11月7日午後、最高裁で「痴漢冤罪沖田国賠訴訟」の判決言い渡しがあり、痴漢行為があったとする東京高裁の判決を破棄して同高裁に差し戻されました。冤罪との原告の主張が認められたに近い形です。
声を詰まらせながら、犯罪者の汚名を晴らした喜びを語る沖田光男さん(報告会・参議員会館)
弁護団の発言
●痴漢があったとする高裁判決は間違っていることを明確にし、高裁で審理をやり直せという最高裁は判決。沖田さんの話と、女性が電話をしていた相手の男性(Aさん)の話は一致している。女性の話は矛盾がある。
最高裁は逮捕、身柄拘束についての請求は残念ながら否定している。本日の判決も痴漢はなかったと確定させるまでに至っていない。審理を尽くしていないから高裁でもう一度調べなさいという判決。痴漢がなかったことを確定させる審理が残されたのは残念だが、突破すれば、痴漢をやっていないことを明らかにする道が切り開かれる。
女性の供述のみで逮捕、拘留、裁判は間違っている。相手の話も聞きなさいということ。捜査のあり方について、今日の判決は問題提起をしている。警察、検察の捜査の過ちを正すための力となる判決だ。高裁でゆるぎない判決を勝ち取りたい。
●被害女性の申告だけで逮捕、認定はとんでもない。客観的な分析が必要だと私たちは主張してきた。電話の相手(Aさん)の供述を分析すべきだ。判決は客観的矛盾を指摘している。高裁判決は根拠が乏しいと判断された。ここを拠り所にして高裁の誤りを正したい。
●最高裁の開かずの扉を開けた。沖田さんと電話の男性(Aさん)の話は一致しているが、女性の話は不一致。事実に照らしてもっと調べろという判決。混雑している電車ではないし、身長差がある。沖田さんが女性の腰にいやらしいことをやったということ自体、疑問に思わないといけない。女性の供述は嘘が明らかにもかかわらず、高裁は(痴漢行為を)認定した。
●審理不尽(高裁の審理は尽くされていない)と最高裁が判断した。勝利が確定したわけではない。女性とAさんの供述が一致しない。客観的証拠を優先するというメッセージ。公正な裁判を受けられるように頑張りたい。
●最高裁の弁論で、彼女が意見陳述をした。支援者を中傷するような発言をした。裁判の争点と関係のない中身。事実と違う。ホームページで支援者が女性を誹謗したり、危害を与えるような発言をしていたというが、まったくの誤りだ。支援者は権力に対する闘いをしていることを明言している。
今日の判決は納得のいく判決。沖田さんや奥さんにすれば、今日で終わるわけではない。Aさんの証人尋問を控えている。可能性はきわめて低いが、高裁で負ける可能性もないとはいえないので、きっぱりした勝利の判決を獲得したい。
●痴漢冤罪事件は客観的証拠に乏しく、被害者と加害者の供述が重要になるが、女性は本当のことを言っているのではないかという予断がある。客観的な証拠が大事だと、私たちは事実認定で訴えてきた。最高裁はきちんと明解に応えてくれた。
客観的な目撃者に準ずる人としてAさんを認定した。沖田さんとこの男性の話が一致している。女性の話を鵜呑みにするな。女性の話自体、根拠に乏しい。女性に有利に進展した一審二審の判断に対する大きな批判。痴漢冤罪を晴らす大きな力となる。
●沖田さんは女性に1回注意しただけ。検察は嫌疑不十分で不起訴にした。女性は、『離れてよ』『へんなことして』などと言ったと主張しているが、電話の相手はその言葉を聞いていない。男性と沖田さんの話は一致している。裁判の事実認定も正してほしい。高裁では完膚なきまで勝利を追い詰めていきたい。
●A供述は沖田さんの味方。K証人(検察官)も沖田さんの味方。沖田さんは孤立していない。女性のみ孤立している。警察と検察(に対する請求)について最高裁はなぜ受理しなかったのか。今日の判決の影響を考えたとき、女性の言い分だけを聞いて逮捕し、起訴することへの大変な警鐘になる。裁判所の不公平な審理についても警鐘を鳴らしている。痴漢事件で苦しんでいる人々の支援となることを、今日の判決は促している。
警察に大変な緊張を与えた。全体として大勝利。高裁で勝利を勝ち取らなければいけない、9年前の事件だが、事件直後にAの供述書が取られている。Aは女性と特段の利害関係はない。信用性がある。Aが彼女の味方をすれば偽証罪になる。リスクを負っている。(最高裁は)高裁判決を批判しているので、高裁は緊張感をもってやることになる。頑張れば成果があがる事件。
沖田さんの発言
