見えた、見えないで、きのうの「日食列島」は明暗が分かれた。岡山市内では厚い雲の間から時折欠けた太陽が顔を見せ、さながら「月に群雲」の風情だった。
ツアー客が詰め掛けたトカラ列島の悪石島では、風雨が強まり、竜巻の恐れがあるとして旅行会社が屋内への避難を呼びかける場面もあったという。
日食にまつわる騒動や逸話は歴史上繰り返し登場する。岡山県ゆかりでは、源平水島合戦(倉敷市)で源氏方が動揺した話が有名だが、さらにさかのぼると日本神話にたどりつく。
弟の須佐(すさ)之(の)男(おの)命(みこと)の悪行で、天照(あまてらす)大神(おおみかみ)は天の岩屋にこもってしまう。この世は闇となり、あらゆる災いが起こったため、神々は知恵を絞った…。「古事記」に登場する「天の岩屋」だ。この話、とりわけ岡山県西部の人たちにはなじみ深い。
備中神楽の演目「岩戸開き」は、大抵7年または14年に1度の荒神社式年祭で演じられる。岩屋の前で八百万(やおよろず)の神々が遊び、天鈿女命(あめのうずめのみこと)が乱舞する。「何事か」と大神がのぞいた瞬間、手力男命(たぢからおのみこと)が岩屋の戸を一気にこじ開ける。
一昨日の衆院解散で、通常国会はその「戸」を閉じた。閉塞(へいそく)感に包まれた日本の状況に光を見いだすため、各党は政権公約に知恵を絞っている。40日後の投開票日、岩屋の戸を開いて中から現れるのは、さて。