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更新:7月24日 12:10デジタル家電&エンタメ:最新ニュース

日本のコンテンツ産業を支える同人活動の実態

 プロ・アマを問わず、ゲームなどのコンテンツを制作した経験がある人は、いったい日本にどれくらいいるのだろうか。日本はアマチュアの同人活動が盛んだというイメージがあるが、その実態を裏付ける研究成果が明らかにされた。(新清士のゲームスクランブル)

■50万人が来場するコミケの威力

 日本のコンテンツ産業がアニメやマンガといった分野で強いのは、夏と冬に開催される「コミックマーケット」に代表される同人誌即売会が発達したことも1つの理由だろう。同人活動は多数のアマチュア制作者を生み出す場になってきた。

 夏場のコミックマーケットは、毎回3万5000ものサークルが参加し、55万人以上が来場する巨大イベントに成長している。しかし、実際にコンテンツの制作活動をしている人や過去に制作した経験を持つ人がどれくらいいるのかを示すデータはこれまで存在しなかった。

 その実態を明らかにしようと、芝浦工業大学システム理工学部准教授の小山友介氏が、20代、30代、40代の男女を対象に1万人規模のアンケート調査を実施した。対象としたコンテンツは、イラスト、マンガ、小説、ゲーム、映像で、調査結果の一部は今年4月にKDDI総研R&A誌で発表された。今回は、7月11日のゲーム開発者協会日本(IGDA日本)主催のセミナーで小山氏が報告したゲーム分野を中心とする研究結果をご紹介しよう。

■予想以上に多い創作経験者

 調査の結果は意外だが、「作品を創る楽しみ」を経験したことのある人は想像以上に多い。特に、マンガと小説は20代から40代までのどの世代でも創作経験者が多い。平均ではマンガが34.8%、小説が23%、ゲームは11.6%という結果になっている。

年代別のコンテンツ創作の状況

 「現在、定期的に創作活動を行っている」と答えた人も多い。マンガでは全体の2.6%、最も多い20代女性では5.1%の人が「定期的に描いている」と答えている。これは日本の人口から考えると相当な数にあたり、20代女性約710万人のうち、約36万人がマンガを描いているという計算になる。小説はもっと多く、全体で4.7%、最も多い20代女性で9.9%。20代女性の10人に1人は小説の創作を楽しんでいるようだ。

マンガを描く人の割合

小説を書く人の割合

 一方、ゲームはかなり傾向が違う。「現在、定期的に制作している」と答えた人の割合は全体で1.3%で、他のコンテンツと比べると必ずしも多いとはいえない。経験者の割合は20代男性で19.9%、30代男性で19.8%と若い世代では高いが、現在制作している人に限れば、20代男性で3.1%(約23万人)、30代男性で1.4%(約13万人)となる。

ゲームを制作している人の割合

 ゲームがマンガや小説に比べて相対的に低いという結果について、小山氏は「創作のための技術の習得が必要であること、機材や装置が比較的高価であることなどが理由ではないか」と述べている。また、ゲームは、男性のほうが創作活動に関わる割合が高いという特徴があり、「これはゲームで遊ぶ人が男性に偏っていることが要因ではないか」と指摘する。こうした違いはあるが、小山氏は調査結果について「思っていたよりは多いと捉えるべきではないか」と総括している。

■プロが趣味でゲームを開発

 調査ではさらに、「現在、制作している人」を対象に「プロかアマチュアか」を聞いた。ここでもゲームは、「他のコンテンツよりもプロが多い」という特徴的な傾向が出ている。

 「すでにプロとして活動しているし、個人的な活動(同人活動など)もしている」と答えた人が7.1%。つまり、ゲーム開発を仕事としている人が、趣味としてもゲームを制作している姿が見えてくる。マンガ、小説よりその比率は高い。

 「iPhone」向けをはじめとする新しいインディペンデント系のゲームは、プロの開発者が名前を出さずに、趣味で開発しているケースが少なくない。私自身も、日本のゲーム会社に所属する開発者が、趣味で開発・発表している例をいくつか知っている。

 家庭用ゲーム機向けのゲームは、プロジェクトの期間が2〜3年と長期化し、開発現場では具体的な成果が見えにくくなっている。そのため、数週間、数カ月で結果が出る小さなゲームを技術的な腕試しもかねて作るという場合が見受けられる。

 匿名でネット上に公開されるゲームの中には、アマチュアでは開発が難しいと思える技術水準のものがいくつもあり、プロが混じっているのではないかとみられてきた。小山氏の研究はそれをデータで裏付けた格好になる。

 一方、アマチュアの制作者についても、ゲームはマンガや小説と比べ、「他の人に見せたい」という欲求が強いという特徴がある。「誰にも見せたり発表したりしたことはないが、うまくなったらそうしたい」と答えた人はマンガでは約7%、小説では約13%だが、ゲームは23.9%にも上っている。

 小山氏は「まだ見ぬ開発者も多い」と述べ、プロの制作者をめざそうとする潜在層の厚さを指摘している。

■人材育成の「場」が重要に

 「どのようにして技術を習得したのか」という質問でも、ゲームはマンガ、小説に比べ顕著な違いがある。

 「完全な独学」と答えた人はマンガが33%、小説が47%、ゲームが41%とそれほど大差はない。ただ、独学以外では、マンガ、小説は「大好きな作品の模写・模倣」「雑誌で学んだ」という比率が高い。つまり、一人で学習環境を整えらえるという側面が強い。

 一方、ゲームは「市販の『○○のかきかた』的教則本」や「サークルで仲間や先輩から学んだ」「カルチャースクールなど、フルタイムの学校でない教室で学んだ」など、刺激しあう仲間や教育者の役割が大きい。アマチュア制作者を育てる土壌として、専門書籍や学習環境が整った場が重要なことが見えてくる。

 この研究から、日本のゲーム産業が学べることは、2点あると考えられる。

・大型プロジェクトを抱える既存のゲーム会社は、小さなゲームなどの新しい市場に関心を持つ社員の能力をうまく活用しきれていないのではないか
・アマチュアのゲーム制作者を育てる環境として、制作者が技術を習得し刺激しあう場を積極的に整えていく必要があるのではないか

 小山氏の研究は、日本のコンテンツ制作者に持たれていた漠然としたイメージを裏付ける貴重な成果であり、日本のコンテンツ産業が趣味で創作活動をしている人たちに支えられていることを証明しようとしている。

 今回の調査結果は、まだ最終的な形での発表ではない。今秋に出版される「コンテンツ産業の深層構造(仮題)」(出口弘、田中秀幸編著、東京大学出版会)にまとめて収録される予定であり、さらに詳しい分析が待たれる。

・KDDI総研R&A 2009年4月号
http://kddi-ri.jp/RA/rplist.html?date=200904

・国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)※小山氏の資料へのリンクあり
http://www.igda.jp/modules/bulletin/index.php?page=article&storyid=76

[2009年7月24日]

-筆者紹介-

新 清士(しん きよし)

ゲームジャーナリスト。立命館大学映像学部講師

略歴

 1970年生まれ。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心にリサーチするジャーナリストに。ゲーム開発者を対象とした国際NPO、国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)代表。コンピュータエンタテインメント協会(CESA)理事。日本デジタルゲーム学会(DiGRAJapan)理事。著書に『「侍」はこうして作られた』(新紀元社)
<関連リンク>

国際ゲーム開発者協会日本
E-mail:sakugetu@gmail.com

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