パリを描いた日本人画家といえば、まず思い浮かぶのは佐伯祐三、荻須高徳あたりか。しかし、独創性という点では、赤や白の輪郭線、細密な線描が特徴のこの人の右に出る人はいないだろう。
岡山市出身の洋画家赤木曠児郎さん。パリに暮らして45年余になる。当初は服飾デザインの勉強が目的だったが、1968年の五月革命で美術学校が休校に。「仕方ないから外に出てスケッチを始めた」のがきっかけで、パリの街角を描き続ける。
1枚仕上げるのに30回は現場に向かう。双眼鏡でのぞきながら、れんがの一つ一つ、壁のひび割れまで克明に描き込む。独特の筆致は「アカギのパリ」としてパリ市民にも親しまれる。
そんな赤木さんが久しぶりに岡山市の天満屋岡山店で個展を開いている。エッセー画集「アカギの版画パリ百景」の刊行記念展だ。歴史的建造物から場末の裏通りまで、パリを知り尽くした赤木さんならではの視点が光る風景がずらり。パリの街角を散策している気分になる。
「街の表情は刻々と変わる。だから、今のパリの風景を残しておきたい」。パリ風景の素描原画500枚達成が当面の目標だ。あと30枚。3年はかかるという。
赤木さんが描く絵は、パリに対する愛着の証しであると同時に、貴重なパリの歴史の記録でもある。