きょうの社説 2009年7月25日

◎減少する救急病院 「コンビニ受信」を控えよう
 石川県内で「救急告示病院」の減少が続いている。救急患者を24時間受け入れる体制 の維持に必要な経費が病院経営を圧迫していることや、激務の救急医療現場を担う医師不足が大きな要因とみられる。県は対応策の一つとして、救急医療に関するマニュアルを作成して関係機関の連携強化を図る考えというが、救急医らの負担を軽減するため、県民に適切な受診を促す啓発運動にもっと力を入れたい。

 救急病院の外来患者は年々増加している。例えば県立中央病院救命救急センターの時間 外救急患者数は、2002年度で約1万9500人だったが、07年度には約2万4000人に増えている。しかし、時間外患者の9割は入院を必要としない軽症患者という。

 近年は、24時間営業のコンビニに行く感覚で、軽症患者が救急外来を訪れる「コンビ ニ受診」も増えていると指摘される。

 また、消防庁のまとめでは、救急車で運ばれる人は全国で年間500万人ほどいるが、 その半数は軽症、重症は10%程度で不要不急の出動も少なくないという。こうした状況は、救急車・救急病院の不適切な利用によって、医療現場が必要以上の負担を強いられていることをうかがわせる。

 医師や看護師の負担を軽くして地域の救急医療体制を維持していくためには、住民の理 解と協力が不可欠なのであり、適正受診を促進する「県民運動」を大々的に展開している自治体もみられる。

 兵庫県のある病院では、医師不足で小児科の維持が危ぶまれたため、地域の母親たちが 「コンビニ受診を控えよう」と呼びかけ、医師の負担軽減に協力することで小児科の存続につなげた例もある。母親たちの運動によって、この小児科の救急外来受診者数は半減したという。

 石川県内も、小児救急医療体制の確保は切実な課題であり、県はこれまで、救急診療を 受ける目安を示した冊子を作成し、夜間小児救急電話相談を開設するなどして適切な受診を呼びかけてきた。今後、若い母親や一般県民向けの救急医療講座など、さらなる啓発活動を考えてもらいたい。

◎経済財政白書 景気回復こそが格差対策
 09年度の年次経済財政報告(経済財政白書)のポイントは、企業が余剰人員として抱 えている「企業内失業」が最大607万人に達し、1980年以降で最悪になったこと、非正規雇用者と正社員との生涯所得の差が約2・5倍となるなど格差が拡大していることである。

 白書は非正規雇用者の失業リスクの高まりを懸念し、セーフティーネットの充実や社会 保障制度に対する信頼向上などに取り組む必要性を訴えている。むろんこうしたことも重要だが、強調しておきたいのは、白書も同時に指摘している通り、景気回復こそが「最大の格差対策」という点である。経済対策によって景気を下支えすることは政府として最重要の課題であり、落ち込んだ需要を増やさぬ限り、格差是正も企業内失業の解消も進まない。

 白書によれば、日本経済の需要不足は年間45兆円に上り、デフレが深刻化する恐れが あるという。昨年秋以降の世界的な景気の悪化は、今年春ごろから持ち直しの動きが見られるとはいえ、生産活動は依然として低く、雇用調整圧力は高い水準にある。

 麻生政権はこの間、四度の経済対策を打ち、日銀も社債の買い切りなど思い切った企業 の資金繰り支援を行ってきた。白書はこれらの景気刺激策によって「公共投資を上向かせ、企業倒産や失業の急増を緩和している」と評価したが、これで十分とはいえない。政府、日銀ともに状況に応じて追加的な対策を打つ準備をしておく必要があるのではないか。

 製造業を中心に各企業は非正規雇用者との契約を大量に打ち切るなどして、雇用調整を 進めてきた。それでも正規雇用者の解雇はまだ少なく、生産水準を大幅に超える労働力を企業内に抱えている。

 これ以上生産が減り、正規雇用者の雇用調整が始まれば一大事である。非正規雇用者の 再雇用が遅れるだけでなく、雇用者所得の減少が個人消費を押し下げる「負のスパイラル」に陥り、不況が一層深刻化しかねない。経済対策は、最大の雇用対策でもあることを改めて指摘しておきたい。