ITプラス ビジネスを制する人のIT総合ニュースサイト

音声ブラウザ専用。こちらよりメインメニューへ移動可能です。クリック。

音声ブラウザ専用。こちらより記事見出しへ移動可能です。クリック。

音声ブラウザ専用。こちらより見出し一覧へ移動可能です。クリック。

NIKKEI NET

ニュース マネー:株や為替、預貯金、投信の最新情報。持ち株チェックも IR:上場企業の投資家向け情報を即時提供 経営:実務に役立つニュース&連載企画。外注先検索も 住宅:新築・賃貸からリゾートまで住宅情報満載、資料請求可能 生活・グルメ:グルメ情報や、健康ニュースなど生活にかかせない情報満載 教育:学びからキャリアアップまで 就職:学生の就職活動を完全サポート、マイページ利用も可能 求人:日経の転職サイトとWeb上の企業ページから自動的に収集した求人情報を掲載 クルマ:クルマ好き応援サイト C-style:ライフスタイルにこだわりを持つ30代男性向けウェブマガジン 日経WOMAN:働く女性のキャリアとライフスタイルをサポートするコンテンツ満載 日経ワガマガ:アタマとカラダを刺激する、大人のためのコミュニティー

更新:7月22日 11:10デジタル家電&エンタメ:最新ニュース

アナログ停波まで残り2年、これだけある課題

 2011年7月24日正午に予定されているアナログ地上波テレビ放送の停止まで、いよいよあと2年である。予定どおり実現するかどうか、本当のところはギリギリになるまで予想がつかない。残り2年という1つの区切りを機に、積み残された課題を整理しておこう。(江口靖二)

■米国は6月に停波 混乱はなかった?

アナログ停波を前に地デジ関連機器を販売するニューヨークの家電量販店=6月2日〔共同〕

 米国は今年6月12日、2度の延期を経ながらも一足早くアナログ波を止めた。FCC(米連邦通信委員会)の報告では、比較的すんなりと「Xデー」を迎えたとされている。しかし、6月12日時点で300万近い世帯が間に合わず、当日だけで31万7450本の電話問い合わせがあったという。これで混乱がなかったというのはいかがなものか。

 米国ではアナログテレビでデジタル放送を視聴できるコンバーターのクーポン券が7月31日まで発行される。このため最終的にどのくらいの世帯でテレビが見られなくなるのかは明らかではない。また、多くの指摘があるように、米国では70%近い世帯がケーブルテレビに加入している。09年3月末現在で加入率が44.0%(総務省調べ)の日本とは比較しにくく、米国の例が参考になるとは限らない。

■日本にも救済策はあるが……

 日本では、米国のようなコンバーター配布についての具体的な計画はまだない。一方で総務省は「地上デジタル放送の利活用の在り方と普及に向けて行政の果たすべき役割」(情報通信審議会の6次中間答申)で、アナログ停波以降の視聴者救済策の一環として「デジアナ変換サービスの暫定的導入の促進」を公表している。

 これはアナログ停波後も、ケーブルテレビを通じて視聴者がアナログテレビを利用できるようにするというものだ。この提案で当惑しているのは当のケーブルテレビ側であろう。デジタルとアナログの二重運用をコスト負担と捉えるのか、加入者獲得の好機と捉えるべきなのか。せっかくのセーフティーネットとしての施策も混乱の原因になりかねない。

■アンテナ工事にも落とし穴

 地上デジタル放送を受信するには、首都圏をはじめとして多くの地域でUHFアンテナの追加やアンテナの向きを変えるなどの工事が必要となる。工事内容に差はあるが、2万〜3万円程度が必要になるとみられる。加えて首都圏では、第二東京タワー「東京スカイツリー」が現在建設中だ。完成は12年以降だが、このタワーの運用が開始されれば、再度アンテナの向きを変える工事が必要となる世帯も少なくなさそうだ。二度手間となる原因は東京スカイツリーの建設決定が遅れたことにある。

 また、アンテナ工事を業者に任せず自分でやる人もいるだろう。転落などによるけが人続出といった話も、冗談では済まなそうだ。

■ホテルでは「逆変換」も必要!?

