(cache) 報道史

現場時代はベトナム戦争や、浅間山荘事件、ロッキード事件など幾多の大事件を経験しましたがそれらも早くも歴史のかなたに過ぎ去ってしまいました。

ここでは、私が現場で実際に担当したテレビニュースの映像取材の経験を通じて、大事件・事故などを例にＴＢＳのテレビニュース取材の歴史を綴っていこうと思います。

このほか北海道や九州の炭坑事故はネット局が取材しましたし、海外の事件など私が取材しなかった大事件も数多くあります。

白黒フィルム時代からＥＮＧ（ＶＴＲ取材）へ、そして衛星中継へと、テレビ報道の歴史とも言える大きな変化と進歩の３０数年でした。テレビ報道の歴史にとって忘れられない事件は、私が直接取材に携わらなかったものでも、先輩や同僚から聞いた話などで一部含めてあります。

通信事情の発達した現在では考えられないような、幼稚な取材態勢でテレビの報道は始まりました。わずか３０年でこんにちのような巨大な姿になろうとは、当時は想像も出来ませんでした。思い出すままに時代を追って記して行こうと思いますが、テレビ報道を志す若い人の一助になれば幸いです。

前半部分はＴＢＳのホームページにも掲載しましたが、私自身がＴＢＳを卒業し現在の会社に移りましたので当社のホームページに移しました。

私が入社する１９６３年までに発生した大ニュース・イベントは以下の通りです。

1959年４月10日、現在の天皇・皇后両陛下である皇太子と美智子さまがご結婚になりました。前段にご婚約のスクープ合戦があったのですが、このご成婚パレードの中継は、日本の初期のテレビ報道にとって最も大きなイベントでありました。

ＮＨＫも含めて各社が地域を分担して、皇居から東宮御所（当時は渋谷区東）までのパレードを全区間中継しました。

当時の中継車はバスのような大型車両で、１台が 100キログラム以上の重いカメラをやぐらの上に組んで生中継しましたが、これは日本のテレビ始まって以来の大規模中継で、全国的にもこのご成婚でテレビ受像器が飛躍的に普及したと言われます。

■ニュースコープ放送開始

1962年10月１日。我が国で初のキャスターが伝えるニュース番組「ニュースコープ」が始まりました。

それまでのテレビニュースは、フィルム画面に合わせてアナウンサーがコメントを読みあげるもので、映画館で上映されていたニュース映画と同じ形態でした。

いわゆる顔出しのキャスターニュースは「ニュースコープ」が始まりです。アメリカでは既にアンカーマンと呼ばれるキャスターニュースが放送されており、ＣＢＳニュースのウォルター・クロンカイトは、世論に与える影響力は大統領よりも大きいと言われていました。（後にアメリカがベトナム戦争終結を決断したのはクロンカイトの「私はベトナム戦争に反対です」の一言によると言われる）

「ニュースコープ」の初代キャスター田英夫さんは、共同通信の文化部長に席を置きながら、夕方になるとＴＢＳに顔を出す毎日となりましたが、その甘いマスクと歯切れの良い語り口でたちまち人気者となりました。（後に共同通信を退社してＴＢＳ社員に移籍する）

スタジオのキャスターと現場中継、フィルム映像などを交えた「ニユースコープ」が、現在のテレビニュースの原型と言えます。

「ニュースコープ」のキャスターには、その後毎日新聞論説委員の古谷綱正さんや、朝日新聞の入江徳郎さんらが加わりましたが、古谷キャスターは1965年から1981年３月25日に引退するまでＴＢＳの顔となり、日本のクロンカイトと呼ばれました。

これは当時のテレビカメラとＶＴＲ機材が、一人では持ち運びが出来ないほど大きく重く消費電力も大きいなどの理由により、現在のようなＶＴＲ取材は不可能だったのです。

当時のＶＴＲはテープ幅が1/2インチで、デッキもトラックで運ばなければならないほど大型の上、価格も現在の貨幣価値で億の単位しましたしテープの価格も１時間もので私の初任給の４倍もしたのです。テレビカメラも三脚を含めると重量が 100キログラムを超す大きなものでとても屋外に持ち出すことなどできませんでした。

したがって初期のドラマは屋外ロケはなくスタジオ内でしかも生放送と言う、舞台劇のような形態でした。後に｢七人の刑事｣など当時の代表的ドラマが屋外でロケした場合もフィルムカメラでした。したがってスタジオのＶＴＲ部分とロケのフィルム部分との画質の違いが目立ちました。

