飛ばした。「気にすんな。夏も終わりだし、楽しまなきゃ」。ゲーセンで盛り上がる3人。ファミレスでは腹いっぱい食べた。知佳子もえりかもゴキゲン。それでも明日から新学期だと思うと、ふと寂しげな表情がのぞいた。もうクラスメートと一緒に授業を受けることはできないのだ。「あたし、どっか遠くに行きたい」。知佳子がぽつりとつぶやいた。「よし、連れていってやるよ」。鬼塚は冴島(藤木直人)に連絡を入れた。
 その頃、冬月はみやびの家をたずねていた。鬼塚のいい加減さには呆れ返るが、やはり黙っているわけにはいかない。「お願い、お母さんや教頭先生に本当のことを言って」「鬼塚さえいなくなれば、あたしはそれでいいの!」。みやびの語気の激しさに冬月はたじろいだ。みやびの家を辞した冬月は村井(池内博之)と出くわした。「どうして彼女は教師を信用しようとしないの?」。村井は重い口を開いた。
 みやびはかつて野球部のエースだった猛とつきあっていた。甲子園間違いなしと言われるほどの選手だったが、肩を故障した途端、あれほどチヤホヤしていた学校側がコロリと態度を一変させた。無理矢理に転校させようとしたのだ。「野球のできない猛なんか、用なしってわけ」。グレた猛はバイクを暴走させて事故死した。「みやびだって、あの事件があるまでは誰にでも優しかった。俺は昔のあいつに戻ってほしいんです」。村井はつらさをこらえて打ち明けた。
 鬼塚は冴島のパトカーに乗せて、知佳子とえりかをとある場所に連れてきた。「イイって言うまで目を開けるなよ。よし、イイぞ」。2人の目に飛び込んできたのは、抜けるような青空と白い雲。タネを明かせば、公園の池のボートで仰向けになっていただけ。「俺も昔ムシャクシャした時なんか、ここへ来て、空を眺めていたんだ」「知らなかった、こんな近くにこんな場所があるなんて」。いつしか知佳子とえりかの表情は穏やかになっていた。
 ようやく鬼塚を学校から追い出せるとあって、風呂上がりの内山田は鼻唄まじり。ところがその上機嫌も長くは続かなかった。娘の好子が明日デート。しかも相手はあの鬼塚。「バカ!」。内山田はいきなり娘を平手打ちした。「あたし出ていく」。好子は荷物をまとめて家を出ていった。「鬼塚がいるかぎり、私の人生はメチャクチャだ」。内山田は頭をかきむしった。
 夏休みが明けて、2学期初日。会議室で事情を説明しているのは内山田。「よって鬼塚先生は懲戒解雇。大島知佳子と月島えりかは退学処分。なお、このクラスの担任は当分の間、私が代行します」。うれしそうなみやび。複雑な村井。「2度とこんなことがないようにして下さい」。麗子も勝ち誇ったようにまくしたてた。その時、校庭に3つの人影が現れた。鬼塚が知佳子とえりかを引き連れて近づいてくる。しかも
2人は制服を着ている。「な、何をやってんだ、あいつは」。血相を変える内山田。やがて鬼塚たちは、2年4組の教室に入っていった。

<第9回>
 聖林学苑に教育委員会が視察にやって来ることになった。「我が校の素晴らしさをアピールする絶好のチャンスです」。PTAの信頼を失ったばかりの内山田教頭(中尾 彬)は名誉挽回に燃えていた。「頑張りましょう」。同僚教師たちもなぜか一致協力して、本番に備えて予行演習に余念がない。そのハイテンションぶりに冬月(松嶋菜々子)と藤富(沼田 爆)だけはついていけない。そして鬼塚(反町隆史)には内山田が最初から視察のことを知らせていない。