今日の判決は1つの勝利。支援してくださったみなさんが勝ち取った、みなさんの勝利。私個人としては、犯罪者の汚名を着せられたが、今日破棄された。汚名を着せられたままでいるのと、そうでないのとではまったく違う。今日の判決は私にとって大きなものだった。この先の勝利につなげていきたい。
犯罪があったかなかったか審理されてきたが、一番よく知っているのは自称被害者の彼女と私。どうしても真実を明らかにしないと気持ちが吹っ切れない。今日1つの真実が明らかになった。裁判所で審理が尽くされ、真実が明らかになることは大きい。
嘘を言って生きていく人生、これはつらい。彼女にとっても真実が明らかになることはいいことだと思います。お互い、この裁判を通して真実を明らかにし、人間として堂々と生きていきたい。最高裁判決はその一歩となった。真実を明らかにするために高裁で闘いたい。
質疑応答
質問 今日は(自称被害者の)女性はきていないのか。
答え 本人も代理人もきていない。
質問 A調書は本来あるべき。裁判所では紛失となっているが、実際あるのか。
答え A調書がどこにあるのかわからない。検察官は破棄したと言っている。検察は検察に都合の悪い書類は出さない。都合のいいものだけ出してくる。A調書は出していない。裁判所は踏み込んで出しなさいと言わなかった。真実はわからない。破棄したのか、あるのかわからない。
質問 Aの証人尋問をするのか。
答え 今後の審理の状況によるが、焦点になることははっきりしている。
質問 高裁でどっちになってもまた最高裁があるのか。
答え 身長差、矛盾点、A証言など、客観的事実について、まったく違う判断をすることはない。最高裁のしばりがある。高裁のあと、上告すれば最高裁で再度審理をすることはあり得るが、最高裁のしばりがあるので、今日の枠組みを崩せない。書類審査のみ。上告はできるが門前払いの可能性がある。
沖田さんと弁護団による声明
不当な高裁判決を差し戻した最高裁判決についての声明
本日、痴漢冤罪沖田国賠訴訟について、最高裁第2小法廷(今井功裁判長)は、虚偽申告を否定した東京高等裁判所の判決に問題があることを明らかにし、同判決を破棄して、東京高等裁判所に差し戻した。
上告人は、1999年9月2日深夜、中央線JR国立駅を下車して帰宅途中、電車内での痴漢行為を理由に警察官に現行犯逮捕され、その後の勾留を含めて21日間にわたって、不当な身柄拘束を受けたのち嫌疑不十分で不起訴となった。上告人は、JR中央線の電車内で携帯電話を注意しただけであるにもかかわらず、注意を受けた女性は腹いせに控訴人が痴漢行為をしたなどと警察官に虚偽を申告したものである。
本日の判決は、この女性の被害申告について、問題があることを指摘したものである。私たちは、差し戻された高等裁判所での審理を通じて、上告人による痴漢行為が存在しなかった事実を確定するよう最後まで取り組むものである。
最高裁は、すでに警察による現行犯逮捕、及び検察官による勾留請求など上告人の身柄拘束等について、東京都及び国の責任を否定した判断をしており、この点では、非常に残念であるけれども、本日の判決は、女性の被害申告にもとづいて上告人を現行犯逮捕して身柄を拘束した捜査自体にも問題があったことを示すものである。
痴漢事件について多発する冤罪は、事実に反する女性の被害申告を鵜呑みにした杜撰な捜査が行われていることによるものであるが、本日の判決は、客観的な事実を重視する重要性を指摘したものであり、今後の痴漢事件の捜査及び刑事裁判手続について、警鐘を鳴らすものである。私たちは、本日の判決にもとづき、痴漢事件の捜査や裁判のあり方が根本的に見直され、冤罪が根絶されるよう引き続きたたかうものである。
控訴人(一審原告)沖田光男
痴漢冤罪沖田国賠訴訟弁護団
沖田国賠訴訟に勝利し、警察・検察をただす会
筆者の感想
この事件はテレビを見て知っていましたが、裁判を傍聴したのは今回が初めてでした。報告会で沖田さんが犯罪者の汚名を着せられてきた苦しみを語ったとき、言葉に詰まる場面がありました。
事件が起きてから9年、裁判が始まってからも6年が経過し、沖田さんや家族の方々がどれほどの苦しい年月を過ごしてきたか、懸命に涙をこらえている沖田さんの姿が物語っているような気がしました。
「真実を知っているのは私と彼女だけです」「嘘をつく人生はつらい。彼女にとっても、裁判で真実が明らかになることはいいことだと思います」と語る沖田さんの言葉を受け止め、差し戻し控訴審では、自称被害者の女性は、勇気をもって真実を語ってくれることを願っています。