あさお慶一郎の活動日記 〜関連記事〜

まじめにトーク&トーク 参議院議員浅尾慶一郎さんにきく

日本を住んで楽しい「憧れの国」に


田中

この夏から秋にかけ、政局が大きく動きそうな気配です。小泉内閣の限界が見え始めたという人もいます。今日は若手政治家の代表として浅尾さんからフレッシュな政治論をお聞きしたい。まず、最近の小泉首相についての感想から。

浅尾

小泉首相は、4年前に就任したときから、「壊す」「つぶす」と声高に叫んできました。でも「何のために壊すのか」、そのことを通じて「どういう日本にしたいのか」という説明はほとんどしてきませんでした。壊すのは目的があって壊すはずですが、その目的が語られることはなかった。郵政事業の改革にしても、「こういう日本にするためには民営化がいい」という主張が聞こえてこない。

田中

最近の小泉さんの言動には、国のリーダーとしての真面目さが感じられないと言う人もいる。政治記者として自民党を長く見てきた私も、あんな乱暴な発言をして、よく首相を辞めずにすんでいるなと思うことがしばしばあった。

とはいえ、政治というのはコインの表裏です。政権与党がいいことをやるもやらないも、取って代わる野党の力量や姿勢にかかっている。民主党という野党第一党に属している浅尾さんたちの責任は重い。

浅尾

もちろん、それは感じています。「民主党が政権を取ったらどういう日本にしてくれるのか」、国民はまだ半信半疑です。そのためには、「私たちは3ヶ月以内にこうします」「1年以内にこうやります」など、スピーディーで具体的な展開をもっとアピールしないと。合わせて、「3年後、5年後により自由で安心な日本にするため、いま改革が必要です」といった、わかりやすい提言を出そうと準備中です。

田中

今の自民党と民主党について、こんなたとえ話があります。民主党はエンジンのないヨットで、風任せ。それに対し、自民党は老朽化した大型船。耐久年数の過ぎたオンボロ船だが、4年前に小泉さんという風変わりな新しい船長が乗り込んできて、少し見栄えがよくなった。そればかりか、公明党という強力なターボエンジンを搭載して生き返った。

ただ、あくまでオンボロ船はオンボロ船なので、間違いなく長続きしない。乗客である国民にとっての問題は、ヨットが早くエンジンを積み込んで走るようになるかどうかだと。

浅尾

なるほど、うまく表していますね。民主党への期待と素直に受け取っておきましょう(笑)。

私はこれからの政党としてのエンジンは2つ必要だと考えています。それは、目指すべき方向性と、それを推進するための部隊です。私たちの考え方をその地域に広めてくれるパイプがなければ、本当に風任せになってしまう。政党支部という足腰を強くしながら、有権者に政策や国づくりの方向をわかりやすく説明する。両方が大切なんですね。

田中

そもそも浅尾さんたち若い世代の国会議員は、どんな問題意識をもって政治に臨んでいるのですか。

浅尾

一言でいうと、「憧れの日本」にしたいということです。

2年前、私たち民主党の若手国会議員6人で、「日本を憧れの国にしたい」という共同提案を発表しました。住んで楽しい国、生まれてよかったと思われる国にしたい、という構想なんです。

日本はOECD加盟国の中で、人口の社会減のある唯一の国です。人口の社会減とは、外国から日本に入ってくるよりも、日本から外国に出て行く人のほうが多いことですね。それはたぶん日本より外国のほうが楽しいと思われているからで、誰が見ても日本は住んでいて楽しいと思える国にすることが大事です。最近、「世界に誇れる国」という言葉を使う人もいるんですが、それはちょっと違う。

田中

そう。あまり誇らず、愛される国のほうがいい。現状は、観光客も、日本から外国に行く人と、外国から日本に来る人とでは、段違いに日本に来る人の数が少ない

浅尾

このギャップを埋める努力をしないといけませんが、そういう素地は少しずつ出てきていると思う。政治と関係なく、日本のアニメやファッションなどの若者文化や、伝統文化の融合に対しては、「クール・ジャパン(カッコいい日本)」という世界からの賛同の声が、とくにアジア系の人を中心に増えています。

