「衆院選「候補者A」かく闘わんとす」

衆院選「候補者A」かく闘わんとす

2009年7月24日(金)

第27話 4年ぶりに資金集めパーティー

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 パーティー当日の午後3時、会場となった地元ホテル――。Aの地元後援会で事務局長を務めるHに焦りの表情が浮かんでいた。そろそろパーティーが始まる時間だというのに、参加するはずの知り合いが現れない。

パーティで受付を務めるH
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「やばいなあ…」

 受付の椅子に100キロ近い巨体を沈め、Hがため息をついた。

 Aとは、彼が初めて立候補した10年前に知り合った。毎朝1人で駅に立ち演説するAを見て、声をかけたのがきっかけだった。以降、同年代のAの活動を傍らで支え続けてきた。落下傘候補であるAにとっては、地元で生まれ育ったHは強い味方である。

 「頼み事をしたことなど一度もありません。友人として、私が勝手に応援しているだけのことです」

 Hは自営業者だが、商売の拠点は選挙区内にはない。根っからの親分肌で、地元の仲間を集めて異業種交流会を主催している。その会のメンバーが、Aの選挙ではポスター貼りやチラシ配布を手伝ってくれる。今回のパーティーにも、30人以上の仲間を誘っていた。

 利害関係なく応援してくれるHのような存在は、Aでなくとも政治家にとっては理想的な支援者である。ただし、そうした存在は簡単には見つからない。

代金上げて、300万円の黒字

 Aは今回、パーティー券の代金を前回の1万円から2万円に引き上げていた。

 「4年ぶりのパーティー、しかも選挙前ということで、皆さんにご無理を申し上げました」

 政治資金を、広く浅く集められれば理想的だろう。しかし、個人からの献金集めは簡単ではない。こうした経済事情ならばなおさらだ。別の難しさもある。

 次の総選挙で政権交代が起きる可能性がある。仮にそれが実現すれば、Aも与党の一員として、野党議員時代とは比べものにならない権力を手にすることになる。そうした事情を見越して、今から見返りを求めてすり寄ってくる“支援者”も出てくる可能性が高い。

 Aは怪しいと思う人は、極力関わらないように気をつけている。しかし、人付き合いに慎重になればなるほど、支援者集めが難しくなり、資金集めが厳しくなってしまう、というジレンマが起こるのだ。





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著者プロフィール

出井 康博(いでい・やすひろ)

ジャーナリスト。
1965年岡山県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本経済新聞社入社、「ザ・ニッケイ・ウイークリー」記者、米国黒人問題のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」の客員研究員を経て、独立。主な著書に『松下政経塾とは何か』(新潮新書)、『年金夫婦の海外移住』(小学館)、『黒人に最も愛され、FBIに最も恐れられた日本人』(講談社)などがある。また日経ビジネス2002年9月30日号コラム「ひと烈伝」でヨシダソースで有名な米ヨシダグループの吉田準輝会長を寄稿、現在「フォーサイト」(新潮社)で「2010年の開国・外国人労働者の現実と未来」を長期連載中。


このコラムについて

衆院選「候補者A」かく闘わんとす

ねじれ国会に、2代続けて首相の突然の辞任、そして総選挙。ざわつく国政に、テレビや新聞、そして週刊誌と政局関連の話題を取り上げているが、その当事者である代議士、そして代議士になろうとしている人たちは、いったい普段どんな生活をしているのかは意外と知られていない。本連載では、「地盤」「看板」そして「カバン」を持たない“フツー”の代議士や候補者の生活に焦点を当てることで、日本の政治はどのように作られるのか、そして現在の政治システムが抱える課題とは何かを浮かび上がらせていく。

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