今回の衆院選。政権選択が焦点となるだけに、各党の政権公約(マニフェスト)に注がれる有権者の目はさらに厳しいものになる。今後出そろうマニフェストについて、主な争点のポイントを識者に聞いた。
総選挙では、自民党と民主党が政権選択をかけて戦うことで、国民の関心はいやが上にも高まる。その半面、「どの政党を選ぶか」と「どんな政策を選ぶか」が結びつかない構図である点は要注意だ。
小泉構造改革は、小さな政府・市場主義改革を貫き、安倍内閣に引き継いだ。その後、福田内閣は社会保障制度の充実を目指すなど路線を変え、麻生内閣では中福祉・中負担で、市場主義に対する共同体主義(社会保障重視)の路線に大きくかじを切った。麻生内閣で自民党の党内世論が定まらないのは、前回の郵政選挙で与党議員の多くが小さな政府路線を訴えたからであろう。政権の弱体化の背景には政策哲学の急転換があるといえる。
一方、政権奪取を狙う民主党も、所属議員は、市場主義から共同体主義までのバラエティーに富む政党だ。政権奪取の好機に、党内世論に乱れはないが、実際に政権を取れば党内で路線選択をめぐる混乱も予想される。
各党はマニフェストで、市場主義改革ならば構造改革の継続、共同体路線ならば将来の税負担増を明示しなければ、国民は選択できない。財源の裏打ちのない政策、形だけの地方分権や、官僚批判・天下り攻撃で衆目を引くばかりだと、国民の信任は得られない。(談)
◆関西経済
日銀大阪支店の6月短観によると、近畿地区(2府4県)の景況感は、大企業・製造業が中国向け電機製品の輸出などに支えられ、07年6月以来2年ぶりに改善した。しかし、中堅・中小企業は悪化が続く。全国平均と比べても、近畿は大企業と中堅・中小企業の格差が広がっている。
関西経済は中堅中小企業に支えられており、金融支援や雇用の確保など引き続き充実した政策を望む。しかし、何よりも国が安定している中で経済活動を行うことが必要なので、安全保障と治安対策に注目する。環境政策では企業が国際競争力を損なうものではいけない。
◆雇用・貧困
昨年秋からの世界的な景気後退により、企業は派遣切りなど労働者の切り捨てを進めた。昨年10月から今年9月までに職を失ったか、失うことが決まっている非正規労働者は22万人以上。非正規労働者は失業とともに住まいも失い、「貧困」が身近にある実態が浮かび上がった。
雇用の原則は、無期で、直接かつ常用の正社員だ。非正規雇用を本気で減らす気があるか見抜く必要がある。(各党のマニフェストが)有期雇用の規制、派遣先企業の責任に明確かつ具体的に触れているかを見てほしい。特に若い人に身近な問題と感じてほしい。
◆介護・福祉
誰もが避けて通れない「老い」だが、介護保険は要介護度を軽く抑える傾向が顕著。遠距離介護や老老介護のケースでは介護者が疲れ切って共倒れしかねない。業界の過酷な労働と低賃金による離職率の高さは深刻。記録漏れ発覚以後の年金制度の信頼回復もまだだ。
高齢化がますます進む今、4月からの介護保険の新基準は非常識だ。申請に対し、「非該当」(サービス不要)の割合が以前の2倍にも達しており、安心して年を取れない。「誰もが必要なサービスを受けられる介護保険」を打ち出してほしい。
◆子育て・教育
少子化にもかかわらず、認可保育所の「待機児童ゼロ」にはほど遠いのが現状だ。小児科・産婦人科の不足は特に地方で深刻。出産と子育ての不安が広がっている。教育分野では低所得世帯が学費を負担できず、高校や大学を中退せざるを得ない人が増加している。
格差を再生産する教育費に注目する。大学・大学院まで無償化してもかかるのは消費税1%分で、全面無償化も夢ではない。日本は韓国などアジアの他の国に大学進学率も抜かれ、相対的に低学歴化している。戦略的福祉と考えたい。
毎日新聞 2009年7月21日 大阪夕刊