報道取材の16ミリシネカメラの主力機材は、アメリカ製のベルハウエル・フィルモで動力はゼンマイ式、重量も3.3キログラムで片手で扱える大きさでした。

但し、装填するフィルムは 100フィートで時間にして２分40秒しかありません。もちろん録音装置はなくサイレント映画でした。
当時はテレビはまだ白黒です。撮影したフィルムは本社に持ち帰り現像してから編集します。

テレビ発足当時は撮影したネガフィルムからポジプリントを起こして編集しました。

ニュースの項目に従って順番に編集し、１本のロールに完成してテレシネと言う映写機にかけて映画を電気信号に変換して放送しました。

その内容もお祭りとかイベントなど、いわば「絵になる題材」しか扱わず政治経済ものなどは新聞にまかせていました。

当時のテレビの放送は、午後は休止していましたから昼のニュースのあとは夕方までありません。遅刷りの夕刊が配られる都心では、新聞のほうがニュース報道は早いと言う現象がありました。

地方のお祭りなどを取材した撮影済みのフィルムは国鉄（現在のＪＲ）の小口貨物を扱う列車に託して東京に運びオートバイさんが上野駅、隅田川貨物駅などにとりにいきました。従って、地方のお祭りなどは２日ほど経ってから放送されるなど今日では考えられないのんびりしたものでした。

現在多色で字体も変化のある字幕テロップは、当時は葉書大のグレーの台紙に白のポスターカラーを毛筆で書いていました。したがって書き手によって少しずつ字体が異なったのです。この台紙を鉄製のホルダーに順番に組み込んでテレシネ室に持込み、紙芝居のように手で引き抜いてカメラに投射すると言う方法で放送しました。

当時は朝のニュースが７時で、テロップを書く技術者というより職人さんは５時半頃にならないと出社してきません。私が泊まり勤務の時に、政府要人が急死し速報しなくてはならないのに書き手の職人が居らずどうしようと大騒ぎしているときにデスクから「字がうまいからお前書け」と命令されました。

無人のテロップ室に入って恐る恐る書いたのですが、それが放送されると如何にも自信なげな薄い字が頼りなげに映し出されていました。

現在ＣＧで簡単に作画されるアニメもフィルムカメラを１コマ１コマ動かす映画アニメと同じ方法で撮影しました。僅か５～６秒のアニメ画面を作成するのは徹夜作業でした。

私が入社した1963年当時、テレビは一人前のメディアとはまだ認知されていません。

マスコミの社会的地位も新聞・ラジオの順でずっと離れた低位にテレビがぶら下がっていました。

ＴＢＳ社内でもラジオの儲けをテレビが食いつぶすと言われ、お荷物的存在でした。ラジオニュースの中継車は、大きなアメリカ車のステーションワゴン。クッションもふわふわでした。

テレビ報道部に配属され、私が初めて乗った取材車はウィリスと言う小型ジープでなんとドアの代わりに鎖がついていました。

まあ現代のサンドバギーに毛が生えたような車です。吹きさらしですから、冬は寒くて参りました。

事件現場でも、ラジオは電波で生中継、新聞は現像車から電送。テレビはフィルムをオートバイに託す。速報面でも最も遅い、実に情けないメディアでした。

ヘリコプターも、先に専用機を持ったのはラジオで交通情報を生中継しました。

テレビは専用機ではなくその都度機体が異なり、ドアに差し込む社名のプレートを入れ替えて飛行しました。

テレビが一人前のメディアと認められたのは、東京オリンピックの頃からではないでしょうか。

★ネガ編集の怪しさ

テレビ放送が始まったころのニュースは、白黒フイルムのネガをポジフィルムに焼き付けて編集していたようですがその後時間短縮の為にオリジナルのネガを直接編集して、放送時に電気的に反転してポジ映像にして送出しました。

写真フィルムをみればわかりますが、ネガのままではレントゲン写真を見ているようではっきりわかりません。それでも慣れてくると人相まで判るようになります。

ベテラン編集マン「オッ！いい女じやないか。」
新人編集マン「そうですか、僕にはガイコツのようにしか見えません」

東京から遠くで事件が発生した場合、撮影したシネフィルムを列車で運んでいたのでは間に合いません。そのような時は、写真電送機を持参しポラロイドカメラ（現在のインスタント写真ですが当時はアメリカのポラロイド社が唯一だった）で撮影した写真を電話線でつないだ電送機にかけて本社に送りました。

