<第4回> <第5回> <第6回>
<第4回>
鬼塚(反町隆史)は2年4組のドアを開けてびっくりした。いるのはナナコ(希良梨)、ケンジ(徳山秀典)、マサル(山崎裕太)、菊池(窪塚洋介)、のぼる(小栗 旬)の5人だけ。「ボイコットですよ。担任を変えない限り、もう授業には出ないって」。みやび(中村愛美)が教頭の内山田(中尾 彬)に直談判したらしい。「責任を取ってもらうしかないね」。理事長室に呼び出された鬼塚は、教頭と中丸(近藤芳正)から責任を追求された。頼みの綱である桜井理事長(白川由美)からも「夏休み中にクラス全員を説得できなければ、教師を辞めていただきます」と宣告される始末。おまけに給料半額カットの減給処分。「ウソでしょ」。さすがの鬼塚も大ショック。「鬼塚が説得に来ても一切無視すんのよ」。みやびはクラスメートににらみを効かせるだけでは満足しなかった。彼女を慕う朋子(黒田美樹)に命じて鬼塚を陥れる計画 を立てたが、万事おっとりした性格の朋子だけに、ドジを踏んで失敗。「まったくトロいんだから。二度と話しかけないで」。みやびにしてみれば、これまでお情けで朋子と遊んできたにすぎない。みやび以外に友達のいない朋子は泣きじゃくるばかりだった。
朋子の実家は寿司屋。「ここ、お前ンちだったのか」。朋子が帰宅してみると、鬼塚と冬月(松嶋菜々子)がカウンターに座っていた。鬼塚は冬月の写真をこっそり週刊誌に送った。題して“我が校のマドンナ先生”。掲載された謝礼を一人占めするつもりが、当の冬月にバレてしまった。口止め料代わりに、仕方なく寿司屋へ連れてきたというわけ。
「先生、こいつトロいでしょ」。朋子は一生懸命に店の手伝いをしているのだが、父親の目にも朋子の立ち振るまいはもどかしく映るらしい。「あたしなんか頭も悪いし、運動神経も鈍いから、弟にまでトロコって呼ばれているんです。お嫁に行くしかないんです」「夢とか、将来なにかになりたいってないの?」。冬月がもどかしげに聞いても「取り柄ないから」とポツリ。冬月は朋子に自信を持ってもらいたかった。だから朋子をブランドショップに連れていって、服を選んだ。試着室から出てきた朋子を一目見て、鬼塚と冬月は息をのんだ。「お前、アイドルみたいだな」。今までのダサい雰囲気はすっかり消えていた。
それでも翌日登校した朋子は地味で目立たない女の子に戻っていたみやびからは完全に無視された。「どうして、あたしって何やっても駄目なんだろうね」。校庭でぼんやりしていると鬼塚が近寄ってきた。「どうだ、朋子。ここは一つだまされたと思って、俺に人生預けてみないか?」。戸惑う朋子を鬼塚はアパートに連れ帰った。朋子がドキドキしながら室内を見回していると、ドアが開いて一目でアブナイ感じの面々が入ってきた。ヤクザ風の男にパンク系のお姉ちゃん。ゲイっぽいお兄ちゃんもいる。ぼう然と立ち尽くす朋子に衣装合わせしたり、ヘアスタイルをいじったり。「あたし、AVに出演させられるんですか?」。鬼塚がニヤリと笑った。「アイドルになるんだよ。オーディションを受けるんだ。お前なら絶対に受かるから」。まだ事情の飲み込めない朋子に、鬼塚の友達が次々と衣装を選んでいく。「イケるよ、朋子」「そ、そうかな」。盛り上がっているのは鬼塚だけ。実は冬月の写真の時のように、高額の紹介料が目当てなのだ。もちろん朋子は知らない。
「オーディションなんてとんでもない!校則に芸能活動禁止ってあるのを知らないの」。噛みついてきたのは国語教師の小谷(円城寺あや)。自分がいつまでたっても結婚できない焦りを女子生徒の花嫁修業の授業でウサを晴らしている小谷は「オーディションなんか、女性蔑視の象徴よ」と吐き捨てた。
「なんとか許してあげるわけにはいかないんですか」。冬月も口添えした。オーディションへの参加は、朋子に自信をつけさせる絶好のチャンスになるかもしれないからだ。しかし教頭が断を下した。
「許可するわけにはいかない」。朋子はつとめて明るさを装った。
