中国地方の梅雨明けはまだだが、蒸し暑さは続く。きょうは、ウナギにとっては受難の土用の丑(うし)の日。やはり、かば焼きの香ばしいにおいをかぎたくなる。
万葉集に大伴家持が夏やせした知人の石麻呂にウナギを食べるよう勧めた歌があるのはよく知られている。滋養分が豊富なことは当時から証明済みだったのだろう。
土用の丑の日にウナギを食す習慣は江戸時代に始まったとされる。倉敷市出身の文筆家本山荻舟の「飲食事典」によると「寒紅を売出したり土用灸(きゅう)をすえるのがいずれも丑の日であるところから、暑中の栄養食品として商人の機略に用いられた」という。
ウナギ好きで有名だったのは歌人の斎藤茂吉だ。戦争中もウナギの缶詰を買い込み、食べる時は「ウナギを包んである紙にしみた油までなめた。黄金の塊であるかのような貴重品扱いであった」。次男の作家北杜夫さんが「人間とマンボウ」の中で回想している。
今年はウナギの市場価格も下落傾向が続いているそうだ。不況で消費者の安値志向が強まったこともあり、安価な中国産の販売が復活しているためだ。安全性への不信感も沈静化しているのか。
精がつく縁起物のウナギを食べるのは日本に根付く食文化の伝統でもある。弱りかけた胃腸に活を入れ、夏本番を乗り切りたい。