Hyperion
小説版 時空警察ハイペリオン

(P-2)

そんな訳で今、あたしは2009年3月にいる。…て、ヘンな言い方かな。今は2009年3月って言った方がいいかな。
ちょっと思い出に耽っている間に、電車は吉祥寺に到着した。2009年に赴任してからそろそろ3ヶ月近く経とうとしている。その間、時空犯罪と呼べるものは確かにいくつかあったけど、SIGNAだった頃…2007年に起こった事件ほど大きな事件はなく、不謹慎かもしれないけど正直物足りなかった。
17歳のあたしは、この時代では一般的には高校生の年齢だ。あたし達の時代では12歳までに基本的な教育課程(この時代の高校ぐらいまでかな)が終了する。そこからは、一応本人の意思もあるけど、殆ど適正検査によって選別され、専門分野の教育を受ける。15歳で成人と見なされ、それぞれ社会の構成員となる。
一番違和感なく駐在出来るように…という事で、普段のあたしは女子高生という事になってる。ホントはこれも時空犯罪なんだけど、架空の戸籍や学歴などを作り、着任した1月から今通ってる学校に編入した。だから今日も学校の制服のままだ。
住んでいるのは横浜。今日は久しぶりに「ウッドストック」へ向かっている。研修終了後以来だから1年と10ヶ月ぶりか。つい何年何ヶ月ぶりとか数えてしまうのは、実際にその時間を過ごした訳じゃないからだろうか。あ、でも実際2007年にはあたし15歳だったし、ちゃんと年はとってるんだよ。説明するとまた長くなっちゃうけど。

「ウッドストック」へは吉祥寺駅から15分ぐらい歩く。実際には西荻窪駅が近いみたい。
用語集

でも、あたしは吉祥寺の街の風景が好きだ。あれから2年しか経っていないが、やっぱり街は少しずつ変わっている。通い慣れた道もどこか趣きが違って見える。それはあたしがこの時代の「秋」という季節を体感するのが始めてだからかもしれなかったけど…。
3日前、さりあが突然、「るり香と一緒に2009年に行くよ!」と連絡を寄越した。理由は例によって『特命』で秘密という事だったが、二人に会うのも久しぶりだ。特に時空特捜として常にいろんな時代を飛び回っているさりあとは研修終了後一度も会ってない。
なつかしい「ウッドストック」が見えて来た。
「ひかりーっ!遅ーーい!」
さりあが玄関から飛び出して来る。そしておもいっきりハグられた。あたしも全身で受け止める。相変わらず人懐っこい、子犬の様な顔でさりあはあたしを見つめて言う。
「遅いからもう来ないのかと思ったよ」
「ごめんごめん!久しぶり。元気そうじゃない。また背も伸びた?」
「ひかりは相変わらずちっちゃいね。可愛いーっ!」
「…」

…こいつも相変わらずだ。人が結構気にしてる事をいつもはっきり言う。可愛いとか言うな。
るり香も、変わらず観音サマだかビーナスのような笑顔で迎えてくれる。
でも、あたしは知ってるんだ。この笑顔の本当の意味を。その理由を。るり香とあたしだけのヒミツだから言わないけど。

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