「大相撲名古屋場所8日目」(19日、愛知県体育館)
横綱朝青龍がつまずいた。関脇稀勢の里に土俵際で逆転の突き落としを食らい痛恨の初黒星。3場所ぶりの優勝から一歩遠ざかった。支度部屋では稀勢の里の強さを認めない強がりな一面をみせたが、武蔵川理事長(元横綱三重ノ海)は勝負勘の衰えを指摘した。横綱白鵬は岩木山を下手投げで退け無敗を堅持。大関琴欧洲も寄り倒しで把瑠都に勝ち、初日から8連勝とした。
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怒るでもない。荒れるでもない。静かに敗戦を振り返っていた朝青龍が「稀勢の里は成長したか」と問われると、唇をとがらせ反論した。「そんなことない。攻めてこないもん。勝ってるから番付が上がっているのは当たり前だろ」。地力では負けていないという、精いっぱいの強がりだった。
1度突っかけられ、2度目の立ち合い。左下手を握った朝青龍は寄って出て、土俵際まで相手を追い詰めた。決着を急ぎすかさず前に出ると、稀勢の里に突き落としを合わされた。残そうとしても足がついていかない。支えを失った体はぶざまに土俵に崩れ落ちた。
力負けではないとはいえ、折り返し地点での黒星は大きな意味がある。全休・出場停止を除き横綱昇進後35場所中21度優勝しているが、中日までに黒星を喫した過去18場所では、優勝はたったの6度。V確率は6割から3割3分3厘に下落する上に、2人横綱になってからは1度しか優勝賜杯を抱いていない。
闘争心が表に出てこない点も気になる。今年の夏場所3日目には負けた直後、風呂場で「うぉ!」と怒声を上げるほど悔しさをあらわにしたが、今回は小声で「くそ」と漏らした程度。報道陣にも「おいしいビール飲めないね」と愛きょうを振りまく場面すらあった。
目前の勝利を逃す“らしくない”敗戦。武蔵川理事長(元横綱三重ノ海)は相撲勘の衰えについて「そういうことになるだろう。いけると思ったんだろう」と渋い表情で分析した。朝青龍は「もう終わったことだし、しょうがない」と自分に言い聞かせたが、優勝が遠のいたことは確かだ。