<第1回> <第2回> <第3回>
<第1回>
真夏のプール。鬼塚英吉(反町隆史)が水着ギャルを横目に見ながら窓拭きのアルバイトに精を出していると、巡査をしている友達の冴島龍二(藤木直人)が、ニヤニヤしながら近づいてきた。「この高校が教員募集しているらしいぜ」。差し出したパンフレットは、私立高校の武蔵野聖林学苑の募集広告だった。「なんでも面接は今日でおしまいらしいぜ」という龍二の言葉を聞くなり、鬼塚は「どけええ!」と叫びながら駆け出した。
鬼塚英吉、25歳。暴走族あがりの彼の夢は、高校教師になることだ。しかし教育に燃えているわけではない。コギャルとお友達になりたい。しかし三流大学を7年かかって卒業し、教員採用試験も受けなかった鬼塚にとって教師になることは夢のまた夢だが、この私立校の募集は千載一遇のチャンスだ。「待ってろよ、ルーズソックス!」。鬼塚は作業着姿のまま、面接室に乗り込んだ。
「歴史ある我が学園も落ちたもんだ。ここは君みたいなクズの来る所じゃない」。あまりにヒドすぎる鬼塚の履歴書を見た教頭の内山田ひろし(中尾 彬)は、吐き捨てるように言った。
鬼塚がガックリと肩を落として廊下を歩いていると、売店のおばちゃんが笑いながら話しかけてきた。「駄目だったの?面接」。そこへバット片手に2人の男子生徒が走ってきた。「教頭、ぶっ殺してやる!」。退学させられた元生徒が腹いせのお礼参りにやって来たらしい。ビビりまくる内山田教頭は鬼塚に、「こいつらを追い返したら、採用を考え直してもいいぞ」と助けを求めた。内心シメタ!と思った鬼塚だったが、教頭の次の暴言にキレた。「こんなヤツらは生きていても他人に迷惑かけるだけだ」。
気がつくと鬼塚は教頭の顔面に強烈な回し蹴りをお見舞いしていた。「てめーらみたいな先公がいるから、こいつらみたいなガキが居場所なくしちまうんだよ」。
これで先生になれる夢は淡くも消え去った。鬼塚がむかつきながらゲームセンターでゲーム機に向かっていると、チーマー風の2人組、依田ケンジ(徳山秀典)と渡辺マサル(山崎裕太)が「お金貸してくれない」と近寄ってきた。相手が悪かった。鉄拳でゲーム機を叩き壊した鬼塚に、2人は顔面ソウ白。逆にコンビニで1週間分の食料を買わされるハメになった。「いやー、悪いね」。鬼塚がアパートに帰ってみると、前にパトカーが停まっている。案の定、部屋に入ると龍二がアダルトビデオを見ている。「さっきまで客待っていたぜ」と言って、武蔵野聖林学苑理事長の名刺を差し出した。「まだ教師やる気あるんなら、すぐ来てくれって」。
龍二のパトカーで駆けつけた鬼塚を待っていたのは、昼間の売店のおばちゃんだった。「ようこそ、武蔵野聖林学苑へ」。彼女こそが理事長の桜井あきら(白川由美)だった。
「こんなヒドイ履歴書は初めて。でも採用します。早速明日から来て下さい」。武蔵野聖林学苑にはイジメ、登校拒否、暴力など様々な問題がうず巻いているという。「そういうのを力ずくでぶっ飛ばせる教師は、あなたしかいない。そう思ったの」「任せて下さい」。鬼塚は二つ返事でうなずいた。どんな生徒たちが待ち受けているとも知らずに。
翌朝、鬼塚は意気揚々と武蔵野聖林学苑の正門をくぐって、職員室に向かった。「ふつつか者ですが、よろしくお願いします」。どうやら学年主任の中丸浩司(近藤芳正)あたりから事情を耳打ちされているらしく、同僚たちは鬼塚を完全に無視した。見るからに健康そうな袴田はじめ(小林正寛)は体育教師、国語担当の小谷宏子(円城寺あや)はヒステリックで口うるさそうだ。数学の勅使河原優(井田州彦)は同僚よりもパソコンがお友達というタイプで、夜は塾の講師をしているらしい。そして学年主任の中丸は理科の担当で教頭の内山田にベッタリなのは昨日の面接で一目瞭然だ。一癖も二癖もある教師たちにまじって、鬼塚の目を引いた女教師がいた。さっき正門の所で会った冬月あずさ(松嶋菜々子)はモデル顔負けの美人。爽やかなマドンナ先生に見えるが、内心では先生などさっさと辞めてスチュワーデスになろうと思っている。そして彼女をめぐっては袴田と勅使河原が静かに火花を散らしている。
