国語審議会に於ける提案 (資料)


        提    案  二


「現代かなづかい」制定の基本方針について

提案者 委員  吉 田 富 三  
昭和三十九年三月十三日  

   議   案
  「現代かなづかい」は、日本語の新しい仮名遣ひを創造することを企図したものか、歴史的仮名遣ひを基準として、その不合理、不備の点等を正すことを方針とするものか、何れであるかを明かにすること
   提案理由
  第六期審議会の報告書「国語の改善について」に於ては、一方に於て「現代かなづかいは、現代語の現代語音を仮名で表記する場合の準則を定めるものである」と記され、他方に於て、「現代かなづかいが歴史的かなづかいとの関連において説明されている部分があるが、この点にも検討すべき問題がある」と記されてゐる。これを以てみると、「現代かなづかい」は、歴史的仮名遣ひとの関連なしに創作されたものであると受け取るのが正しいやうに思はれる。
  然りとすれば、「現代語音」及び「現代語」とは何を準則としたものかを先づ定めなければならない。先づこれを定めなければ、「現代かなづかい」制定の基礎が失はれる。
  「現代かなづかい」に就ては、制定の基本方針を正すことが、先づ第一の段階でなければならない。




        提    案  三


小学校の漢字教育について

提案者 委員  吉 田 富 三  
昭和三十九年三月十三日  

   議   案
  「小学校の漢字教育について、石井勲氏の主張と実績とを専門的に調査研究し、漢字教育の方式として採用に価するものとの結論を得れば、国として採用の策を講ずること」
   提案理由
  「石井勲氏は、小学校に於ける漢字教育に一つの方式を創案し、既に十二年にわたって自らこれを実施し、極めて顕著な成績をあげた事を主張してゐる。また石井方式の同調者も多く、同様な実績のあげられた事も伝へられてゐる。
  「国語問題に於ては、複雑な漢字の習得が、小学校児童にとって、極めて大きな負担である事が常に指摘され、これが年来、漢字制限等の大きな根拠となって釆た事は、周知の通りである。
  「いま、石井氏及びその同調者らが、適切な方式に従へば、児童に漢字を習得せしめる事が決して難事でもなく、また児童にとって過大の負担でもない事を、その理論と実際経験による実績によって主張してゐる事は、国語審議会として看過すべからざることであると考へる。
  よって議案の如く提案する。




        提    案  四


国語に於ける伝統の尊重について

提案者 委員  吉 田 富 三  
昭和三十九年三月十三日  

   議   案
  「国語に於ける伝統尊重の具体的方策を審議すること」
   提案理由
  従来、国語審議会は、「ことばは、思想、感情を表現し、これを他人に伝達媒介する手段である」との認識のみに立脚し、この立場から、国語の平明簡素と能率とを一方的に追求し、漢字の制限、「現代かなづかい」、音訓表の制定等を実現して来た。
  然るに、第六期審議会の報告書「国語の改善について」に於ては、「ことばは社会的伝統的歴史的なものである。人々は感情、思想をそのことばによって養い、文化の伝承と創造の基礎も、ことばによってつちかわれる。したがって、ことばは単なる手段以上のものであるといわなければならない」と述べてゐる。これは国語審議会の言語認識の一大進歩といはなければならない。
  第七期の審議会に於ては、この新しい認識に基き国語の伝統の尊重を具体的政策として打ち出す為の審議を慎重になすべきであると考へる。
  敢てこの提案をなす理由は、右報告書には、右の如き認識は記されてはゐるが、それに基く新しい態度、熱意は、全文を通じて現はされてゐないからである。全文は、従来実施した施策の難点の改善にのみ急であって、基本的問題に対して、具体的に触れる所が少ない。国語の伝統の尊重は、たんに言葉で述べておけば済む様な問題ではないと考へる。国語の伝統尊重のための具体的施策として審議すべき問題は多数あるので、これを審議することを提案する。