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総選挙を控え、自民党に多額の政治献金をしてきた経済界に戸惑いが広がっている。政権交代が実現した場合、民主党への献金を増やし、自民党への献金を減らすのか。
先週に開かれた経済同友会の夏季セミナーでは経営者らが頭を抱えた。きのうから始まった日本経団連の夏季フォーラムでも総選挙後の政治献金のあり方が議論される見通しだ。
だが、経済界が考えるべき課題は、献金の配分方法の見直しではあるまい。これを機に、企業による政治献金そのものをやめる決断を促したい。
日本経団連の前身である経団連は93年まで業界ごとに政治資金を割り振り、自民党を中心に献金していたが、佐川急便から金丸信・元自民党副総裁へのヤミ献金事件などを契機にいったんは献金のあっせんをやめた。ところが03年に当時の奥田碩会長が「口も出すが、カネも出す」と再開を表明。04年からは政党の政策評価に基づき、企業・団体が自主的に献金するという仕組みを取り入れた。
経団連会員企業の献金は07年には自民党に29億円余り、民主党に8300万円。その額は04年以降、徐々に増えてきた。そこに政権交代の可能性が膨らんできたのである。
政権が交代した場合に「自民への献金額を減らせば怒りを買うのでは」と心配したり、「民主が与党になったからといって献金を増やせば無節操と見られる」と懸念したりする声が経済界にくすぶっている。
経済界はかつて、自民党への政治献金について「自由主義経済体制の維持を目指すもの」という大義名分を掲げていたが、冷戦の終わりで通用しなくなった。そのため90年代以降は「政治献金は企業の社会貢献」という言い分になった。だが実際には、経済界が求める政策を実現する手段としての献金、という性格はぬぐえない。
企業・団体献金は政治腐敗や疑惑の温床となる、あるいは政策をゆがめるとして批判を浴びてきた。だからこそ、政党交付金の導入を機に政治家個人への企業・団体献金を廃止する方向で与野党が合意した経緯がある。なのに現実には継続されてきた。
企業献金には、株主や社員からの批判も強い。多様な政治意識を持つ利害関係者を無視した献金をいつまでも続けていいはずがない。
民主党は「3年後の企業・団体献金の廃止」を掲げて総選挙に臨む。その法改正が実現すれば選択の余地はない。そうした流れを考えても、そろそろ決断の場面だろう。
経営者も期待する政策の推進や政党を応援する自由はある。だが、会社の金ではいけない。個人の自由な献金で政治を支える文化を育む方向にかじを切るべき時ではないか。
米国が北朝鮮に対し、盛んにメッセージを送り始めている。
クリントン国務長官は東南アジア諸国連合(ASEAN)の会議で訪れたタイで記者会見し、北朝鮮が非核化に応じれば米朝正常化を含む「包括的な見返りを与える」と述べた。
さきに日韓を回ったキャンベル国務次官補も「北朝鮮が魅力を感じられる包括的な提案ができる」と語った。
オバマ政権の発足以来、米国は北朝鮮に先手を取られっ放しだった。米政権の陣容がそろわず、北朝鮮政策も定まらないうちに、北朝鮮は弾道ミサイルの発射実験や核実験に走り、6者協議からの離脱も宣言した。
米政権の態勢は整った。北朝鮮も一通り威力を内外に誇示した後、金正日総書記の健康悪化を受けて後継準備に力を注いでいるようでもある。
今がサインの出し時だ。米国はそう判断したのだろう。
ただ「包括的な提案」の中身はまだ定かでない。非核化と米朝そして日朝の国交正常化は、すでに4年前の6者協議の共同声明に盛られている。米国が交渉によって解決する意思を改めて示して見せただけかもしれない。
そうだとしても6者協議が行き詰まっている現在、米政権のメッセージは事態を動かすきっかけになりうる。
核開発再開などやりたい放題の危機をこれ以上深めないためにも、北朝鮮問題をめぐる協議の仕切り直しの起点を早く見つけ出したい。
もちろん、国際社会は国連安保理決議に基づく制裁を粛々と実行しなければならない。それを背景に、米国には「包括的な提案」の具体化を急いでほしい。日韓との綿密なすり合わせ、中国やロシアとの調整も大事になる。
いずれ米朝の本格的な接触の機会を到来させるためにも、中国が果たす役割に期待したい。スムーズな権力移譲を果たしたい北朝鮮にとって、対米関係改善はカギになろう。タイミングを見逃してはならない。
何より北朝鮮が直視すべきなのは、世界の視線の冷たさである。
アジア地域の安全保障問題を話し合う唯一の場である昨日のASEAN地域フォーラム(ARF)では、北朝鮮非難が相次いだ。
安保理では中ロも賛同して制裁対象を決めた。先日は大量破壊兵器関連物資を積んだと疑われる北朝鮮の船が、米艦に追跡されて本国に戻った。
船はミャンマーに向かっていたとされ、クリントン長官は北朝鮮とミャンマーとの核を含む軍事協力の危険を指摘した。北朝鮮に対する国際的な監視はますます強まる。
挑発すればいずれ代価を得られるという北朝鮮の態度はもう許されない。米韓首脳は先月そう強調した。北朝鮮は状況の変化を認識すべきである。