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12月18日(火)

広尾3児殺傷 死刑求刑

「楽しい家庭戻らない」

両親、極刑強く訴え
終始うつむく及川被告

 「被告人を死刑に処し、カッターナイフなどを没収するのが相当」−。釧路地裁帯広支部で17日開かれた広尾町3姉弟殺傷事件の論告求刑公判。検察側が死刑を求刑したとき、及川和行被告(24)は被告席でじっとしたまま、大きな動きは見せなかった。2児の遺影を抱えた被害者の父菊地肇さん(45)、母雅子さん(32)は傍聴席で、表情を変えず、「死刑」の求刑を受け止めていた。強盗の前提となる窃盗が成立するかどうかが焦点の公判は、26日に結審する。

 肇さんはこの日、同地裁では2回目となる被害者の意見陳述を行った。

 論告直前に証言台に立ち、「家に帰っても家の中はしんとしています。子供が4人いた時のような、楽しく、笑いのあった家庭にはもう戻りません」と、時折声を詰まらせながら言葉を絞り出した。さらに「死刑以外の刑は考えられません。生きたくても生きることを閉ざされた二女と長男の無念さを考慮して、判決をお願いします」と、極刑を強く望んだ。

 検察側はこの日、被害者が犯行時に着ていた衣類11点などを証拠として追加提出。及川被告に示された衣類には、所々刃物で切り裂かれた跡があり、変色した血痕が生々しく多量に付着していて、犯行の残虐さ、無残さが改めてうかがわれた。

 その後の論告は約1時間。検察官は10分置きぐらいに水を飲みながら朗読を続けた。黒色のジャージー姿の及川被告は、終始うつむき加減で被告席に座り、「死刑」の声が法廷内に響いた時も、目立った動きを見せず、閉廷後もうろたえた様子もなく法廷を後にした。中島和典弁護人は「本人もある程度覚悟していたのでは」と話していた。

「窃盗は成立」
不法領得の意志認め検察側主張

 検察は東京高裁判例(2000年5月15日)を示し、強盗の前提となる窃盗が成立すると主張。判例では、放火目的で被害者方に侵入した犯人が、放火を断念し、第三者による窃盗を装うため財布などを持ち去った行為について、「不法領得の意思」を認め、窃盗と判断している。

 検察は「本件は窃盗目的の侵入で、第三者による窃盗を装う意図も判例に相応する」とし、窃盗が成立すると述べた。さらに殺害は罪跡隠滅のためで、「強盗殺人罪の成立は明らか」とした。

 自首についても「逃走を断念したに過ぎず、反省悔悟の情に基づくものではない」とし、自首減軽(刑法42条)を適用すべきではないと訴えた。

 これに対し、被告・弁護側はこれまでの公判で、「下着は盗むつもりはなかった」として、強盗は成立しないと反論。26日の最終弁論では、不法領得の意思が認められなかった判例を挙げて強盗罪の適用に異議を唱え、被告の未熟さや再犯の恐れの低さなど情状面での考慮を訴えるもよう。

 検察、弁護双方事実関係に争いはなく、下着の持ち出しを「窃盗」とするかどうかで意見が対立。裁判所の判断が最大の焦点となるが、判決の量刑に大きな差は生じないとみられる。

<不法領得の意思>
 諸説ある中、「所有者を排除し、他人の物を自分の物として、その経済的用法通りに利用したり、処分したりする意思」との解釈が主流。単に物を隠したり、捨てたりする「毀棄(きき)・隠匿」と窃盗を区別する考え方で、窃盗の構成には故意のほかこの意思が不可欠とされている。

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