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きょうのコラム「時鐘」 2009年7月24日
引退を決めた元大関・出島をねぎらう母親の美世子さんの言葉が印象深い。この日の来るのを覚悟していたといい、「はしかい相撲は取れませんから」
「はしかい」は、賢い、すばしこい、要領がいい、に似る。それに、うらやむ気持ちが交じったりするが、大概はちくりと非難の針が含まれる。「はしかい」と言われて有頂天になると、笑われる 鋭い出足と押しを貫いた出島の取り口は、「はしかさ」とは無縁だった。相撲の極意といわれる押しにこだわった。だから、相手の立ち合いの変化でばったり手をついても、潔かった。負けても美しかった。「江戸の錦絵から抜け出てきたような力士」と言われたのは、色白の肌と端正な仕切りだけでなく、押し相撲を貫く姿にもあった 「はしかい」人が際立つ世の中だから、土俵もそれに染まる。真っ向勝負よりも、駆け引きを巡らす注文相撲が幅を利かせる。横綱はいきなり張り手をかまし、大関は引き技が頼みの綱。飛んだりはねたり、相手の裏をかいて喜んでみたり 出島が土俵を去って、はしかい相撲ばかりをダラほど見せつけられるのだろうか。寂しさが募る。 |