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日韓ドラマ壁超えて 脚本家が交流・合作

2009年7月25日

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 日韓のテレビ界に新しい風が吹いている。脚本家が交流する会議が6月に開かれ、完成したばかりの日韓合作ドラマが初公開された。中国も交えた3国で連続ドラマを合作する構想もまとまった。韓国では日本のドラマの地上波放送が禁じられているが、障壁を乗り越えるかのような新たな息吹がわき上がっている。

◇「伝統生かし質高い作品を」

 ホールのスクリーンに、ドラマの予告編が大写しになった。俳優は韓国人で、韓国人スタッフが撮った。だが、脚本は向田邦子賞を受賞している大石静さんや北川悦吏子さんら日本の売れっ子の書き下ろしだ。

 ソウルで開かれた第4回アジア放送作家カンファレンス。日中韓など八つの国・地域から脚本家やプロデューサーら約130人が集まり、国を超えた合作の可能性について話し合った。

 上映された予告編は、長崎県で昨年あった第3回カンファレンスで日本放送作家協会の市川森一理事長と韓国・番組制作会社の申鉉澤(シン・ヒョンテク)会長が意気投合し、合作が決まった7作のものだ。

 尾崎将也さんが脚本を書いた「トライアングル」は本編も公開された。美術品をめぐる犯罪に三角関係が絡むサスペンス。テンポのよい劇的な展開は「韓流」だが、笑いと真剣味が同居したセリフ回しは日本的だ。ジ・ヨンス監督は「繊細な感情表現は韓国ドラマには珍しいものだった」と語った。

 国際的な合作は、現場の作り手にとってよい刺激だ。

 合作の一つに脚本を提供した中園ミホさんは、タレント重視の日本のドラマづくりに閉塞(へいそく)感を抱いていた。そんなとき、韓国の脚本家に出会って悩みが吹っ切れ、07年のヒット作「ハケンの品格」につながったという。「韓国では脚本家の誇りが大事にされている。私も魂を入れて創作を続けなければと思った」と話す。

 会議を司会したホン・ヨンラク・東亜放送大教授も「合作で、アジア固有の価値や伝統を生かした質の高い作品が生まれる可能性がある」と総括した。

 日韓では02年のサッカーワールドカップ(W杯)共催で友好ムードが高まった当時、民放が中心になってドラマ3作を共同制作した。だが、その後は本格的な共同制作は途絶えている。

 02年の「フレンズ」を手がけたTBSの貴島誠一郎・ドラマ制作センター長は「文化や習慣の違いを乗り越えるのは大変だった。意義はあったが、再びやろうとは思わなかった」。弁当を食べる順番でさえもめたという。

◇日本・地上波ドラマ解禁目標 韓国・日本の資本生かしたい

 植民地支配の歴史から、韓国政府は戦後、日本の大衆文化の流入を禁じてきた。扉が開き始めたのは98年。マンガや映画、音楽など分野ごとに4回に分けて解禁してきた。ドラマは04年にケーブルテレビなど有料放送で年齢制限付きで解禁された。しかし、地上波での放送は見送られたままだ。

 韓国文化体育観光省の担当課は「政策上の判断だ」としか明かさないが、04年の文化開放時に同部が発表した資料には「文化的波及効果が大きい点を勘案し制限開放とする」とある。韓国のメディア研究者の一人は「地上波の番組は誰もが無料で見られるため、影響力が他の分野と比べて格段に大きい。日本人が日本語で笑ったり泣いたりするドラマは、日本語を強要された歴史を呼び覚ます恐れが強い」と指摘する。

 こうした事情もあり、日本のドラマは韓国市場でふるわない。韓国政府系のシンクタンク、韓国コンテンツ振興院が08年の韓国のテレビ番組の輸出入を調べたところ、日本が韓国から輸入した番組は金額にして7911万ドル。9割がドラマだった。一方、日本が韓国に輸出した額は295万ドルで輸入の27分の1。8割以上がアニメだった。

 ただ、韓国でも、若い世代を中心に日本のドラマへの関心は高い。インターネット経由で違法に配信されたドラマが多くあるからだ。日本での放送の翌日にも字幕をつけた動画が流れている。

 合作を地上波のドラマ解禁につなげ、市場を広げたい、との思いが日本の放送関係者には強い。韓国側にも日本の資本を生かして米国に対抗できる大作を生みたいという狙いがある。

 解禁の見通しはどうか。

 韓国文化体育観光省の幹部は「映画では世界市場を目指した日韓合作が始まっている。ドラマもそうなっていくべきだ」と話す。

 日韓の文化交流に詳しい静岡県立大の小針進教授は、韓国にとって文化開放は「外交カードでもある」と指摘。「李明博大統領は対日重視の姿勢を示しており、あとはタイミングの問題だけだろう。日本への友好のメッセージ、あるいは新政権誕生への土産として、効果的な時期を見計らって開放を進める可能性がある」と話している。(西正之、赤田康和)

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