「私は君のことを教師とは認めていないからな」。理事長室から出てきた教頭は鬼塚をにらみつけた。「君の担任は2年4組だ」。鬼塚と目を合わせないように職員室を出ようとするあずさだったが、内山田教頭から「彼に教室を教えてやって下さい」と言われ渋々一緒に教室へ向かうのであった。その途中、あずさが耳打ちした。「この学園始まって以来の問題児ばかりのクラスなんです」。これまで担任教師は登校拒否や蒸発続きという。「楽勝ですよ。悪ガキの扱いには慣れていますから」。鬼塚に緊張の色はまったくなかった。
「今日からてめえらの担任になる鬼塚英吉だ。なんか文句あんのか!」。いきなりカマした鬼塚だが、どの生徒もキチンと着席して静かな雰囲気だ。それに女生徒はかわいい子ばかり、鬼塚の胸はときめいた。ゲームセンターで会ったカツアゲ2人組のケンジとマサルもいたが「2度とあんなことはしません」と素直に頭を下げた。
どの生徒も従順なイイ子に見える。「仲良くやっていこうな」。「ハイ!」。鬼塚は予想外の感動的な展開に胸を熱くした。しかし鬼塚は甘かった。生徒たちの教科書やノートには『バカ教師、死ね』とか、『殺す、鬼塚』と落書きされていた。クラス委員の菊池善人(窪塚洋介)はノートパソコンに『性格、きわめて単純。IQ、想像以上に低い』と鬼塚のデータを入力した。
初日、何事もなく授業は無事終了した。その夜、鬼塚が熱血先生ドラマのビデオを借りて、レンタルビデオ店を出ると、うつむいて泣いている女の子がいた。2年4組の水樹ナナコ(希良梨)だ。「あたし、どうしたらいいか分からない」。鬼塚はナナコをアパートに連れ帰った。「何があったんだ?先生に話してみろ」「あたし、家に帰りたくない」。そして、ナナコは突然服を脱ぎ出した。「ちょっと待て、ナナコ」。あわてまくる鬼塚に下着だけになったナナコが色っぽく迫ってきた。次の瞬間、窓がガラリと開いてフラッシュの嵐が起こった。
激写しているのはケンジとマサルだ。「フィルムを渡してほしかったら百万円持ってきな。夏休みのレジャー資金にするからよ」。ニタニタと勝ち誇ったように、ボウ然自失の鬼塚をのぞきこむケンジとマサル。「最初からそのつもりだったのか!」。暗い顔でナナコを見つめる鬼塚。3人は部屋を出ていった。
「先公なんてチョロいもんだぜ」。深夜の公園でケンジとマサルは盛り上がっていた。「さっきはどうも」。まるで鬼のように表情を一変させた鬼塚が立っていた。しかもその背後には狂暴な顔つきの暴走族がズラリ。「大人をナメんじゃねえぞ」。鬼塚英吉は並みの教師ではなかった。ケンジとマサルは震え上がった。
<第2回>
鬼塚(反町隆史)の恥ずかしいSM写真が学校の掲示板に張り出された。「信じて下さい。俺は撮られた覚えないんです」。しかし必死に弁明する鬼塚に向けられるのは、生徒たちの冷たい視線ばかり。職員室でも孤立無援。「とにかく責任問題ですね」とニンマリ笑う中丸(近藤芳正)。教頭の内山田(中尾 彬)も「無実を言い張るなら、証拠を出せ」と詰問してきた。生徒のしわざには違いないが、誰なのか見当もつかない。ヒントをくれたのは冴島(藤木直人)。「パソコンで作った合成写真だよ」。
鬼塚はナナコ(希良梨)に心当たりをたずねると、即座にクラス委員の菊池善人(窪塚洋介)の名前が返ってきた。「パソコンさえあれば、不可能なことはないってホザいてるもんな」。ケンジ(徳山秀典)とマサル(山崎裕太)もうなずいた。次々と担任教師を辞めさせている張本人が菊池なのだ。「お前が作ったのか、この合成写真」「そうですよ」。菊池はアッサリと認めた。しかし、反省の色は全くなく「あなたの授業聞くぐらいなら、家で勉強しているほうがマシです」。鬼塚を完全に無視して菊池は教室を出ていった。
「一刻も早く、菊池を学校に連れてこい!」。常に成績トップの菊池に学校を辞められては、進学率に響く。鬼塚は内山田に罵声を浴びせかけられて、夜道を菊池の家へ向かった。「何と言われようと、もう学校なんか行く気はありませんよ」「好きにすれば」。鬼塚の返事に菊池は驚いた。力づくで学校に引き戻されると思っていたからだ。「教頭がうるさいから来ただけだ。それよりこれで合成写真作ってくれないか?」。鬼塚が差し出したのは、アイドルの顔写真とヌード写真。「じゃあ、楽しみにしているからな」。うれしそうに帰って行く鬼塚の背中を、菊池は悔しそうに見送った。
