Hyperion
小説版 時空警察ハイペリオン

(W-2)

「やっぱ、探偵と言えば工藤ちゃんだよね〜」
そう言う今日の光四郎は上下「黒のスーツ」(「クロノスーツ」じゃなくて)に真っ赤なシャツにネクタイ。何やらオシャレな帽子にサングラスノという出で立ちだ。
「工藤ちゃん」というのはちょうどこの時代から30年前の1979年に放送されていたテレビドラマの主人公らしい。
彼はその主人公の名探偵「工藤ちゃん」にあやかった服装ノつまりはコスプレをしている訳だ。「この時代の探偵の研究をする」とか言ってここ2、3日毎日そのドラマのDVDを見ていた。
この時代ってノそれ、この時代からも30年も前のドラマよね?どうせならコナンくんとか見なさいよ。コナンくん、可愛いしカッコいいよね。
あ〜どうせ探偵やるなら、ああいう賢くて可愛い少年探偵なんかが一緒だと楽しいのに。
わたしはノと言えば最近ちょっとコーヒーに凝ってた。…って言っても、せっかくたまにお客さんが来たら、インスタントじゃなくて本格的にブレンドしたのを…と思っただけなんだけど。
…そうなのよ。
はっきり言って「折尾探偵事務所」はヒマである。1ヶ月以上、時空犯罪らしい事件もまったくない。時空犯罪が起こらない事って、まぁ、いい事なんだと思うけど、ウチらがこうして、この時代に常駐してる意味って……?とか、時々思ってしまう。
ヴェッカー本部(って便宜上言うけど、いわゆる「本部」は別にちゃんとあって、ここでいうのは私たちの時代の本部ね。2209年の。)からの資金援助(ちゃんとこの時代の通貨でもらえる)のお陰で、どうにか生活は維持出来てるけど…「折尾探偵事務所」開業以来の仕事は、行方不明のペット(犬6匹、猫3匹、その他2匹)探索と同じビルに入居しているおじさんからの奥さんの不倫調査、あと引っ越しの手伝い(なによこれ?)3件…以上だ。

用語集

…いいのか?これで…??
 「なんか、今日あたり依頼者が来るような気がするんだよね〜しかもとびきり美人の!」
と言いながら光四郎は姿見の前で自分の「工藤ちゃん」スタイルにご満悦だ。格好を名探偵の真似したからって仕事が来るようなら、苦労ないわよ。ノだから、部屋ん中で帽子かぶらないでよ!
わたしは「レナリーブレンド」のコーヒーを煎れている。ちょっと自信作なんだから。
勧めるお客さんがいる訳じゃないから光四郎に飲ませる。
「お!それでは味見させて頂きましょうか?」
光四郎は嬉しそうに自分のカップにコーヒーを注ぎ込む。よーく味わって飲みなさいよ。
「ぶーーっ!」
しかし光四郎のヤツは、わたしが心を込めて煎れたコーヒーを、一口飲んでぶーっと吐き出した。
あの、ドラマの中の「工藤ちゃん」のように…
許せない!人が丹精込めて煎れたコーヒーを一口で吹き出すなんて!ドラマの真似しただけなら、尚更許せない!もう金輪際、コーヒーなんか煎れてやるもんか!!
「…いや、なんていうか、コーヒーだと思って飲んでみたら、なんだかコーヒーじゃない舌触りでさ、いや、これはこれで美味しいと思うんだよ!」
なんだか言い訳してる。聞いてやるもんか。
光四郎は残ったコーヒーを何とも形容できない表情で飲み干す。
そんなにマズいかー?
二人の間にいつもと違う緊迫した空気が流れる。
しばらく、いや〜な沈黙が続く。
沈黙を破ったのは外来客の来訪を告げるチャイムの音だった。
「あ、お客さんだ!」
光四郎はやおら立ち上がり、インターホンののモニターを見て
「ほら来た!美人依頼者だ!!」
と、にんまり笑う。

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