発達した梅雨前線による記録的な豪雨は山口県内に甚大な被害をもたらし、死者・行方不明者は17人を数えた。
このうち7人は、山口県防府市の特別養護老人ホームで暮らしていた高齢者である。崩れた裏山から建物に押し寄せた土石流が入所者の命をのみ込んだ。「走っても逃げ切れないスピードだった」と職員は証言しており、何とも痛ましい限りだ。
梅雨末期には梅雨前線に湿った空気が流れ込み豪雨をもたらすケースが多い。防府市の21日の雨量は1時間に観測史上最大の70・5ミリを記録、24時間雨量は270ミリを超えるという、すさまじさだった。
特養ホームの惨事では気がかりな点がいくつか浮かび上がった。一つは施設に対する市の避難勧告が土砂流入の連絡があってから約5時間後だったことだ。もっと早く情報が伝わっていたら、被害はもう少し抑えられていたのではと悔やまれる。なぜ対応が遅れたのか、しっかりと検証する必要があろう。
県の対策も後手に回っていたようだ。県は特養ホームがある地区一帯を昨年、土砂災害警戒区域に指定し砂防工事も検討していた。裏山の危険性を認識していながら、予算上の制約から本格的な土石流対策が間に合わず被害に見舞われた形だ。
土砂災害で深刻な被害の恐れがある地域を指定し、建築規制や移転促進を図る土砂災害防止法が施行されたのは8年前だ。国土交通省によると、土砂災害に遭う危険がある特養ホームや病院など要援護者施設は約1万4千に上る。このうち砂防工事などの防災対策を終えているのは約4千施設にすぎない。
山間地や丘陵が多く、脆弱(ぜいじゃく)な地盤で覆われた日本では、今回のような土砂災害はどこでも起こり得よう。的確な防災情報を素早く流すことで被害を最小限に抑えるとともに、警戒区域の再点検など安全対策をさらに強化する必要がある。
災害時に高齢者や障害者ら災害弱者を支援する体制づくりも急がれる。岡山県内では要援護者対策の全体計画を策定しているのはわずか9市町という。地域ぐるみで防災力を高めることも忘れてはなるまい。
気象庁によると、「猛烈な雨」に分類される1時間に80ミリ以上の雨の発生回数が近年急増しているという。昨年は局地的な「ゲリラ豪雨」が注目された。地球温暖化により、大気中の水蒸気量が増えたことが一因とされる。台風シーズンを前に、防災意識を一層高めたい。
中高年の登山客ら10人が死亡した北海道・大雪山系の遭難事故から1週間がたち、自力で下山したツアー客の証言から山中での極限状況が明らかになってきた。悲劇を繰り返さないために、事故原因の徹底的な究明が大切だ。
事故は大雪山系のトムラウシ山(2141メートル)と美瑛岳(2052メートル)で相次いだ。トムラウシ山では、東京の旅行会社主催のツアーに参加した倉敷市の女性ら8人が亡くなった。司法解剖の結果、全員が低体温症による凍死と判明した。
ツアーは、北海道最高峰の旭岳側からトムラウシ山まで四十数キロを2泊3日で縦走する予定だった。しかし、天候が悪化し、雨にぬれ、稜線(りょうせん)では吹きすさぶ風に体力を奪われて遅れる人が出るなど、次第にばらばらになった。
旅行会社によると、ツアーにはガイド3人が同行していたが、2人は同社のガイドとしては初行程だったという。ガイドの1人も亡くなっている。
悪天候の中でガイドはなぜ縦走を続けたのか疑問だ。ツアーには北海道、静岡、愛知、岡山、広島、山口など全国各地からの参加があった。寄せ集めのグループでは、参加者それぞれの都合を考えると日程を変更しにくいとされ、無理な行動につながったとの指摘がある。
事故の背景には手軽に参加できる登山ツアーの危うさがうかがえる。参加者の登山歴や体力にもばらつきが考えられるが、十分配慮していたのだろうか。
北海道警は、ツアー主催の旅行会社本社などを安全管理に問題があったとみて、業務上過失致死の疑いで家宅捜索した。捜索で客の装備品リストや登山行程の記録などを押収した。全容を解明し、安全な登山ツアーの教訓にしなければならない。
(2009年7月24日掲載)