衆院解散を週明けに控えた18、19日、毎日新聞が実施した全国世論調査は、民意の「自民党離れ」と、民主党に対する「政権交代」の期待を示す結果となった。「選挙の顔」を代えようと盛り上がった「麻生降ろし」の動きはかえって自民党への不信感を増幅させ、すがるものを失った自民党所属議員は文字通りの「追い込まれ解散」に立ちすくむ。4年間に及ぶ巨大与党体制の終焉(しゅうえん)とともに、民主党結党後初の政権交代が現実味を増しつつある。
河村建夫官房長官は19日、毎日新聞の世論調査について「東京都議選敗北後、一連のごたごたが国民から叱責(しっせき)された。真摯(しんし)に受け止めないといけない」と厳しい見方を示した。自民党執行部は21日午前、党本部で非公開の両院議員懇談会を予定しており、「党が団結すれば、世論もチャンスをくれる」(菅義偉選対副委員長)と足元固めを急いでいる。
自民党の中川秀直、武部勤両元幹事長ら「反麻生」勢力は都議選後、麻生太郎首相の退陣に向け、地方選総括を名目にした両院議員総会の開催を求めた。総会開催には党所属国会議員の3分の1(128人)以上の署名が必要。中川氏らは130人強の署名を集め、総会での総裁選前倒し動議などを模索したが、執行部は議決権のない両院議員懇の開催で押し切った。
こうした選挙前の内部抗争がもたらしたのは、与党支持層の「自民離れ」だ。世論調査では、衆院選直前に首相退陣を求める自民党内の動きに対し、同党支持層の67%が「評価しない」と回答した。公明党支持層では「評価しない」が73%に達した。
公明党の北側一雄幹事長は19日のNHK番組で自民党との選挙協力について問われ「ずっと……」と言いかけてしばらく絶句。「次の衆院選は自公で戦う」と限定的な物言いにとどめた。公明党幹部は衆院選に向け「党の政策実績を訴え、我々は我々でやるしかない」と述べるなど、自民党との距離感が広がっている。
衆院解散・総選挙を間近に控えながら、自民党はなお分裂含みの状態が続いている。鳩山邦夫前総務相は19日、毎日新聞の取材に「自民党A・B・Cに分かれ、事実上の分裂選挙を戦うのも一つの手段だ」と指摘。同党は次期衆院選のマニフェスト(政権公約)を示しておらず、鳩山氏らは独自マニフェストも検討している。
週末、地元選挙区に入った閣僚の一人は党支持者から「小選挙区はあなたの名前を書くが、比例は民主党と書かないと気持ちが収まらない」と言われたという。自民党内の親麻生と反麻生との綱引きに勝者はいない。自民若手が「もうみんなで沈むしかないのかな」と漏らせば、派閥領袖の一人はこう言い切った。「次期衆院選で、自民党は壊滅する。間違いない」【中村篤志】
「国民から見たら待ちに待った解散。ずっと信を問うことなく首相が代わってきた」。民主党の岡田克也幹事長は19日、民放の報道番組で強調した。さらに「我々のシナリオにおおむね沿った流れだ」と指摘。民主党が麻生太郎首相に内閣不信任、首相問責の両決議案を提出し、世論の支持を追い風に解散に追い込んだ戦略の成功を振り返った。
毎日新聞の世論調査では「衆院選で勝ってほしい政党」に民主党を挙げる回答が56%に達し、同党幹部は「250議席以上いくのではないか」と政権交代に向け自信を深めている。鳩山由紀夫代表は同日、沖縄市の講演で「あまりにも無駄遣いの多い現在の政権の在り方を根本的に改めない限り、国は変わらない。政権交代しかない」と訴えた。
同党にとって気がかりなのが鳩山氏の献金虚偽記載問題だ。世論調査では「説明責任を果たしていない」との回答が75%を占め、「果たした」はわずか17%。無党派層では「果たしていない」が83%、民主支持層でも64%に達した。
鳩山氏に近い中堅議員は「『説明責任を果たしていない』が多数でも支持されるのだから、献金問題は考慮されていないのではないか」と語る一方、ある若手議員は「地元で『鳩山さんを代えた方がいい』と結構言われる。有権者にどう説明するか、対策が必要だ」と懸念する。
岡田氏は19日、NHKの報道番組で、自民党側の「鳩山疑惑隠し解散だ」との批判に対し「鳩山氏は記者会見で非を認めたが、自民党は(政治とカネの疑惑があっても)会見すらしない」と反論。そのうえで世論調査の動向に触れ「次の首相は誰かと聞くと鳩山氏。国民は本人が(問題を)認めたことも踏まえて鳩山さんを選んでいる」との見方を示した。
東京都議選の大勝などで順調に伸びている党勢についても、上昇機運で臨んだはずの05年衆院選で苦い敗北を喫しただけに「まだ何が起こるか分からない。油断してはいけない」(岡田氏)と党内の引き締めを図る。
「この調査結果で解散を踏みとどまられては困る。麻生降ろしが実現してしまうのでは」(幹部)など、自民党内でくすぶる「麻生降ろし」への警戒感も残る。【上野央絵】
