きょうの情報通信政策フォーラムの特別セミナーは、自民党と民主党のIT政策の責任者の政策を比較しようというものでした。といっても、自民党の世耕弘成氏は元NTT社員、民主党の内藤正光氏は元NTT労組なので、NTTの経営形態についてはあまり議論にはなりませんでした。それは私も予想していたのですが、あきれたのは民主党の政策です。
いちばん力を入れているのは「日本版FCC」ですが、これは世耕氏も批判したように「第2総務省」ができるだけで、大した意味はない。Huberなどのリバタリアンは「FCCを廃止してすべて司法でやれ」と言っているぐらいです。内藤氏も「なぜFCCが必要なのか」という質問に「他の国もやっている」としか答えられなかった。

それよりひどいのは電波政策です。民主党の「政策インデックス2009」から引用すると、
既存利用者の効率利用と新規需要への迅速な再配分を図るため、(1)電波利用料に電波の経済的価値を反映させることによる電波の効率利用促進(2)適当と認められる範囲内でオークション制度を導入することも含めた抜本的見直し――などを行ないます。
オークションについては、わざわざ「きわめて例外的に一部の周波数にかぎって導入するかどうかを慎重に検討する」と、官僚用語でいえば「何もしない」ことを付言しました。私が「ホワイトスペースについて何も言及がないが、どうするのか」と質問すると、「これから検討する」。要するに何もしないのが民主党の電波政策で、これならホワイトスペースの活用に意欲を示した世耕氏のほうがずっとましです。

周波数オークションを導入するかどうかは、単なるテクニカルな問題ではありません。それは電波をいかに効率的に利用するという、きわめて重要な(兆円単位の資源配分の)問題の答を官が決めるのか民が決めるのかという、民主党の党是にかかわる問題です。電波利用料の「経済的価値」を官僚が勝手に決め、テレビ局には格安にしている現在の制度こそ「官僚王国」日本のシンボルなのです。

ところが内藤氏の答は「欧州の3Gオークションは失敗だった」という10年前の話。その欧州では周波数の第2市場で再配分が進み、3Gサービスはもう日本より進んでいます。さらに内藤氏は「金の力で大企業が落札する」という。世界のどこに、零細企業が携帯電話を運営している国があるのか。たぶん彼は、NTTグループの代理人として「タダでもらえる電波に金を出す気はない」と言っているのでしょう。オークションに否定的なのは、世耕氏も同じでした。

政治家が既得権に配慮するのは当然です。特にNTTのような巨大組織の出身者が、中立的なIT政策を提唱するはずがない。それは自民党だろうと民主党だろうと同じですが、それを「抜本的見直し」などと称するのは笑止千万です。むしろ「古い民主党」を代表する内藤氏より「第三極」に近い世耕氏のほうがまともだということがわかったのが収穫でした。日本が本当に変わるのは、自民党が野党に転落して分裂してからでしょう。