2009-07-26
沈黙は金?
ダブルスタンダードだから何?(法華狼の日記)経由で、9条ナイフ滅多刺し男の件に関する的外れな反論へのお返事(週刊オブイェクト)を見て。
万引きとか痴漢とか、そういうのものなら9条護憲派・無防備運動推進者であろうと自衛官であろうと右翼活動家であろうと、「何十万人と居るのだから一定の確率で犯罪は起きますね、だからどうしました?」で終了です。一般人と比べて突出して犯罪発生率が高いとかでもない限り、問題視はされません。
ですが、9条護憲派・無防備運動推進者については、他者を故意に傷付けたり殺人行為を犯す罪を働いた場合、徹底的に批判される事になります。理由は冒頭で説明したとおり、「普段の運動で主張している事と全く逆の事をしたから」です。ダブルスタンダードが問題視されているのですね。平和運動家による殺傷行為は、これまでの運動・活動実績を全て駄目にする最悪の行為です。
まず疑問に思ったこととして、いわゆる9条護憲派・無防備運動推進者(以下、本記事では護憲派といいます。)というのは、普段、殺人はやめましょう、とか、人を刺してはいけません、とかいう運動をしているのでしょうか。それは警察とか防犯協会とかの役割だと思うのですが。もちろん、護憲派が問題としている戦争という存在を、単なる殺人の拡大版だとみなすのであれば、護憲派は、今回の殺人未遂のような地域での犯罪についても反対を訴えているんだ! と受け取れるのかもしれませんが……。そう考えてしまうと、彼らの主張に必ずしも賛同しない私ですら、彼らは日頃は実に立派な活動をしているんだなぁ、と思ってしまいます。
でも、私の知っている限りでは、護憲派というのは「9条を守り、自衛隊は廃止すべき」とか「各都市が無防備宣言して戦争に巻き込まれないようにすべき」とかいう主張のはず。これを具体的に「他者を故意に傷付けたり殺人行為を犯す」ことまでにも反対しているものと捉えて、殺人未遂というこれと全く逆のことをしたからダブルスタンダードとするのは、適切なのかどうか疑問があります。
何か不祥事や罰せられるべき事件を起こした、ある特定の集団に所属する者について、特段、他者より(道義的なものを含めて)重い責務を課そうとするということは、逆に言うと、平常時のその集団の活動に対して、公益性などの高い意義を認め、その活動に優遇を与えているということになろうかと思います。公務員なんていうのはまさにそういう存在ですから。今回の場合では、護憲派の「他者を故意に傷付けたり殺人行為を犯す」行為について徹底的に批判されるべきとの主張ですので、少なくとも、その行為を防止、抑制等することについて、護憲派に何らかの高い意義があるということを認めることにならざるを得ません。主張や活動の意義を認めていないのに、それに基づいて、ある批判されるべき犯罪を他者、ましてや自衛官のような公務員より重く批判するというのはおかしな話ですから。しかし、果たして護憲派の主張というのはそういうものなのでしょうか。彼らの主張自体はもちろん尊重するにしても。
それに何より、先の理屈を認めると、護憲派が彼らの主張に反対する人たちに対して、お前は「他者を故意に傷付けたり殺人行為を犯す」ことに反対しないのか! みたいな難癖をつけることも、間違いではないことになってしまうように思います。護憲派が自ら言い出すならともかく、彼らの主張をわざわざ拡大解釈し、意義を付け加える必要性は、果たしてあるんでしょうか。
またちょっと疑問なのが、「他者を故意に傷付けたり殺人行為を犯す」行為について護憲派のみ徹底的に批判されるとなると、いわゆる改憲派はその行為についてどういう態度を取っていることになるんでしょうか。中立?
あと、私も「他者を故意に傷付けたり殺人行為を犯す」行為についてはどう考えても反対だし、何かの事件に際してそういう主張をする可能性が(インターネット外を含めて)あります。というより、こういう主張にならない人は少ないわけで、主張しちゃった人が、万が一そういう行為を行った場合、「普段の運動で主張している事と全く逆の事をしたから」で、徹底的に批判されちゃうんでしょうか。個人の発言で、運動じゃないからOKなのかもしれませんけど、それはそれでよくわからない基準ですし、変に主張をしないで黙っているのが一番、という結論になってしまいそうです。
それに、「他者を故意に傷付けたり殺人行為を犯す」行為に反対する運動をしている人より、運動していない人の方が万が一の場合に批判が弱くなるのなら、誰が運動なんかするのかとも思います。警察官のように一定の待遇が保障されているのなら別でしょうけど。また、殺傷行為を始めとする各種犯罪に反対し防止に取り組む防犯協会などはボランティアで成り立っていたりするわけですから、先の理屈ではそういう有益な活動に打撃を与えてしまいそうなところが気になります。