後退しながらも、必死に首筋を押さえつけた。朝青龍に許した左下手を体を左右に振って切ると、土俵際で左から逆転の突き落とし。倒れてあがく朝青龍を尻目に、座布団の“シャワー”を心地よく浴びた。
「うれしいですね。しのげば何とかチャンスはあると思った。思い切って仕掛けたのがよかった。内容どうこうじゃない。勝てばいいです」。昨年夏場所初日以来となる朝青龍からの白星に、自然に「フフッ」と笑いがこぼれた。
平成19年春場所初日に寄り切られた後にひざげりを食らい、今年初場所初日には敗れた後にだめ押しの突きを食らうなど、因縁深い朝青龍戦。この日は気合が入り過ぎて、1度は突っかけた。「行きたい気持ちが強かった。でもあれで冷静になった」。出番前から「昨日の横綱(白鵬)よりも、今日の横綱の方がまだ攻めるスキはありそうだ」と話していたように、最後まで気後れすることはなかった。
今春、難病の筋ジストロフィーに苦しむ子供から「勇気をもらっています」という手紙をもらった。元気づけるためサイン手形をプレゼント。子供からの返事には「病気に打ち勝つよう頑張ります」と書かれていた。師匠の鳴戸親方(元横綱隆の里)からは常々「人に夢を与える相撲取りになれ」と指導されている。まさに勇気と夢を与えるこの日の相撲だった。
先場所は平幕で13勝。関脇に復帰した今場所は1横綱3大関を撃破した。平成14年初場所の栃東以来となる日本人大関誕生への足がかりに向け、武蔵川理事長(元横綱三重ノ海)は「若手が伸びて大関をつかんでほしい。横綱に勝つのは大事」と期待を込めた。
毎夜、自分の取組をビデオで見て研究する23歳。「あした勝たないとね。横綱に勝った後はいつも負けてるから」。9日目の阿覧戦へ、勝ってかぶとの緒を締めた。(渡部陽之助)