かつて日本が黄金の国「ジパング」と呼ばれたのは、穏やかで安定した人々の暮らしぶりへの羨望と尊敬からでした。現代にもう一度復活させるなら「ネオ・ジパング」。とにかく日本の中では誰もが夢を見つけられ、その夢に何度でも挑戦できるといった、他国がうらやむような社会にしたい。

田中

それに関連していうと、少子化傾向にどう歯止めをかけるのかも問題ですね。東京都の合計特殊出生率はついに1を割り、全国平均でも1.29。現在の水準が続けば、500年後には日本列島に人間がいなくなる計算になる。

浅尾

500年も先のことはわかりませんが、少なくとも2050年には今より3,000万人くらい減るのではと言われています。もしかしたら今年あたりから人口の自然減も始まるかもしれない。そういう現実の前では、新しい発想と行動が必要です。

たとえば、日本はこれまで外国人の移民受け入れを極端に拒んできました。その一方で、なし崩し的に外国人の不法入国を容認している現実があります。私は、一定の条件を満たしているのであれば就労や滞在の規制は穏やかでいいし、むしろ積極的に門戸を開くべきだと思う。外国からの移民を50年間で1,000万人くらいは受け入れるくらいの考えが必要なんじゃないでしょうか。

田中

治安上の問題やさまざまな摩擦が起きてきませんか。

浅尾

その時一番大事なのは差別をしないことです。「日本には平等にチャンスが与えられていない」。残念ながら、これが現在の日本に対する外国人の評価なんです。人手不足や若手が嫌う仕事を外国人で補うという発想では、優秀な人が入ってくるはずもありません。

不法滞在や法律違反をした人は徹底的に取り締まらなくてはいけないが、正式なルートを通じて受け入れた外国人はきちんとサポートする。日本の技術者やホワイトカラーを刺激して活性化させるという意味でも、戦略的に考えられていい。

もちろんそうしたこととは別に、根本的な少子化対策を打たないといけません。

田中

政治家自身、もっと真剣に少子化問題を考えるべきではないでしょうか。

浅尾

少子化対策が進まないのは、国会の中で家族観についてのコンセンサスがないからなんです。結婚したら奥さんは家にいて子どもを生み育てるものだ、と堅く信じている政治家もまだ大勢いますから。そういう議員たちは、共働きで子育てしようとする世帯への支援には熱心ではありません。時代はとっくに変わっていて、結婚しても女性が仕事を続けるのは当たり前のことなのに。

政治家がやるべきことは、出産後も仕事を続けたい人に働きやすい環境を用意すること、あるいはしばらく専業主婦になった後、また戻りたいとなったとき、以前の資格や専門性を活かせる職場を社会全体で用意すること、いろいろあるはずです。

田中

若い人に増えているフリーターとか、ニートの問題はどうですか。「憧れの国づくり」に、若者対策は欠かせないでしょう。

浅尾

そうですね。以前、本会議で小泉首相に、失業者やフリーター対策について質問したことがあります。正規の職を求めている人に対して、職業訓練の機会を与える政策が必要じゃないか、そのための財源も含めて考えたらどうかと。目指すのは日本型のワークシェアリングです。

産業別に人件費を比較すると、一番高いのは公務員費で、1人平均1,000万円。みんなで痛みを分かち合うのがワークシェアリングの精神なら、公務員の方にも痛みを分かち合ってもらって、人件費を1割カットすると、4兆円つくれるんです。4兆円のお金があれば、失業者とフリーター400万人に1人100万円ずつ研修費が用意できる。そうやって、次の職に就けるようにしてあげることを考えるべきなんじゃないか。

それから、ニートと呼ばれる人たちは、職を求めない、訓練も嫌だ、教育も嫌だという状況ですから、答えはなかなか難しい。少なくとも教育や訓練を受けたら、今日よりもいい生活が出来ることを具体的なかたちで示せればいいのではと思います。次に進むステップを用意してあげることが必要なのでは。