いわば新聞社と同じような取材方法でテレビ本来の機能である動画は、列車で運ばれたシネフィルムが本社に到着して現像されるまでは放送できませんでした。

電波の世界であるテレビが、取材に関しては電波を利用できず映画や写真の手段を利用していました。

最も早く輸送する手段は、ヘリコプターですが当時はテレビ局の経済的規模も小さくよほどの大事件でなれければヘリは使用しませんでした。

ニュース報道に関しては、速報面でも内容でも新聞の後塵を拝していたと言えます。

それまでテレビ放送は、午後の数時間は休止していましたが、1963年11月１日から、朝から夜まで通しの全日放送となりました。

しかし、ニュース番組は、12時の昼ニュースから、18時半の「ニュースコープ」までありませんので場所によっては新聞の夕刊のほうが報道が早いと言う現象がおきていました。（ニュースコープの前に朝日・読売・毎日の新聞社が制作する３社ニュースと呼ばれるニュースがあったが、これは新聞社からフィルムを持ちこむので内容は更に遅かった）

ＴＢＳの報道局は、全日放送になったのを契機に態勢を強化することになり映像部門のカメラマンとフィルム編集マンがＴＢＳ映画社からＴＢＳに移籍しました。

また地方の取材については、当時は都内の大田区羽田・葛飾区金町のほか伊豆大島・千葉市・横浜市・前橋市・桐生市・沼津市・秋田市の９カ所に契約の駐在カメラマンを配置していました。これらの駐在カメラマンは、地方のお祭りとか野菜の出荷などいわゆるヒマネタを取材し列車や定期客船でフィルム原稿を東京に送りました。

初めての衛星中継の為に、関係スタッフは前夜近くの旅館に泊まり込み私は先輩の中沢記者と二人で定時のテレビニュースの泊まり勤務に入っていました。

23日の早朝、共同通信のテレックスがチンチンと至急報を鳴らしました。その内容は「遊説中のケネディ大統領がテキサス州ダラスで何者かに撃たれた」と言うものでした。

直ちに明け勤務のアナウンサーがアナブースに走りこの一報を伝えましたが、しばらくして死亡の報が入りあらゆる番組を中断するＴＢＳとして初めての臨時ニュースに切り替わりました。

しかし、詳細は入らず、ニュース源は共同通信のテレックスだけで榎本アナウンサーは「アメリカのケネデイ大統領が何者かに撃たれて死亡しました」の短い原稿を繰り返して読み上げるだけでした。

そのうち、予定通り初の日米衛星中継番組が始まりＭＢＳのニューヨーク支局の記者が顔出し生中継で衝撃的ニュースを伝えました。これが我が国に於ける衛星中継の始まりであり内容が衝撃的なだけに特に印象に残ります。

1963年は、
３月末に東京台東区で吉展ちゃん誘拐殺人事件が発生。
６月に黒四ダムが完成。テレシコワさんが初の女性宇宙飛行。
秋に爆弾魔草加次郎事件。
11月に三井三池炭坑の炭塵爆発事故と鶴見列車事故。
12月に国民的英雄だったプロレスラー力道山が赤坂のナイトクラブで暴力団に刺され死亡。

などのニュースがありました。死者数としては三池事故のほうがずっと多かったのですが、鶴見事故のほうがニュースとしては大きく報道されました。ホットラインとも言える京浜間で発生した事故だったからでしょう。

またショーン・コネリー主演の映画「００７は殺しの番号」で００７シリーズが始まった年です。

■新潟地震

1964年６月16日午後、ＴＢＳの社屋が大きく揺れました。船が揺れるような長い周期の揺れ方でした。これが万代橋が落下したり石油コンビナート火災や県営住宅の倒壊など大きな被害を出した新潟地震でした。

当時、系列局の多くはまだ取材態勢が貧弱で大事件が発生すると東京から取材陣が応援に乗り込みました。

何人かのカメラマンと記者が車で新潟に向けて出発しました。当時は上越自動車道はまだありませ。国道17号線をひた走り10時間以上かかって新潟市入りしました。

先輩の青木カメラマンは、小型ヘリで福島経由で新潟入りしました。たしか気流が悪くて清水峠越えが出来ずに福島県経由ルートになったと記憶しています。

電話や記事だけで伝わる情報ではぴんときませんでしたが、倒壊した５階建ての県営住宅やひび割れした空港の滑走路。崩落した万代橋(ばんだいばし)などの映像は、地震災害の恐ろしさを一瞬にして知らせました。

