Hyperion
小説版 時空警察ハイペリオン

光四郎はわたし、冬木玲菜を「れなちゃん」と呼ぶ。他の皆も「れいな」とは呼ばず「れな」と呼ぶんだけど、わたしが気に入らないのは「ちゃん」付けする事だ。そりゃあ「玲菜さん」とか呼ばれるのもイヤだけどさ。
さりあっていうのは春日さりあ。研修生時代、一緒にこの時代で研修した…………親友だ。
「…それが…なんか急な用事が入ったからって…特命で2009年に来てて、2年ぶりに会えるからって、わざわざウッドストックにまで行ったのにさ!」
「そうなんだ…」

光四郎は一通りオモチャのロボットの合体変形作業を終えたのか手を止めて
「…時空特捜も動き出したか…」
と、一人ごつ。
「何?何か事件なの?時空特捜が動くような…」
「いや、別にそういう報せがあったとかじゃないんだけどね…」

なんか釈然としない返事だ。
春日さりあは私たち時空刑事の中でも特異な存在、「時空特捜」だ。時空特捜は特定の時間に停留する事はなく、その存在も一部の人間しか知らない。私たち時空刑事にも報されない特別な任務の為に単独行動している事が多い。
「あ、そうそう、そう言えばるり香ちゃん、来年のヒロインに選ばれたみたいだね〜。すごいなぁ、知ってるコが伝統の特撮ヒーローシリーズのヒロインに選ばれるなんてさ〜」
『時空警察のヒーロー』と呼ばれている時空刑事オリオンは、本気で目を輝かせてその事を喜んでいる。そう言えば、るり香、前にも光四郎にそそのかされて、その番組のオーディションとやらに行った事があったっけ。るり香っていうのは夏沢るり香。やはり一緒に研修した仲間で、親友だ。…でも、るり香は私たちと過ごした記憶も、自分の17年間の記憶も無くしている。

用語集

研修を終えた後、るり香は最高評定で時空刑事として認定されたが、彼女は自分の意思でこれを辞退、この時代の一般人として生きる事を望んだ。自分の意思とは言っても、その代償はあまりにも大きかった筈。私たちの知らない処で、彼女なりの悩みや葛藤があったのだろう。はじめてその決意を聞かされた時、私たちははじめてちょっと喧嘩し、そして泣いた。でも最後にるり香は笑ってこう言いのけたのだ。
「どうせなら、未来に名前を残せるようなタレントになります!未来でも私の出た映画や、私が歌う歌が残るような!」
きっとるり香なら出来る。これが「未来で用意されていた」彼女の道ではなく、彼女自身が選んだ本当の未来へ続く道なんだ。
…で、わたしはどうなんだ?
時空刑事になる事は夢であり、目標だった。そして、その夢だった「時空刑事」にわたしはなっている。
でも、正直言って研修中には「時空刑事」の仕事自体に疑問を感じて、辞めようと思った事も一度や二度じゃない。たぶんSIGNA…研修生制度ってこの為にあるんだろうな。理屈では解っていても、どうしても感情で割り切れなくなる事……親しくなった人の死を知っていても、それを助ける事が出来ない。むしろ、その人の死が歴史の確定事項で、それを妨害する者があるなら退け、その人を死に導かなければならない…。それが「時空刑事」の仕事だって事。それを「体感」させる為に…。
春日さりあ。あんたは強かった。いや強い。いつもなにかある度にわんわん泣いてたけど、あんたは「自分は時空刑事になれない」って歴史の確定事項を知っていて、敢えて時空刑事になる事を自分で選び、その道を目指した。そしてその想いが奇跡を起こし、あんたは「時空刑事」より格上の「時空特捜」に選ばれたんだ。

 p15

 p16 
(C)MAXAM INC/MILLION ENTERTAINMENT INC.