鶴屋南北作の「桜姫東文章」の串田和美演出による上演。
吉田家の息女の桜姫(七之助)は、僧の清玄(勘三郎)と心中をはかって亡くなった白菊丸(七之助)の生まれ変わり。生き残った清玄はそれと気づいて桜姫に執着するが、姫は悪党の権助(橋之助)を恋していた。
前世の因果によって落ちていく桜姫に、清玄や権助ら、さまざまな人間がからむ。舞台の左右と上部にも客席が設けられ、場に応じて舞台上の盆が回転。装置は簡略化され、俳優は常に四方から観客に注視される。すべてが虚構であり、見せ物師の勘六(笹野高史)が述べる口上のごとく、見せ物であることが明示されているわけだ。
初々しさと大胆さが入り交じる七之助が魅力的だ。「風鈴お姫」と名乗る遊女に身を落としても、依然として姫の気品は保たれる。堅さを残した凜(りん)とした造形だ。
勘三郎が桜姫への変わることなき執念をみせる。「三囲堤(みめぐりづつみ)」で舞台上部の客席を挟み、上下になって桜姫とすれ違うのがおもしろい。「岩淵庵室」には不気味さが出た。
発端に「稚児ケ淵」での清玄と白菊丸の心中場面を付けたことで、因果物語の構造が明確になった。ただ、幕切れ近くで桜姫を前に、死んだ清玄が、実は弟である権助をあやつって事実を語らせるくだりは、少々わかりにくい。
橋之助に色気があり、扇雀の長浦、弥十郎の残月、亀蔵の悪五郎とそろう。30日まで。【小玉祥子】
毎日新聞 2009年7月23日 東京夕刊