この年は２月の新潟豪雪、５月の北アルプスの登山者の大量遭難などＴＢＳから多くの応援カメラマンが出張しました。

シネカメラについて･･････｢声はすれども｣事件

1977年までニュース取材は16ミリシネカメラでした。特に初期は機能が単純だった為今では考えられない失敗がありました。

初期のカメラは撮影レンズとファインダーレンズが別々で、標準・ワイド・望遠の３種のレンズをそれぞれ選んで距離をあわせる構造でした。撮影レンズとファインダーレンズは５センチ以上離れているので、距離によってファインダーレンズの角度を調節して撮影レンズと同じ視角にする必要がありました。撮影レンズが50フィートに合っているのに、ファインダーが３フィートになっていてはそれぞれ別の対象を捉えることになります。それぞれの延長線の交差点に対象物がないと正しく撮影できません。したがってファインダーでは確かに見えていたのに、現像してみると何も写っていないということがありました。

国会の開会式K$OE79DJE2<$,$4=P@J$K$J$j$*8@MU$r;r$j$^$9$,!"$"$k;~!"?7?M$,E79DJE2<$N$*8@MU$rF1;~O?2;%+%a%i$G;#1F$7$?$H$3$mCk$N%K%e!<%9$G$OE79DJE2<$N$*@<$O$9$l$I$b!"

ＴＢＳは東京から大阪まで、新幹線車内から全線生中継を実施しました。

沿線各地に電波の中継点を設置し、車内からその方向にアンテナを手動で向ける方法で技術スタッフの苦労は大変なものでした。

丹那トンネルなどトンネル内は電波が通らない為、その区間だけスタジオで司会者やゲストが解説しましたがとにかくこれほどの長距離・長時間を移動生中継すると言うのは我が国のテレビが初めて経験するものでした。

新幹線開通後間もなく1964年10月10日から24日まで、アジアで初めてのオリンピックが開催されました。首都高速も羽田からの１号線だけが突貫工事で開通しました。

開会式や競技などの本体は、ＮＨＫ・民放が一体となったプール取材態勢によって中継されました。

世界のトップアスリートが競う大イベントの中継によって、テレビが一般家庭に普及しました。

エチオピアの英雄アベベが優勝したマラソン中継(ＴＢＳが担当)も、当時のテレビにとって画期的なことで前年のアジア大会で同じコース(甲州街道)のマラソン中継をオリンピックのリハーサルの意味で実施しましたが、ヘリコプターを使用して生中継されたのはこれが初めてです。

しかし、今日のように全コースをヘリで中継したのではなくスタート・ゴール地点の国立競技場の近くに本部中継車を配置し、それに向かってヘリから電波を発射すると言う方法ですから本部中継車に電波の届く範囲だけでメインレースは沿線のビル屋上などに設置した地上カメラを中心に放送されました。

市川昆監督による劇場用記録映画はカラーでしたがテレビ放送はまだ白黒でした。

当時のＶＴＲはテープ幅が２インチもある巨大なもので、テープも含めて全て輸入品でしたから恐ろしく高価なものでした。編集方法は鋭利な剃刀で切り張りするカンと職人芸的技術を要するもので１カ所の編集代金が１万円と言われました。当時の新入社員の初任給が２万円程度の頃です。

従って細かい編集を要するニュース番組では高価なＶＴＲは使用できず、生中継で送られてくるブラウン管画面を白黒シネフィルムで撮影するキネレコと言う方法がとられました。

「体育の日」は10月10日の東京オリンピックの開会式にちなんで後に制定されたものですが、2000年から10月の第２日曜日に変更になってしまいました。

1964年はこの他次のような事件がありました。
●３月24日　ライシャワー大使刺傷事件。
●４月５日　町田市の商店街に米軍戦闘機が墜落、死者４、重軽傷27人。
●６月11日　昭電川崎工場でタンクが爆発、死者18、重傷５０。
●８月２日　トンキン湾事件。これを契機に米軍がベトナム戦争に介入。
●11月12日　原潜「ドラゴン」が日本寄港第一号として佐世保入港。９月頃から佐世保・横須賀で反対闘争。