 戸建て住宅や集合住宅のような一般家庭だけでなく、ホテルなど大規模な施設でもデジタル対応が必要である。多くのホテルは地上波だけでなく、ニュースや映画、そしてアダルトビデオなどの専門チャンネルを衛星経由で客室に配信している。

 この専門チャンネルの電波は、局によってはアナログ機器でしか視聴できないSD信号の場合がある。単純に設備をすべてデジタル対応にしてしまうと、これら専門チャンネルが受信できなくなるという問題がある。

 ホテルによっては、SD信号をHD信号に変換する、またはHD信号をすべてSD信号にする――などの対応が必要になるだろう。施設ごとに事情は大きく異なるが、多少のシステム改修・投資は必要になりそうだ。この費用が利用客の宿泊費に跳ね返るであろうことは言うまでもない。

■テレビ離れは起きるか

 一番気になるのは、アナログ停波のタイミングでデジタル移行しない、もうテレビはいらないと判断する人がどれくらい出るかだ。これが未知数である。

 意志を持ってテレビ放送と決別する人はそれでかまわないが、インターネットなどテレビ以外の情報収集手段を持っていない人も少なからず存在する。そういう人たちにこそテレビは必要とされるべきなのだが、今のテレビ局はその責務にしっかりと応えているだろうか。

■どうする? アナログ波の跡地利用

民放各局の女子アナウンサーとともに発表会見に登場したPRキャラクターの「地デジカ」=4月、東京都内のホテル〔共同〕

 アナログ停波の後、空き地となるVHF1〜12chとUHF53〜62chの周波数帯は、地上デジタルラジオ放送、高度道路交通システム(ITS) 、携帯電話、携帯電話向けの放送、公共機関向け通信などに使用される予定とされている。というよりは、そのために空き地を作ったわけだ。

 こうしてできあがる広大な電波資源だが、具体的な利用法についてはまだ内容、時期ともに未確定だ。跡地利用のビジョンと方法を明確にすべき時期がすでにきている。

■各政党のマニフェストに注目

 以上のような課題は、すべて当初から予測されたものばかりである。先送りにしてきたとは言わないまでも、予想通りの課題がそのまま残り、Xデーへの残り時間だけが過ぎていく。

 そして選挙の夏である。各政党が明らかにするであろうマニフェストには、どういったビジョンが描かれるのか注目したいところだ。デジタル化によって放送業界が弱体化し、結果的に国民の不利益になるといった事態が起きないことだけは、願いたいと思う。

 そのカギは、アナログ跡地の有効活用策が握っている。

※このコラムへの読者の皆様のご意見を募集してます。こちらをクリックすると、今回のコラムに関するコメントを受け取るための専用ページが開きます。(NIKKEI NET外部にある江口氏個人のブログサイトにリンクしています)

<お詫びと訂正> 文中の「工事内容に差はあるが、2万〜3万円程度が必要になるとみられる」の部分が当初、編集の不手際により「2万〜3万世帯程度が対象になるとみられる」となっていました。お詫びして訂正いたします。

[2009年7月22日]

-筆者紹介-

江口 靖二

デジタルメディアコンサルタント

略歴

 1986年慶應義塾大学商学部卒、慶應義塾大学新聞研究所修了、日本ケーブルテレビジョン(JCTV)入社。技術局、制作局、マルチメディア室、経営企画室を経て開発営業部長。CS、BS、地上波の番組制作、運用を経験。00年AOLジャパン入社、コンテンツ部プログラミングマネジャー。02年プラットイーズ設立に参画し放送通信領域のコンサルティングに従事。08年独立。現在デジタルサイネージコンソーシアム常務理事、慶應義塾大学DMC機構研究員、シェフィーロ取締役などを兼務。

● 記事一覧

最新ITニュースをメールで配信
最新ITニュースをメールで毎日配信
ITトレンド、業界動向、先端テクノロジーを凝縮
>> サンプルメールを見る
ITニュースメール 申込み