|
きょうの社説 2009年7月19日
◎農水省のヤミ専従 「短期従事」の早期廃止を
農林水産省は、全農林労働組合(全農林)の「ヤミ専従」問題で、実態を調査した第三
者委員会の報告を受けて、訓告を含め1237人の大量処分を発表した。委員会の調査では、許可なく恒常的に組合活動に従事した職員が198人に上り、そのほとんどが地方農政事務所や農政局職員で、北陸農政局管内でも13人が該当した。1日4時間以上の無許可組合活動を年間30日以上したケースが全体の半数近くあるなど、公僕意識が摩耗した勤務実態にため息が出るばかりである。北陸農政局で処分されたのは、停職1カ月の2人を含む13人となった。石川、富山で は、減反見直しをはじめ、北陸の課題である野菜を軸にした食料自給率向上に向け、官民挙げて地産地消に取り組んでいる。そうした中で、地方の農業の現場と最も近い位置で実務にあたる国家公務員の違反行為が起きたことは、地元農家にとって不幸であるばかりか、身近な消費者の不信も招きかねない。転換期の日本の農政を下支えする人的基盤の建て直しが急務である。 自民、公明両党は、国家公務員法で、勤務時間中に短時間の組合活動が認められている ことがヤミ専従を誘発する元凶とし、短期間でも組合活動を認めないことを柱とした国家公務員法改正案を衆院に提出した。今国会では成立しない見通しだが、いびつな労使関係を断ち切るために、仕切り直しで法整備し、組合活動の短期従事の早期廃止をめざしたい。 ヤミ専従問題発覚後、北陸農政局管内を含めた全農林の地方組織で、組合の関係資料が 廃棄されるなど一部に疑念を持たれる行為があったり、農水省秘書課による文書改ざんなど、省の中枢を含めモラル低下を示す行為も相次いだ。 農水省は先に全農林との間で、勤務時間内の組合活動の黙認など長年続いた慣行や取り 決めを全廃することで基本合意したが、もともとヤミ専従問題は社会保険庁が発端となって発覚したように、農水省のみならず、全省庁レベルで再検証すべき問題である。処分で終わりではなく、不適切な労使関係を絶つ意味でも、短期組合活動の廃止に踏み込んでもらいたい。
◎県産食材の販路拡大 鮮度保持の技術高めたい
石川県産の食材を首都圏の飲食業者らに売り込む県の求評懇談会が都内で開かれた。農
産物や魚介類などの求評懇談会は2006年度から開催されており、商談成立件数は年々倍増ペースで増えている。さらなる需要拡大が期待されるが、こうした販路拡大努力に並行して、食材の鮮度を保持する技術の向上にも一層力を入れてもらいたい。食材の販路拡大を図る上で、鮮度保持技術の重要性をあらためて示した最近の例は、七 尾の定置網でとれた鮮魚の輸出先の広がりである。昨年の米国、アジアに続いて今年はドイツにも輸出されるとのことで、その理由の一つは、出荷元の鹿渡島定置が、真水の氷よりも低温の海水氷を活用し、瞬時に魚の息の根を止めて鮮度を長く保つ「活(い)け締め」の技術に長けているからという。 高鮮度の食材供給にはコストも手間もかかるが、その良しあしは商品と産地の競争力を 大きく左右するだけに官民一体の取り組みが求められる。その一翼を担う県水産総合センターは今春、ニギスの鮮度を保持する方法として、従来の氷詰めより、シャーベット状の氷で密閉処理する方がよいという実験結果を発表している。 こうした研究とともに生産者の技術向上も支援してほしい。活け締め技術は全国で採用 されているが、魚の急所を刺し、血抜きや神経抜きを行う作業は熟練を要し、行政が技術講習会を積極的に開催することも考えられてよい。 商品価値を高め、市場競争力を付けるため、各産地は鮮度を維持する方法を競っている 。例えば、日本海側の一大漁港である境港市を抱える鳥取県は、マグロなどの大型魚にみられる「ヤケ肉」といわれる肉質劣化の原因解明と防止技術の開発に3年計画で取り組んでいる。また、魚津市の魚津漁協は、全線開通した東海北陸自動車道で鮮度を落とさずに輸送する実証実験を行っている。 食材の鮮度を保持する技術や流通システムの開発は「農商工連携」の格好のテーマでも あり、この面からも新たな取り組みが出てくることを望みたい。
|