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社説

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民主党の外交―日米同盟をどう動かす

 民主党が09年版の政策集をまとめた。内政から外交まで、約300の政策について、党の基本的な考え方を説明したものだ。

 毎年、必要に応じて手直ししたものを発表してきたが、あまり関心を呼ぶことはなかった。今年は違う。総選挙の結果次第で、2カ月もすればこの政策の方向へと国政が動くことになるかもしれないからだ。総選挙用のマニフェストもこれに沿ってつくられる。

 とりわけ注目を集めたのは、外交・安全保障政策である。

 ライバル自民党が論戦を仕掛けようと手ぐすねを引いているのは言うまでもない。同盟国の米国にも懸念の声がある。外交を担った経験のない民主党は何をしようとするのか。そんな不安を抱く有権者も多かろう。

 そのことは民主党自身も十分に意識しているようだ。

 在日米軍の兵士による犯罪のたびに理不尽さが指摘される日米地位協定。以前は「抜本的な改定」をうたっていたが、「改定を提起」に改めた。米軍駐留経費などの負担について「不断の検証」と言っていたのを「引き続き見直しを進める」と和らげた。

 インド洋での海上自衛隊の給油支援を続けるためのテロ特措法の延長には反対を表明していたのに、今回はその記述が消えた。政権についた場合、特措法の期限が切れる来年1月までは派遣を続ける方向だという。

 民主党の目的は明白である。政権を担当していきなり立ち往生することのないよう、現状を踏まえて政策を地ならししておこうということだ。国会論戦で重ねてきたとがった主張にやすりをかけ、広範な有権者や米政府に安心感をもってもらう狙いもあろう。

 麻生首相は「(給油支援などで)あれだけ反対しておいて」と怒りもあらわだ。分からないではないが、民主党も基本的な方向を転換したわけではあるまい。今後の論戦が楽しみだ。

 残念なのは、米国などに核の先制不使用の宣言を求めることや、米軍の普天間基地の県外移設など、鳩山代表らが発信してきた政策が漏れていることだ。これでは民主党がめざす「日米の対等なパートナーシップ」の目標が早くもかすんでしまいかねない。

 憲法に基づく日本の外交原則をどう貫くのか。マニフェストではそこをきちんと書き込んでもらいたい。

 在日米軍基地の移転にしても、核の問題にしても、大事なのは民主党の思い描く同盟観、安全保障観を率直に語ることだ。それを尻込みするようでは、「対等」な日米関係などありえようはずがない。幸いというべきか、相手は多国間外交を重んじ、「核のない世界」を掲げるオバマ政権だ。

 自民党流の外交をなぞるだけになったら、政権交代の意味が揺らぐ。

凍結国道再開―これほど簡単に覆るとは

 国土交通省が「巨額の税金を投入する割に、得られる便益が小さい」と、着工ずみの国道18路線の工事を凍結したのは3月だった。それからわずか4カ月。17路線で工事が再開されることになった。

 予算のムダ遣い批判を受け、国交省がようやく一歩を踏み出したように見えた道路改革は、あっさり後退した。一体何のための凍結だったのか。

 凍結には地元自治体や地元選出の与野党国会議員が猛反発した。その圧力がこの「復活」劇につながったのは間違いない。簡単に復活を認めた金子国交相をはじめ政府・与党の責任は大きく、「総選挙向けのバラマキ」と批判されても仕方ないだろう。

 工事凍結は、国交省が最新の需要予測をもとに、費用対効果を客観的な基準で評価した結果だった。

 同省の有識者会議は、9路線について、4車線だった計画を2車線に変更するなど建設費用が圧縮されたので、「妥当」と判断したという。だが他の8路線は「すでに造ってしまった分がもったいない」というような理由で復活が決まった。結論先にありき、としか見えない復活劇だ。

 再評価の手法もいいかげんだが、それ以前に「優先順位や着工時期の延期はあっても、計画された道路はいずれ必ず造る」という国交省の発想そのものがまず間違っているのではないか。理由は主に二つある。

 第一に、人口減少社会となり、道路需要が増え続けることは前提でなくなった。地球環境問題への配慮も必要だ。鉄道などに比べ温室効果ガスを大量に排出する自動車の利用をなるべく抑えたい。そうした政策と矛盾しないような道路計画でなければならない。

 第二に、今後の財政運営の厳しさがある。日本はもともと先進国で最悪の財政状態だ。そこに世界経済危機で巨額の財政出動を余儀なくされ、財政は一段と悪化した。今後、公共サービスを営むための原資はいっそう厳しく制限する覚悟が必要だ。

 古い道路計画や道路予算の「常識」は、もはや通用しない時代なのだ。

 工事が再開される17路線の総事業費は約5200億円。09年度当初予算に盛り込まれていた約200億円も凍結が解除される。

 「道路がいるか」と地元に問えば「欲しい」という答えが返るだろう。だが、これだけの財源をどう使うかと問えば、また違うのではないか。医療や介護、教育など予算が必要な分野は目白押しだ。これからは公共事業に頼らない地域振興も考えねばなるまい。

 巨額の道路予算のムダ遣いを追及してきた民主党も、今回の工事復活については批判の声が小さい。政権を担うなら、この問題をどう扱うのか。しっかりした方針を聞きたい。

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