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more楽:夏の歌舞伎の定番・怪談 怨念の怖さ、ゾクッと

 夏に多く上演される歌舞伎演目に怪談物がある。冷房のない時代に暑さで遠のきがちな客足を芝居に向けるための、飽きさせないようにする工夫だ。冷房完備の現代にも怪談物の伝統は受け継がれ、8月の東京・歌舞伎座の「納涼大歌舞伎」では2部に「真景累ケ淵(しんけいかさねがふち)・豊志賀の死」、3部に「怪談乳房榎(かいだんちぶさのえのき)」がかかる。ともに三遊亭円朝作の落語が原作だ。【小玉祥子】

 芝居に幽霊が登場する素地は昔からあった。歌舞伎の演目に影響を与えた能は、曲の大半の主役(シテ)が「××の霊」、つまりは亡霊だ。「納涼大歌舞伎」の2部で上演される「船弁慶」も同名の能が題材で、主役は平知盛の霊(中村勘三郎)である。能では幽霊のほとんどが、僧の祈とうで成仏するが、歌舞伎の幽霊の多くは、もっと攻撃的だ。

 「豊志賀の死」の女主人公、豊志賀は富本節(とみもとぶし)の師匠。年下の弟子、新吉と恋仲だが、目の下の腫れ物が原因で病床に。豊志賀は看病する新吉と弟子のお久の仲を疑って嫉妬(しっと)に狂い、病状も悪化。新吉は身辺に、豊志賀の影を感じるようになる。

 「恋におぼれた豊志賀は、年上という引け目もあって相手の心を疑い、心理的に追い詰められます」と、豊志賀を演じる中村福助さんは話す。

 同作に「神経」を意味する「真景」の2字が冠されたのは明治以降だ。「神経病が人に幽霊を見させる」という趣旨の言葉が円朝の原作にある。文明開化の世になると荒唐無稽(むけい)さは嫌われ、幽霊の登場にも理屈が求められた。

 対して、江戸に発表された怪談物の幽霊はもっと単純だ。ほとんどは、直接的な恨みで姿を変じる。たとえば「累ケ淵」と同じ累伝説を題材にした、鶴屋南北作「法懸松成田利剣(けさかけまつなりたのりけん)」の舞踊「かさね」のかさね。恋する与右衛門に命を奪われ、怨念(おんねん)から幽霊となる。同じ作者の「東海道四谷怪談」でも、主人公お岩は自分を裏切った夫の伊右衛門を恨み、幽霊となって復讐(ふくしゅう)する。

 幽霊は女ばかりではない。「乳房榎」には、絵師、菱川重信(勘三郎)の幽霊が登場する。弟子、磯貝浪江(中村橋之助)に謀殺され、妻のお関(福助)は夫の敵とも知らず浪江の妻に。重信は幽霊となり、浪江を翻弄(ほんろう)する。

 「怪談物の成否は、お客様にいかに怖さをイメージしていただけるかにかかります。幽霊におびえる役者は、いわば観客代表。驚く姿を見て、お客様も怖さを感じるわけです」と福助さん。

 「乳房榎」のもう一つの見どころは、本物の水が流れる大滝での立ち回り。夏芝居は水を使う演目も多い。涼を演出する昔人の工夫である。納涼大歌舞伎は8月8~27日。問い合わせは電話03・5565・6000へ。

毎日新聞 2009年7月25日 東京朝刊

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