「そのまま帰ってきたのか」。翌朝、内山田に報告すると、鬼塚はまたもや怒鳴られた。「こういう問題は女性のほうが適任かも」。学年主任の中丸はあずさ(松嶋菜々子)に説得役を押し付けてきた。「なるほど名案だ」。内山田からも頼まれては断るわけにいかない。あずさは教師という職業に息詰まりを感じて、常に辞表を持ち歩いていた。もう一度、スチュワーデスの夢に賭けてみたかった。憂鬱な気分をかかえて、あずさは菊池の家を訪問した。
菊池の反応は鬼塚のときと変わらなかった。「先生はもう25歳でしょ。いつまで教師を続けるつもりですか。もう少し真剣に考えないと」。逆に将来のことを心配されて、あずさは自己嫌悪に陥った。その夜、あずさは鬼塚を呼び出した。「光栄だな、冬月先生から呼び出しがかかるなんて」。鬼塚はすっかりデート気分。「もっと大切な問題があるでしょ。菊池君のことです」。
あずさは菊池が通っている塾に鬼塚を連れていった。「あなたが説得して下さい。とばっちり受けるのはもう十分です」「あんた、マドンナ先生とか呼ばれて、いい気になってないか」。売り言葉に買い言葉で、いつしか2人は廊下で激しくやりあいだした。「何やってんですか?」。ふと気がつくと講義の終わった菊池が軽蔑しきった眼差しで2人を見つめていた。「ここの講義は充実しています。高校の授業なんかはリハーサルみたいなものですよ」。ついに鬼塚が怒りを爆発させた。「お前にもできないことが一杯あることを教えてやる。社会勉強だ」。鬼塚は菊池をゲームセンターに
連れていった。ところがどのゲームでも鬼塚のほうが完敗。一方、あずさは外国人から話しかけられて戸惑っていると、菊池がいとも簡単に受け答えしてしまった。「あなた達から、いったい何を教われというんですか」。鬼塚もあずさも黙り込むしかなかった。
勝ち誇って帰って行く菊池は、体育会系の大学生集団とぶつかってしまった。「待てよ坊主」。素直に謝ればいいものを、「お金が狙いでしょ。いくら欲しいんですか」と返したものだから、大学生たちは殺気だった。さすがにビビった菊池は鬼塚に助けを求めてきた。「うるせえ、都合のいい時だけ先生って呼ぶな。男なら、てめえのケツぐらいてめえで拭いてみろ」。菊池とあずさがボウ然と見送る中、鬼塚は去って行った。
「どこの世界に、教え子がチンピラにからまれているのに、ほっとく教師がいるんですか!」。翌朝、菊池の母親が血相を変えて職員室に怒鳴り込んできた。「今度こそあいつに責任を取ってもらいます」。内山田から強硬に迫られて、理事長の桜井(白川由美)は返事に窮した。明日までに鬼塚が辞めなければ、菊池は退学届を出すと言っている。「分かりました」。桜井は沈痛な面持ちでうなずいた。
その夜、あずさがファーストフード店に入ると、菊池の声が聞こえてきた。村井(池内博之)とみやび(中村愛美)を相手に喋っている。「あの冬月ってのも、もっとマシな教師かと思ってたけど、見かけ倒しだな」。その一言を聞くなり、あずさはムラムラと怒りが湧いてきた。
<第3回>
武蔵野聖林学苑の校庭。ナナコ(希良梨)らと花火をしていた鬼塚(反町隆史)は、吉川のぼる(小栗 旬)が思いつめた表情で校舎の屋上に立っているのを見つけた。「まさか飛び降りるつもりじゃないだろうな」。ところが本当にのぼるが飛び降りた。「うわあああ!」。凄い形相で突進する鬼塚。間一髪で間に合ったが、2人は内山田教頭(中尾 彬)の外車ベンツの天井部に激突してしまった。
「わたしの車が!」。翌朝、変わり果てた愛車と対面した教頭はボウ然。もっとも鬼塚が気がかりなのはのぼるのことだけ。内気なのぼるはクラス内でイジメの標的となっており、とりわけ相沢みやび(中村愛美)をリーダーとする、大島知佳子(白川みなみ)、月島えりか(林 知花)の3人組から連日執拗なイジメにあっていたのだ。鬼塚が問いただすと、3人は「あたし達、イジメなんかしていませーん」とシラをきった。「ビシッと言ってやれ!」。鬼塚がけしかけても、3人の前ではのぼるは何も言えなかった。
