きょうのコラム「時鐘」 2009年7月20日

 横浜の開港資料館に加賀藩出身で、造船を学び日本海軍の基盤をつくった辰巳一(たつみはじめ)の記録が保存されている。子孫で料理研究家の辰巳芳子さん(鎌倉在住)が寄贈したものだ

ベストセラー「武士の家計簿」で有名になった加賀藩の御算用者、猪山成之(いのやましげゆき)の家系も主計畑で海軍の基盤を支えた。他に、瓜生(うりゅう)外吉(そときち)海軍大将や、氏家長明(うじいえながあき)中将(郷土史家の氏家栄太郎の息子)など日本海軍を支えた郷土ゆかりの人々もいる

きょうは「海の日」。海洋国日本の黎明期を記す話は太平洋側に偏りがちだが、北陸も多士済々、多彩な家系が各分野で活躍しているのが特徴だ。重要な海難記録もある。幕末期の「時規(とけい)物語」である

富山の北前船が三陸沖で遭難、ミッドウエー近海まで半年も漂流して生還した船乗りの見聞録である。米の捕鯨船に助けられたもようなどを加賀藩が聞き取った。漂流譚(たん)はこう伝える

遭難時の船内は皆が助け合う。やがて絶望から、ささいなことで口論がおき、殴り合ったり2派に分かれて対立する。特に、船長に統率力がないと悲劇は加速し沈没は免れないと。「海の日」の重い教訓である。