COLUMN
『宇宙戦艦ヤマト』が着火し、『機動戦士ガンダム』が一気に燃え上がらせた80年代前半のアニメブーム。そのさなか、いまなお続くある「逆転現象」が表面化します。この現象を象徴する2つの作品はやはり、当時アニメージュ誌面でも大きな人気を博していました――。
突然ですが、今現在、アニメファンの間で人気の高い作品は何かご存じですか? 女性ファンなら、やっぱり今注目は『機動戦士ガンダム00』でしょうか。もちろん、続編が待ち遠しい『コードギアス反逆のルルーシュ』もまだまだ 人気だし、本誌「キャラクターベスト10」で相変わらずキラ・ヤマトが上位を守り続ける『機動戦士ガンダムSEED』のパワーも根強い。 一方、男性ファンの間で話題なのは最近なら『涼宮ハルヒの憂鬱』など、かわいい女の子キャラが主人公の作品。『魔法少女リリカルなのは』のシリーズも息の長い人気作となっています。こんなこと、若いみなさんには当たり前でしょう。年長のファンのみなさんも、さほど不思議は感じないですよね。 でも、ちょっと落ち着いて振り返ってみましょう。格好いい少年が主人公で、メカやロボが活躍するアクションアニメが女性に人気。魔法のような力を持った女の子のちょっと不思議な日常や活躍が描かれる作品が男性向け……あれ? そう、『超電磁ロボコン・バトラーV』(1976年)も『勇者ライディーン』(1975年)も夢中で観ていたのは男の子でした。『魔女っ子メグちゃん』(1974年)や『キャンディ・キャンディ』(1976年)が好きなのは、女の子でした。 アニメブーム以前、アニメには「男の子向け」「女の子向け」という区分けが確かに存在していました。しかし、アニメブームによって引き起こされたファンの高年齢化はその区分けを曖昧にし、ついには逆転してしまったのです。その現象を象徴する作品が、1981年10月にスタートした『六神合体ゴッドマーズ』と、1982年3月にスタートした『魔法のプリンセスミンキーモモ』です。 まず『ゴッドマーズ』は、泣く子も黙るロボットマイスターこと横山光輝先生の『マーズ』を原作にした(ただし、思いっきり大胆かつ全面的にアレンジ)したロボットアニメ。主人公・明神タケルは、六体のロボットが合体する巨大ロボ・ゴッドマーズを操り、己の宿命に立ち向かいつつ、地球を守るために戦います。もちろん、どストレートに男の子のハートを燃やす熱血ロボットアニメ……のはずでした。 ところが、ライバルとして登場したタケルの兄・マーグの美形っぷりと運命に翻弄される兄弟の絆の物語に、多くの女性ファンが熱狂するようになります。で、そのためかどうか、気がつけば、シリーズ中盤に入る頃からロボットはろくにアクションも見せず、かわりにこってりとした人間ドラマが描かれていくことになります。 続いて『ミンキーモモ』。夢と魔法の国・フェナリナーサからやってきたプリンセスのミンキーモモが、大人になれる魔法を使って地球の人が夢や希望を取り戻すために大活躍――というまごうことなき「女の子向け」魔女っ子アニメです。ところが、モモの愛らしいキャラクターや丁寧な作劇、ときおり挟まれる「お遊び」要素が男性ファンの琴線に触れ、あっという間にファンの男女比が逆転してしまいました。 で、これまたそのためかどうかわかりませんが、後半になるに従ってヒロインのモモは「自分は何のために魔法を使うのか」といったアイデンティティの問題に苦悩したりするようになるのです。 最終的に『ゴッドマーズ』は、1983年の本誌主催「第5回アニメグランプリ」においてGPを獲得。かたや『ミンキーモモ』は「編集部に送られてきた同人誌でもっとも熱心に取り上げられ、ファンの動向に強い影響を与えた作品」として「アニメージュ賞」を受賞。 両作品は、当時の本誌読者からも強い支持を受けていました。というよりも、結果的にこの2作品が先駆けとなった「美形キャラ」「美少女キャラ」というムーブメントは、今後の日本産アニメの大きな特徴となっていきました。 もちろん以前から、女の子たちは密かにプリンス・ハイネル(『超電磁マシーンボルテスV』[1977年]に登場する悲劇のライバルキャラ)などに心をときめかせていました。男の子たちは『魔女っ子メグちゃん』OPのシャワーシーンにこっそりドキドキしていました。 今回紹介した2作品は、そうした「密かな楽しみ」が、実はアニメファンの嗜好の主流たりえることを明るみに出すきっかけだったと言えるのではないでしょうか。