 その鬼塚は2年4組の授業ボイコットを回避させたのもつかの間、野村朋子(黒田美樹)から思いがけないことを打ち明けられた。「あたし、学校を辞めたい」。有名芸能プロにスカウトされて、沖縄の養成スクールに入るよう誘われている。「どうしたらいいかな、先生」未だ決めかねている朋子。「そりゃ、やるっきゃねえだろ」。鬼塚は二つ返事で大賛成。しかし両親は猛反対。そこで説得するつもりで冬月と共に両親を訪ねるが「あいつにアイドルなんか無理。だいたいオーディションを受けさせた先生が悪いんですよ」と逆に叱られる始末。「高校を卒業してからでもアイドルになるのは遅くないはずよ」「そういうのをハネのけてこそアイドルになれるんだよ」。いつしか朋子そっちのけで、鬼塚と冬月は口論を始めていた。
 朋子はみやび(中村愛美)にも相談してみた。みやびはPTA会長の母親の一件以来、2年4組のクラスメートから総スカンをくって孤立していた。「あんたみたいにトロいのが沖縄に行っても、1人きりで何ができるっていうの!」「そうだよね、やっぱり頼りになるね、みやびちゃんって」。みやびはただ思ったことを口にしただけ。しかしみやびのことを信頼しきっている朋子は、その一言で沖縄行きを諦めることにした。まずは高校を卒業してから考えてみようと。
 「それに学校辞めたら友達いなくなるし。うちのクラスって、先生のおかげでとっても楽しいし」。ところが朋子から打ち明けられた鬼塚は血相を変えた。朋子を彼女の部屋に力づくで連れ帰ると、旅行カバンに衣服を詰め込んだ。「家出するんだよ。日本一のアイドル目指すんならマジでやれ!退学届を書け」。オロオロする両親を尻目に、鬼塚は朋子の手を引いて出ていった。
 「一体どういうつもりだ。生徒を無理やり家出させる教師がどこにいる!」。朋の両親の訴えに内山田は怒りを爆発させた。しかし鬼塚はひるまない。「俺は信じていますから、こうするのが朋子にとって一番イイって」ときっぱり。しかも朋子に書かせた退学届も提出した。「とにかく教育委員会の視察が終わるまで、これ以上問題を起こすな」。内山田の頭の中にはそのことしかなかった。
 とりあえず鬼塚は朋子をアパートに泊めることにした。夜になって冬月がやって来た。「非常識すぎます。つらい思いをするのは彼女なのよ」。冬月のものすごい剣幕に、さすがの鬼塚も圧倒された。そこへ思いがけない客が転がり込んできた。内山田の妻、良子(立石凉子)と娘の好子(馬渕英里何)だ。「パパとケンカしてね。しばらくお世話になります」。誤解した冬月は怒って朋子を連れて出ていった。
 「どうしたらいいんだろ、先生」。朋子の心は揺れていた。「先生もスチュワーデスになりたかったわ」。その夢は今でも捨てたわけではない。朋子のひたむきな気持ちを邪魔する権利は誰にもないはず。冬月の心も揺れ始めていた。翌朝、朋子は姿を消していた。“しばらく1人で考えてみます”と置き手紙を残して。「ご両親が怒るのは当然よ」「女にとって一番大切なのは自分に自信を持つことだろ」。鬼塚と冬月は顔を合わせるなり、またもややりあいだした。そのころ、朋子は再びみやびと会っていた。みやびから励まされば沖縄へ行く決心がつくかもしれない。「もう意地張らずに学校へ来て。鬼塚先生なら信用できるよ」。みやびは朋子の気持ちがうれしかった。それでも素直にうなずけないみやびだった。
 聖林学苑は視察当日。内山田の願いは、教育委員会のお偉方の前でボロを出さないこと。ところが売店のおばちゃんになりすましていた桜井理事長(白川由美)の一言が思わぬ展開をよんだ。「2年4組の授業が面白いみたいですよ」「ぜひ拝見したいですな」。必死に思い止まらせようとする内山田と中丸(近藤芳正)。しかし委員は2年4組のドアを開けてしまった。「何ですか、これは」。ガランとした教室はまったくの無人。黒板には汚い文字で“授業見たかったら、空港へどうぞ”と書かれていた。 


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