イジメは職員室にもあった。標的は古文担当教師の藤富誠(沼田爆)。鬼塚が顔を合わせるのは初めて。「病気だったんですか?」。気弱な性格の藤富はストレスによるうつ病で、学校にやって来たのは今月初めて。「これじゃ給料泥棒ですね」。教頭と学年主任の中丸(近藤芳正)はあからさまに嫌味を言う。藤富はただうつむくばかり。周囲の教師は見て見ぬふり。あずさ(松嶋菜々子)も気の毒とは思うが、何も言えない。「へえー、教師の世界にもイジメってあるんだ」。ノー天気な鬼塚とは対照的に、藤富は体を小さくして「すいません」と消え入るような声で繰り返した。
久しぶりの授業でも生徒達から徹底的に無視されつづけた藤富は、ついに辞表を桜井理事長(白川由美)に出した。「何とか頑張ろうと思いましたが、私には無理みたいです」。ガックリと肩を落とす藤富に、どんな慰めの言葉をかければいいのか、あずさには分からなかった。「早速送別会やらなきゃ」。教頭と中丸は顔を見合わせて、してやったりとほくそ笑んだ。そんな2人から送別会費の徴収役を命じられて、あずさはさらにブルーになった。「なんであたしがこんなことしなきゃならないのよ」。ブツブツ言いながら体育館の前を通りかかると、中から話し声が聞こえてきた。「あんたなんか死んでしまえばよかったのに」。のぼるがみやび達に囲まれて、いたぶられていた。「どういうつもりなの!」。見かねてあずさは注意したが、みやびは「ゲームですよ」と開き直った。その時、鬼塚が物凄い表情で近づいてきた。「オレも仲間に入れろ。こんなやりかたじゃ、ナマぬるいんだよ!」。
鬼塚はみやび達をビルの屋上に連れてきた。「ここなら確実に死ねるな」。鬼塚はのぼるの両足首をガッチリとつかむと、逆さづりにした。泣き喚くのぼる。「ウソ」。ショックのあまり、あずさは失神した。みやび達もボウ然自失。「お願いだから、やめて!」。千佳子とえりかが叫んだ。引き上げられたのぼるは涙でグシャグシャ。「こんな弱いヤツいたぶっても、面白くないだろ」。しかし鬼塚の怒りはそれだけでは収まらなかった。ようやく意識を取り戻したあずさの目に飛び込んできたのは、のぼると同じようにみやびを逆さづりにしている鬼塚の姿だった。「ウソ」。あずさは再び失神した。
「あんな怖い目にあったのは初めてです。うちのママが知ったら、どうなるか」。翌朝みやび達は職員室で教頭に詰め寄った。みやびの母親はワイドショーでコメンテーターをしている。「明日の全校朝礼で、鬼塚先生に土下座して謝ってほしいんです」。もしこの要求を受け入れなければ、逆さづりの一件をワイドショーでバラすという。「それだけは勘弁してほしい」。教頭は慌てふためいた。そのやりとりを廊下からうかがっていたのぼるは、意を決して教頭に訴えた。「鬼塚先生は悪くないんです。昨日もイジメられている僕を助けてくれようとしただけです」。しかし鬼塚憎しの教頭はのぼるの声に耳を貸そうとはしなかった。「もはや、これは学校全体の問題なんだよ」。勝ち誇ったようなみやび達。あずさは事のなりゆきを見守るしかなかった。「あれはイジメの体験ツアーみたいなもの。元々みやび達がのぼるをイジメてたのが原因なんだから」「彼女達はそんな覚えはないと言っているんだ」。鬼塚と教頭のやりとりを静観していた同僚教師たちも、結局は教頭サイドについた。「結論として鬼塚先生には明日の朝礼で、相沢みやび達に謝罪してもらいましょう。出来ないというなら、本校を辞めていただくしかありませんな」。鬼塚は怒りをじっとこらえて教頭をにらみつけた。
翌朝、鬼塚がチャリンコで登校すると、のぼるが息せき切って来るなり土下座した。「先生、お願いだ。みんなの前で謝ってほしいんだ。もし先生がクビになったら、ボク、今よりきっとイジメられるよ」。必死に懇願するのぼる。鬼塚もツライ。そんな2人を藤富がじっと見ていた。やがて体育館で全校朝礼が始まった。