きょうの社説 2009年7月24日

◎女性医師支援センター 就業継続の強い後ろ盾に
 医師不足に対応するため、都道府県が医師確保事業の予算額を前年度より倍増させて取 り組みを強化するなか、石川県は今年度、新たに県女性医師支援センターを設立し、首都圏で活躍する県ゆかりの医師を「石川の医療大使」に委嘱して、ふるさとの医師確保に尽力してもらう制度を創設した。

 このうち、県医師会館に開設された女性医師支援センターは、出産・育児を経験したベ テラン女性医師をメンター(助言者)に委嘱して、女性医師の就業継続を支援するのが大きな特徴である。仕事と育児の両立に悩む女性医師の良き理解者、強力な「後ろ盾」になってもらいたい。

 県内の女性医師は2006年末で430人近くを数え、医師数に占める割合は20代で 37%(1996年は24%)、30代で23%(同12%)、全体では14%という。この数字は、女性医師が年々増加しているものの、育児などで離職する人も多いことを示している。

 日本医師会が今春まとめたアンケート結果によると、出産を経験した病院勤務の女性医 師で、育児休業を取得した人は4割にとどまるという。仕事と育児の両立支援が強く叫ばれ、全産業の女性の育休取得率が約9割という状況と比べると、女性医師の育休取得率の低さは際立っている。

 厳しい医療現場にあって、同僚に迷惑をかけたくないということが大きな理由とみられ 、まず産休や育休を気兼ねなくとれる勤務体制の整備が病院に求められる。女性医師の就業継続には、院内保育所の整備や短時間勤務、フレックスタイム制の導入など柔軟な働き方を可能にする仕組みが重要であり、支援センターは、関係者の意識改革も含めて、勤務環境改善の推進役になってもらいたい。

 また、女性医師の職場復帰を促すため、希望者を登録し、情報を提供する仕組みなどが 整えられてきたのは心強い。ただ、周囲からの積極的なアドバイスや仲介がないと、実際に復職に結びつくケースは少なく、コーディネーターの重要性が指摘されている。支援センターの助言者には、そうした役割も期待したい。

◎上半期の貿易統計 収支の黒字化も喜べぬ
 09年上半期の貿易統計で、輸出入の総額がともに4割減と過去最大の減少率となった のは、08年秋の金融危機以降、世界規模で進んだ需要収縮のすさまじさを物語る。輸出は今後、中国などアジア地域の持ち直しを背景に徐々に拡大に向かう見通しだが、より深刻なのは輸入の回復が遅れていることだ。

 輸入減は内需の低迷を意味する。輸入額の減少によって、貿易収支は半期ベースで2期 ぶりに黒字転換したものの、手放しで喜べる状況ではない。

 財務省が発表した速報値を見ると、6月の貿易収支は5080億円の黒字だった。黒字 額は前年同月の約5倍で、1年8カ月ぶりに前年同月を上回り、金額も1兆円超を記録した08年3月以来の高水準だった。09年1〜6月の貿易収支は83億円の黒字となり、08年7〜12月の7662億円の赤字から大幅に改善した。

 貿易収支の回復が鮮明になってきたのは、原油や石炭などの資源価格が前年同月比で大 幅に下落した影響が大きい。輸出の減少と輸入の減少にはタイムラグがあり、世界経済の急激な悪化によって、まず輸出が先行して減る。これによって貿易収支が赤字に落ち込むが、輸入額の減少が追い付くかたちで黒字に転換する。日本経済の現況は、まさに縮小均衡の不況型パターンに当てはまる。

 輸出は今後、大幅な伸びは無理でも一定の回復を示す見通しで、貿易収支の黒字基調も 続くだろう。輸入は、国内需要が弱く、急速な回復は期待薄だ。増加を見込む材料も見あたらない。

 個人消費は、相変わらず買い控え傾向が強く、冷え切っている。唯一の救いは、エコカ ー減税やエコポイント制度により新車や一部家電製品の売れ行きが好調なことだ。内需が活性化して輸入が増えてこそ、景気回復への道が開ける。政府の経済対策による個人消費の押し上げ効果に期待したい。

 輸入と輸出が持ち直しさえすれば、一時的に貿易収支が赤字になっても心配ない。今の ように、輸入の落ち込みによる黒字は、むしろ歓迎できぬシグナルといえる。