田中

いつも浅尾さんを偉いなと思うのは、雇用の面とか、給料の面とか、具体的にいろいろな角度から分析していることです。

浅尾

役所の人件費が高くなるのには、3つの理由があります。

1つ目は、役所は国も地方も差がなく、東京都から沖縄県まで平均1,000万円の人件費が保証されている点。公務員は国家公務員を基準に人件費を計算し、自治体の財源で賄えないとき、地方交付税で補てんされる仕組みになっています。差がない分、結果として平均値は高くなる。

2つ目は、年金と退職金が恵まれている店。具体的にどれくらい恵まれているかというと、厚生年金に20年以上加入している民間人と比べ、地方公務員の年金は月額約6万円、国家公務員だと約4万6,000円多い。民間の厚生年金は本人が月1万円負担すると、会社が1万円負担しますが、役所は国も地方も事実上の税金で2万円負担するわけです。だから、多くもらえる。

3つ目の定期昇給も大きな問題です。民間だと頑張った、頑張らないで処遇に差がつきますが、役所はたとえば年間に40日以上の欠勤がない人は全員定期昇給の対象です。ですから有給休暇の20日を含め年間59日まで休んでも、翌年にはちゃんと5,000円とか8,000円昇給します。このやり方が60歳の定年までずっと続く。

田中

つまり、差がなく高い。そういう組織はよくない。

ところで私が「憧れの国づくり」の中で興味を持ったのが、「ローカル・オプティマム」への提言。地域ごとの最適化という意味だそうですが、具体的にはどんなことですか。

浅尾

今の地方都市は、全国どこに行っても同じような景観で、特色がない。これまで長い間、「ナショナル・ミニマム」を目標に、地方交付税という『援助金』で中央と差のない「均衡ある発展」を続けてきた結果です。

何も地方が中央と同じように発展する必要はありません。逆にこうした平等意識こそが地方独自の発展を阻んでいるのではと、私は思います。今後はどの地域もそれぞれ個性豊かな特色があるような、そういう日本にしていきたい。旅をして楽しい日本に。

田中

個性化でいえば、構造改革特区という制度はやり始めているんですけどね。でも中央官庁は霞ヶ関一帯に集まったままだし、首都移転構想は一体どうなっているんでしょうね。

浅尾

今ある省庁をそれぞれのローカル・オプティマムに適したところへ配置する、「分都」から始めないと本物になりません。一案ですが、東京には金融市場がある関係から財務省や金融庁を置き、宮内庁と文科省は京都に、経産省は世界のトヨタがある名古屋へ移す。

田中

中国や韓国との関係がギクシャクしていますね。近隣諸国から嫌われるような日本では憧れの国どころではありません。私は40年前、日韓交渉を担当した椎名悦三郎外相からこんな話を聞いたことがあります。「僕が永田町で大臣を全うできるのは、僕の選挙区の岩手県民が支持してくれるからだ。それと同様に、日本が国連や欧米に向かって国益を全うするには、日本の『選挙区』のアジアの中で信頼される国にならないといけない」と。

最近そうした先輩たちのさまざまな知恵と我慢と努力が忘れられているような気がしますね。

浅尾

外交で一番大事な点は、相手に理解してもらえなきゃしょうがないということです。どうも日本の議論は国内で終始していて、相手に伝わらない。外交になっていないんですよ。

それから自分たちの行動や文化に自信がないと、どうしても責任を外に求めるナショナリズムになってしまう。「憧れの国づくり」にふさわしい余裕のある豊かなナショナリズムを育てていくことは、私たち世代の課題です。

田中

小泉内閣ができて1年目ぐらいのとき、当時衆議院の副議長を務めていた渡部恒三さんが、「民主党は獲物を仕留めないうちに(政権交代が実現しないのに)、肉の分け前でけんかをする」と苦言を呈していました。

浅尾

たしかにその通りです。

田中

まず獲物を仕留めるために全力をあげる。これはまさに民主党の今日的テーマですね。


SOLA VOL.81

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