「あたし、諦めます」。職員室を出て行く朋子。その後ろ姿を見つめる鬼塚の表情には、決意の色があった。
<第5回>
聖林学苑の一学期が終わった。職員室では内山田教頭(中尾 彬)の長い挨拶がようやく終わった。帰り支度をしていた冬月(松嶋菜々子)は教頭に呼び止められた。
「特進クラスの英語をお願いしたいんです」。夏休み期間中、成績トップの生徒たちを選んで、大学受験のために行う特別進学クラス。教頭が理事や保護者への点数稼ぎに考えついた特別カリキュラムだ。「あなたが手伝ってくれたら僕も心強いですよ」。数学担当の勅使川原(井田州彦)が冬月を推薦したらしい。サイパン旅行を計画していた冬月は大むくれ。結局は引き受けざるを得ない。
鬼塚(反町隆史)はアパートで冴島(藤木直人)相手にグチをこぼしていた。生徒たちには授業をボイコットされ、給料は半額カット。夏休みといっても一緒に過ごしてくれる恋人もいない。せめてクーラーだけでも欲しい。「あそこに行けばあるだろ」。冴島がニヤリと笑って耳打ちしてくれた。あそことは学校の校長室。夏休みなんだから迷惑はかからないはず。自分勝手に判断して、鬼塚が校長室でくつろいでいると、運悪く教頭に見つかってしまった。「とっとと出ていけ!」。
教頭は早速、桜井理事長(白川由美)にかみついた。「あいつはクーラー目当てに校長室に住みつくつもりだったんですよ。一体どうするつもりなんですか」「じゃあ、鬼塚先生にはガードマン代わりに学校にいてもらいましょう」。孫とハワイへ行く理事長はそう言い残すと、ウキウキと出かけていった。理事長のお墨付きをもらった鬼塚は、学校のプールを有料開放して小遣いかせぎ。「冬月先生も泳ぎませんか?」
「特進クラスの邪魔をしないで下さい」。またまた怒らせてしまった。
そして冬月は勅使川原と急接近。東大卒で、父親は高級官僚。これまで近寄りがたい雰囲気があったのだが、しゃべってみると意外に気さくだし、趣味も共通している。教育問題に対しても並々ならぬ情熱を持っている。「あたし恥ずかしいです。同じ教師なのに何も考えていないから」。うつむく冬月に優しく微笑みかける勅使川原。しかし冬月は気づいていなかった。これが用意周到に張りめぐらせた勅使川原のワナであることを。彼は冬月のデータをパソコンに入力し、話を合わせていたのだ。パソコンの画面に表示された“仕上がり”の文字を見て、勅使川原は不気味な笑みをもらした。
「パーッと海でも行きません?」。鬼塚は相変わらずお気楽。授業の準備をしていた冬月に向かって「本当は特進クラスなんかイヤなんでしょ」とニヤついた。しかし冬月は「勅使川原先生のおかげで、今はやる気になっているんです。あなたも少しは見習ったらどうなのよ」とピシャリ。この2人、顔を合わせるとケンカになってしまう。その夜、冬月が突然降り出した雨にウンザリしていると、誰かが傘を差しかけてくれた。「いいワインが手に入ったんです。ウチで一緒に飲みませんか?」。勅使川原だった。一抹の不安はあったが、同僚教師なんだから大丈夫だろう。冬月は勅使川原のマンションを訪れることにした。
「キレイにしているんですね」。独身男性の部屋にしては異常なほど整理されていた。冬月は部屋に来てしまったことを後悔しはじめていた。「あの、あたし、やっぱり帰ります」「じゃ、せめてワインだけでも」。勅使川原が差し出したグラスのワインを冬月は飲み干した。「おいしかった。すいません、あたし」。その瞬間、冬月の意識が遠のいた。勅使川原はワインの中に睡眠薬を入れていたのだ。「これからですよ、2人きりの夜は」。
その頃、鬼塚は退屈しのぎに職員室で同僚教師たちのデスクを物色していた。「うわっ、クセ!」。体育教師の袴田(小林正寛)の引き出しから出てきたのは、汗臭いタオルやサポーター。生徒からの押収品がぎっしり詰まっていたのは小谷(円城寺あや)の引き出し。勅使川原の引き出しは鍵が掛かってなかなか開かない。力任せに開けた鬼塚の目に飛び込んできたのは、冬月を盗み撮りした無数の写真。ものすごい形相で鬼塚は職員室を飛び出した。
