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【緊急企画 夏山遭難】トムラウシ山の惨事(上)
トムラウシ山で中高年の登山ツアー客18人が遭難し、8人の命を奪った遭難事故。ツアー客はどういう状況下で山頂を目指したのか。夏山での惨状を報告する。
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トムラウシ山短縮登山口から遭難者の捜索・救助に向けて入山する道警職員(17日午前3時55分、塩原真撮影)
暴風雨の中 出発
生還へ「歩こう」 意識失う仲間、全員散り散り
「死んでしまうと思うぐらい寒くて、とにかく下りてきた。2人は意識がもうろうとしていた。ガイドが先に行けと言うので、全員が散り散りになった」
登山ツアーの1人、戸田新介さん(65)は17日午前4時半、東大雪荘に極度に疲労した様子で現れ「女の人たちはしゃがみこんでいて(死んでしまうから)歩こうと言ったが、ダメだった」と無念さをにじませた。
午前5時半出発
ツアーは16日午前5時半、ヒサゴ沼避難小屋を出発した。小屋に宿泊していた登山客によると、当時、小屋には、18人のツアー客と、静岡県の6人のパーティー、2人の夫婦の3組が宿泊。2人の夫婦は旭岳に北上するルートのため、ツアー客と静岡のパーティーの2組がトムラウシに向かった。
かろうじて生還した静岡のパーティーのリーダー男性(66)は「前日から雨風がすごかったが、当日未明にちょっとおさまり、前線が通り過ぎたと思って出発した。特に風が強く、雨は降っていた」と出発当時の気象を語る。
ツアー客が午前5時半、静岡のパーティーが同5時35分に小屋を出発。ツアー客に200メートル遅れて、静岡のパーティーが歩いていた。「このペースではやばい」。男性は危険を感じた。強さを増す暴風雨。「真冬のような寒さでは体力が消耗する。前日、体力を温存したが、山頂前の岩場あたりで時間的にもまずいと思った」。午前9時、ツアー客が2度目の休憩中に、静岡の6人は追い越した。
この男性と一緒に山を登った女性は登山歴50年のベテラン。「ツアーの女性は足がすくんで動けないようだった。私だって17キロの荷物を背負っていても、吹き飛ばされたぐらい風が強かった」と言葉少なげに語った。
リーダー男性は「山頂の湖が海原のように波打ち、風に飛ばされた水しぶきが吹きつけてきて、立っていられない。四つんばいで進んだ。われわれもツアー客と同じように危険だった。仲間の1人が遭難しそうだったが、私が女性の荷物をかつぎ、助け合って頑張ってなんとか下りてきた」と語る。
隠れる場所なし
自力で無事下山し、車に乗り込んだツアー参加者
ツアーの企画会社・アミューズトラベルによると、ガイドを務めた3人はいずれも登山経験は豊富だったが、2人は同コースは初めて。
太田会長は「挑戦と無謀は違う。天候判断には臆病になるくらいでないと」と指摘する。自然の驚異に逆らった行動の判断はどうだったのか−。山岳史上に残る大惨事が起こるのは、必然ともいえた。
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