2006-08-10
■[本]鬼無鬼島 
http://d.hatena.ne.jp/oyama_noboruko/20060731/p2
この本にでてきた隠れ切支丹の島を舞台に書かれた小説、堀田善衛の「鬼無鬼島」を図書館で借りて読んだ。
堀田善衛を知らなかったので何の期待もなく読み始めたのだがこれがかなり面白く読めた。
日本の端、九州鹿児島のさらに先に鬼無鬼島はあり、ここにはいろんな出自の人々が流れ着いていくつかの部落を形成していた。そのなかでも一際不気味がられていたのが隠れ切支丹の末裔といわれる山部落である。山部落の人々はクロ宗とよばれる秘密結社じみた信仰を持っており、これはもとはキリスト教だったらしいが長い年月の間に土俗的信仰と混ざりすぎてキリスト教弾圧もなくなった明治を過ぎた頃にはもうすっかりキリスト教とは別のゆがんだ宗教になってしまい、教会から派遣されてきた司祭も追い返してしまったほどだという。ほかの部落の人間が噂するところに寄れば、瀕死の人間がいると家族さえも人払いされサカヤと呼ばれる者と二人きりにされ、何かの儀式が終わった後にはその者は死んで白い布でぐるぐる巻きにされており、布には血がにじんでいるという。はっきりは分からないがサカヤが生肝を取って食べてしまうのだとかいわれておそれられていた。
そんな呪われた因習に疑問を感じている山部落の青年、友則は部落を抜けて、海沿いにある、平家の落ち武者の末裔の浜部落の娘、早子と夫婦になることを望んでいる。しかし、山部落のおきてでは生まれてすぐに許婚を決められてしまっており、友則の許婚である京子は白痴であった。
物語は戦後、この物語では地方(じかた)と呼ばれる友則が九州本土、長崎の工場から鬼無鬼島に戻ってくるところから始まる。友則には結核によって死に瀕している兄、元一がおり、元一が死ぬときにはクロ宗の秘蹟が行われるであろう、という期待が部落中でたかまっていた。母親はその秘蹟が行われることを何の疑いもせず熱望しており、友則はそんな風習はやめさせてしまいたい、と願っている。そのため、元一が死ぬまでは部落から出て行くわけにはいかない。当の元一はたまに何かを訴えたそうに「おい…」「おい…」というばかりである。
クロ宗のリーダー格といえる存在のサカヤと呼ばれる用賀家成はかつて若いころ、友則のように部落のあり方に疑問を抱いて長いこと外の世界に行っていた男だったが今は部落に戻ってサカヤの立場を利用して生きている。友則の考えていることもよく分かるが部落の存続の為にはクロ宗の信仰もしょうがないと考えている大人だ。実はサカヤも元一の「おい…」の意味をはかりかねて悩まされている。
白痴の京子は白痴なりに友則と夫婦になる気でいて、早子の存在を邪魔に思ってクロ宗に伝わる呪いのドン打ちをやったことから物語は急速に転がり始める。
最初は人の心を救うために生まれたはずの宗教がいつの間にか形骸化、空洞化したとき逆に蟻地獄のように人を飲み込んでいくさまは見ていて滑稽で恐ろしい。昔から宗教というものに感じ続けていた危うさがうまいこと物語に昇華されている。これは小さな世界の話だけれど現在の世界の状況にも通じている。へんぴな部落は若者が外を目指すことで濃くなりすぎた宗教の毒は薄まり、いずれ消えてしまうのだろうが薄まりようのない毒は濃くなる一方なんだろうか。不安は消えない。
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私も歯が浮いてしまった・・
私も歯が浮いてしまった・・
一度行ってみたいなあ、と思ってます。
何しろ「鬼無鬼島」読んでから2年という月日が経ってしまってるので、ここでうまく説明できる気がしないので、読んでみていただけるのが一番なのではと思います。
黒汰さんがどんな感想を持つのか、ちょっと興味があります。