全国世論調査では、橋下徹大阪府知事ら首長グループが次期衆院選へ向け、地方分権政策を比較して支持政党を表明しようとしている動きについても質問した。橋下知事らの支持政党を投票の「判断材料にする」と答えた人は43%。「判断材料にしない」の51%を下回ったものの、投票傾向に一定の影響を与えそうだ。
男女別では、女性で「する」が48%と「しない」の45%を上回った。年代別では20、30代で「する」が過半数を占め、支持政党のない無党派層でも「する」が49%で「しない」の47%より多かった。【石川貴教】
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<世論調査の質問と回答>
◆麻生内閣を支持しますか。
全体 前回 男性 女性
支持する 17(19)16 17
支持しない 67(60)70 64
関心がない 16(20)13 19
自民党の首相だから 34(42)30 39
首相の指導力に期待できるから 12(11)14 10
首相に親しみを感じるから 24(22)22 25
首相の政策に期待できるから 25(19)31 19
自民党の首相だから 8 (8)10 7
首相の指導力に期待できないから 39(39)36 41
首相に軽率なイメージがあるから 15(17)13 17
首相の政策に期待できないから 36(35)37 35
◆どの政党を支持していますか。
自民党 18(20)19 17
民主党 36(34)43 30
公明党 5 (4) 3 6
共産党 4 (4) 4 3
社民党 1 (1) 0 1
国民新党 1 (0) 0 1
改革クラブ - (-) - -
新党日本 0 (-) 1 -
その他の政党 2 (1) 3 2
支持政党はない 32(32)26 38
◆麻生首相と民主党の鳩山代表のどちらが首相にふさわしいと思いますか。
麻生首相 11(15)12 10
鳩山代表 28(32)34 22
どちらもふさわしくない 57(46)53 62
◆次の衆院選で、自民党と民主党のどちらに勝ってほしいですか。
自民党 23(27)22 24
民主党 56(53)63 51
その他の政党 16(12)13 19
◆今、衆院選が実施されるとしたら、比例代表でどの政党に投票しますか。
自民党 18 19 17
民主党 45 54 36
公明党 6 5 7
共産党 4 5 3
社民党 1 1 1
国民新党 0 0 1
改革クラブ 0 0 -
新党日本 0 1 0
その他の政党 2 1 3
分からない 21 12 29
◆自民党内には「麻生首相に代えて新しい総裁で衆院選に臨むべきだ」との声があります。今の自民党の総裁には誰がふさわしいと思いますか。
麻生太郎 10 11 9
石原伸晃 8 9 8
石破茂 6 7 4
小池百合子 4 5 3
鳩山邦夫 4 3 4
舛添要一 16 14 17
与謝野馨 7 8 6
この中にはいない 40 40 40
◆衆院選直前に首相に退陣を求める自民党内の動きを評価しますか。
評価する 22 21 23
評価しない 73 76 70
◆大阪府の橋下知事や一部の市長たちは、各政党の地方分権の政策を見比べて、衆院選で支持する政党を明らかにする考えです。支持政党を発表したら、衆院選で投票する際の判断材料にしますか、しませんか。
判断材料にする 43 39 48
判断材料にしない 51 58 45
◆前回の衆院選が行われた2005年以降、首相は小泉さんから安倍さん、福田さん、麻生さんへと代わりました。この4年間、任期満了近くまで衆院選が行われないまま、首相が3回交代したことをどう思いますか。
もっと早く衆院選で国民に信を問うべきだった 83 84 81
衆院選なしに首相が何回代わっても問題ない 11 13 10
◆民主党の鳩山代表の資金管理団体が、既に死亡している人や、実際は献金していない人から個人献金を受け取っていたという虚偽の報告をしていました。鳩山代表は説明責任は果たしたと思いますか。
説明責任は果たした 17 20 15
説明責任は果たしていない 75 74 76
※数字は%、小数点以下四捨五入。0は0.5%未満、-は回答なし。無回答は省略。カッコ内は前回6月13、14日の調査結果。
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18、19日の2日間、コンピューターで無作為に選んだ電話番号を使うRDS法で調査。有権者のいる1579世帯から、1045人の回答を得た。回答率は66%。
毎日新聞 2009年7月20日 東京朝刊