COLUMN
創刊当初のアニメージュは、記事を構成する際に「クリエイターにスポットを当てる」という切り口を重視してきました。そのなかで、最初期に大きなスポットを浴びたあるクリエイター――それは、厳密にはアニメプロパーの人物ではありませんでした。
前回紹介した『さらば宇宙戦艦ヤマト』は、実は創刊号に続いて創刊2号('78年8月号)の表紙にもなりました。そして、その表紙を飾る女性キャラ・テレサの妖艶なイラストを手がけた漫画家の松本零士さんこそが、アニメブーム最初のスターのひとりです。 すでにマンガ家として人気を獲得していた松本さんは企画の段階から『ヤマト』に参加し、ファンには『ヤマト』のイメージリーダー的存在として受け止められました。やがて『ヤマト』のブレイクを経て、松本さん自らが企画・原案・マンガ原作を手がけた『銀河鉄道999』や『宇宙海賊キャプテンハーロック』が大ヒットして、「松本アニメブーム」が到来しました。 そのブームの中心を担った作品が『銀河鉄道999』です。銀河超特急999号で宇宙を旅する少年・星野鉄郎と謎の美女・メーテルの物語を描いたこの作品、TVシリーズは'78年9月から2年以上に亘って放映されて人気を博しました。 しかしながら、ブームの起爆剤としてより特筆すべきなのは、'79年夏に公開された劇場版『銀河鉄道999』の方でしょう。この劇場版は主人公・鉄郎の成長物語にストーリーを絞っています。メーテルに導かれて旅立ち、キャプテンハーロックやクイーンエメラルダスなどの魅力的な人々と交わることで成長していく鉄郎。寓話的要素の色濃かった原作ならびにTVシリーズと趣を変えて、質の高い「青春ドラマ」へと生まれ変わった『999』は、アニメファンに留まらない多くの少年少女、そして青年層のハートを捉えます。さらに、当時人気絶頂だったロックバンド・ゴダイゴが手がけた主題歌はオリコンチャート2位を記録する大ヒットとなり、松本アニメブームは広く世間を巻き込んだものへと発展していくのです。 具体的な作品内容に触れる余裕はあまりありませんが、少しだけ。金田伊功さんが原画を担当したクライマックスの「惑星メーテル崩壊シーン」はアニメファンなら必見です。それから「メーテルの名を連呼するだけで、万感の想いを表現する鉄郎(役の野沢雅子さん)」「青木望さんのドラマティックな音楽と城達也さんの重厚なナレーション」「切ない別れを、ポジティブで爽やかな“新たな旅立ち”へと変えてくれるゴダイゴの主題歌」そして「ふたたび走り出す鉄郎」というエンディングの流れは、何度観ても完璧。特に、未見の若いファンは絶対に観るべきです。 というわけで、劇場版『999』が起爆剤となった松本アニメブーム。「アニメージュ」的にブームが頂点を迎えるのはその続編『さよなら銀河鉄道999アンドロメダ終着駅』が公開された'81年といえるでしょう。この年は5月号、6月号、8月号、9月号と4回に渡って『さよなら銀河鉄道999』が表紙になっています。そして、7月号の『新竹取物語1000年女王』と合わせて、何と5ヵ月連続で松本零士作品が表紙を飾っているのです。 '70年代末〜'80年代初頭の、アニメブーム黎明期。「アニメといえば松本零士」という時代が、確かにあったのです。