Hyperion
小説版 時空警察ハイペリオン

私たちの時代には殆ど進路選択、職業選択の自由はない。ある年に起こった世界的大異変…これについては詳しくは言えない。とにかく歴史上の大事件が起こって…人類は20億まで膨れ上がっていた総人口を3分の1にまで減らしてしまったの。
あたしたちにとっては過去の話だけど、みんなにとってはこれから起こる未来だから詳しくは言えないけど、世界の5大都市が一瞬にして「消滅」したのだ。時空警察の極東支局本部のあった新宿もそこに住む何千万人の人と共に「消滅」した。焼け野原になった、とかじゃなくて始めから無かった様に、消えた。これは時間移動が実現するようになってから起こった史上最大の事件だった。「戦争」と言ってもいいだろう。
2度とそんな過ちを犯さない為に…人類が間違った未来を選択しないように、時間保護管理法を非人道的と思えるぐらい完全に徹底すると共に、人類は自分たち自身を管理する為の完全管理体制を作った。人は生まれてから何度かある適性検査に合った教育を受け、社会の構成員になっていく。何十年か前に生命の誕生まで管理するようになった事があり、自然出産が禁止され、いわゆる「試験管ベビー」って言えばわかるかな?人工出産が中心だった事があるけど、私たちの時代では自然出産も半々ぐらいになっている。
あたしはその「人工出産」の方で生まれた。だからあたしの両親はいわゆる本当の両親じゃない。あ!別にここ、同情するとこじゃないよ。あたし、パパもママも好きだし、十分に愛されて育てられたと思う。
ただ…時空警察の要職である両親は、「優秀な時空刑事に育て上げる」為にあたしを「生んだ」らしい事。そしてあたしは「優秀な時空刑事」の複数のDNAを基に「生み出された」らしい事。それを知った時はちょっとショックだったかな。

用語集

 小さい頃からのあたしの夢は…あたし自身の夢は…「可愛いお嫁さんになって、優しいお母さんになる」事だったから。…え?ここは笑うとこじゃないよ!いいけどさ。
「時空刑事」の仕事だって嫌いじゃない。むしろやりがいを感じてる。あたしたちにしか出来ない仕事だって自覚もある。
でも…あたしには…あたしの身体には「出産」能力がない。一応女の子のカタチしてるけど、「女」じゃないって事。なんかの理由で「不妊」になっちゃったりした人がいたらごめんね。でも、あたしは「はじめから出来ない」身体なんだ。
でも、そんなあたしでも、男の子を好きになったりは「出来る」。好きになってしまう。好きになってもその先に何もないのに。
だから「彼氏」なんかいた事ないし、当然結婚もしない。
別につらくなんかないよ。哀しくもない。
あたしは「時空刑事リゲル」として一人で生きていく。それがパパやママが…みんなが望んだ「あたし」だから…。
そう、思ってたんだ。「アイツ」と出会うまでは…。

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