中央環境審議会がぜんそくなど呼吸器疾患のみならず、心臓や血管など循環器系の疾患との関連も指摘されている微小粒子状物質、PM2.5の環境基準値案をまとめた。環境省は一般からの意見を聞くパブリックコメントなどの手続きを経た上で、秋にも基準値を告示する。
大気中の浮遊物質を巡っては、ぜんそくなどとの関係が疫学的に認められている直径10マイクロメートル以下の浮遊粒子状物質(SPM)の環境基準は設定されている。PM2.5はさらに小さい物質で、直径2.5マイクロメートル以下のものだ。硫酸アンモニウムや硝酸アンモニウム、有機炭素などからなる。微小なため肺の奥深くまで入り込みやすい。健康被害を防止するためにも早期に基準を設定することが求められていた。
その意味では、米国基準と同レベルである、年平均で1立方メートル当たり15マイクログラム以下、日平均35マイクログラム以下は穏当な数字だ。世界保健機関(WHO)基準よりは緩やかなものの、欧州連合(EU)よりは厳しく、この基準値を達成するための施策が適切に講じられれば、大気汚染の緩和は進むことになる。
大気汚染に関しては、SPMのほか窒素酸化物や硫黄酸化物、光化学オキシダントなどの環境基準が設けられている。それにもかかわらず、文部科学省の学校保健統計調査によると、小中学生のぜんそく被患率は上昇している。とりわけ、大都市部では全国平均の2~3倍の高さだ。
そうしたこともあり、07年8月の東京大気汚染訴訟の和解に際して、国はPM2.5の環境基準設定の検討を表明せざるを得なかった。米国では98年から実施され、EUも08年に実施することになっていた中で、遅ればせながら中環審で専門家による基準設定の検討を行ってきた。
PM2.5の発生源は自動車の排出ガスや工場の排煙などのほか、自然由来の飛散土壌や火山噴煙、さらには越境してくる黄砂も影響しているとみられる。
環境省が大気汚染観測点で採取したデータによると幹線道路沿い、一般市街地とも中環審が提示の年平均値の15マイクログラムをクリアしている地点はほとんどない。
基準を設定してもそれが達成されないのでは何のための基準なのかということになる。達成のための施策がセットで必要である。その手法はいくつか考えられるだろう。発生源ごとに手立てを講じていく方法が効果的ではないか。その発生源のより詳しい調査が求められる。東京都から始まったディーゼル車対策は有効なSPM削減策となった。国民の健康を守るためにも、国はPM2.5対策で手を抜いてはならない。
毎日新聞 2009年7月7日 1時23分(最終更新 7月7日 1時26分)