<第6回>
数学教師の勅使川原(井田州彦)は特進クラスの授業を投げ出した。代わりに教壇に立つことになった内山田教頭(中尾 彬)は機嫌が悪い。鬼塚(反町隆史)は相変わらずクーラーのきいた校長室で昼寝ざんまい。本当なら授業に出てくるように2年4組の生徒たちを説得しなければならない。しかし2学期まではまだ時間がある。「なんとかなるよ」。見かねた体育教師の袴田(小林正寛)が声をかけてきた。袴田は金八先生に憧れる熱血教師タイプ。「心でぶつかれば分かってくれますよ。僕に任せて下さい」。袴田は笑顔で胸を叩いた。
2年4組の授業ボイコットをあおっているのは村井国雄(池内博之)と相沢みやび(中村愛美)。袴田が自信あるのは体力だけ。そこで村井と競泳で勝負することにした。「もしお前が負けたら、鬼塚先生の授業に出るんだぞ」。ところが完敗したのは袴田のほうだった。百メートル走でも歯が立たない。「そんなバカな!」。袴田はショックのあまり言葉を失った。国雄は鬼塚にくってかかった。
「最低だな、袴田なんかに頼むなんて」「あの人が1人で勝手に盛り上がっただけだぜ」。2人が言い争っているところへ、大型トラックが突っ込んで来た。「どこ見て運転してんだよ、人殺す気か」。怒鳴りつける鬼塚。トラックの運転席から降りてきたのは、意外にも短パンの色っぽい美人。村井が思わず叫んだ。「おふくろ!」。その脚線美人こそは村井の母親つばさ(村上里佳子)だった。
「偉いな、母親の鑑ですよ、お母さんは」「やだ、先生ったら口がうまいんだから」。鬼塚とつばさは初対面で意気投合した。村井が生まれると同時に、バイク事故死したという父親というのが暴走族のリーダーだった。鬼塚や冴島(藤木直人)にしてみれば憧れの人。「お前の親父さんはすげえ人だったんだぜ」。しかし村井の反応は冷ややかだった。「関係ねえよ、俺には!」。母親と鬼塚をにらみつけると、村井は自分の部屋に閉じこもった。「昔はあんな子じゃなかったんですけど」。どうやら村井も心の奥深くに傷を秘めているらしい。
そのころ、冬月(松嶋菜々子)は袴田に誘われて居酒屋にいた。村井のことを相談したいと言いながら、袴田の狙いは冬月をくどくこと。「結婚相手は同じ教育者って決めているんです」。しかし冬月は上の空。ふと向こうの席を見ると、鬼塚が見知らぬ美人と盛り上がっている。「いつも息子がお世話になっています」。つばさから頭を下げられて、冬月と袴田もびっくり。結局4人でカラオケボックスへ流れた。「冬月先生は好きな人はいないの?」。つばさに聞かれた冬月は鬼塚を意識するが、当の鬼塚はつばさの胸元をチラチラ。冬月のことなどお構いなし。カチンときた冬月は「袴田先生みたいに情熱のある人が好きです」と心にもないことを言ってしまった。「そんな」。真に受けた袴田はすっかり舞い上がってしまった。翌朝、冬月が職員室で特進クラスの準備をしていると、鬼塚が大あくびでやって来た。服装は昨夜のまま。どうやら夜通し、つばさと遊びまわっていたらしい。
「恥ずかしくないの、生徒の母親とそういうことをして」「もしかして、嫉いているんだ俺たちのこと」。動揺する冬月を尻目に鬼塚は「お休みなさい」と校長室に消えていった。「最悪!」。
鬼塚にいらついているのは冬月だけではなかった。「チキショー、ムカつくぜ鬼塚の野郎」。村井は鬼塚が母親と仲良くしているのが面白くない。ひと眠りした鬼塚は冴島を引き連れて、またマンションにやって来た。「すっげえ」。村井の父親の遺品で盛り上がる3人。「元暴走族が勝手なこと言ってんじゃねえよ」。村井の怒りは頂点に達した。「ウチのおふくろに近づくな」「そんなにイヤなら、力づくで止めてみれば?」。
鬼塚は村井を道路に連れ出した。2人の前方にトラックが現れた。ハンドルを握っているのはつばさ。「先に逃げたほうが負けだぜ」。
トラックがゆっくりと、こちらへ向かって動き始めた──。