これは大事件ではありませんが、大学体育会の悪しき慣例に警鐘を鳴らす意味で大きな社会問題として報道され「しごき」が流行語にさえなりました。

警察が現場検証すると言うので何社かが秩父山地の笠取山に同行取材しました。
　中年の捜査課長は登山の経験がなく、汗をかいていましたが何時間も歩くうちに親しくなり、私が過ごした慶應義塾大学のワンゲル部や出会った他の大学の例など私の経験を話したりしました。

初日での取材が大体終わった所で、この日の夕方のニュースに間に合わせるべく一行から別れてヘリとの待ち合わせ場所に急ぎました。

山頂のやや広い稜線に到着する前にヘリの音が聞こえ、間もなく佐々木記者が乗った２人乗りの小型ヘリが姿を現しました。ヘリは何回も旋回してようやく手を振る私を発見し投下袋を結んだロープが窓から下ろされます。ところがヘリ自身が巻き上げる風で投下袋が大きく揺れて、私が居る狭い尾根の登山道に届きません。

危うく崖下に落ちそうになりながらようやくロープをつかんで撮影したフィルムを収納し手を振って合図、ヘリは燃料の関係もあってすぐ東京目指して飛び去りました。

これで一安心、ヘリを呼んだのはＴＢＳだけで夕方のニュースにはわが社だけが最新の映像が入ります。
　他社は最初からあきらめて下山する翌日に放送する社と、まだ現場検証をする前の現場に向かう登山口風景だけを撮影して助手が早々に下山した社などがありました。

現在なら現場から衛星中継かヘリ経由の中継で逐一伝送しますが、当時は人間が歩いて下山するかヘリ輸送がすべてでフィルムの運搬手段によってスクープがとれるかどうかが決まりました。

笠取小屋で一泊し翌日は午前の取材が済んだところで、私は夕方のニュースに間に合わせるべく馳せ下りました。二日目でニュースの扱いは小さくなりヘリを飛ばすほど費用はかけられないからです。

他社も照明兼務の助手か記者が急いで下山しさながら下山競争の形になりましたが、私は途中から別のルートをとりました。この付近は学生時代によく歩いた山域で、遠回りでも道がよくて時間が短縮出来ることを知っていたからです。

麓の登山口につき、バス停前の雑貨屋の水道で顔を洗い汗を拭ってアンパンで腹を満たしたところに待ち合わせ時間を決めていたＴＢＳのハイヤーがやってきました。他社の姿はまだ見えません。脚力の勝負と言う原始的な速報競争でした。

私が下山する時、現場検証作業はまだ一部続いていましたので警視庁担当の伊達記者に、予想外の状況が発生したら撮影して貰うように念の為カメラを託したのですが「お前は俺に重いカメラを押しつけて先に下山した。」と後々まで言われました。

山に於ける死亡事故は、これまでは事件として扱われることは殆どありませんでしたがこのしごき事件は有罪判決が出て、その後山の遭難事件にも警察が刑事事件として介入するきっかけのひとつとなりました。

当初は墜落地点が特定できませんでしたが、目撃情報から海上であることは確かでした。

ＴＢＳの鈴木恭デスクは、海上からの生中継を計画して川崎～木更津を結んでいたカーフェリーを電話でチャーターしました。一日150万円のチャーター料でしたが当時としては大金で決断を要する金額でした。

川崎港からＴＢＳの中継車１台だけをのせた大型カーフェリーは、木更津沖に向かい夜のニュース時間に全日空と描かれた大きな破片が引き揚げられた瞬間が生中継されました。これによって全日空機の遭難が決定し大スクープになりました。

海上の動く船舶からの生中継はこれが初めてです。手動でアンテナを東京タワー方向に向けて電波を発射しましたが、夜間で方角が特定出来ず困難をきわめた中継でした。

翌日になると日本教育テレビ（現在のテレビ朝日）は東海汽船をチャーター、ＮＨＫなど他社は東京湾のフェリーボーH$r%A%c!<%?!<$7$FCf7Q$7$^$7$?$,!"$=$l$^$G0lF|6a$/#T#B#S$,FHAv$7$^$7$?!#

ヘリで現場に向かったＴＢＳの益子カメラマンは、悪気流に翻弄され機内で吐きながらも現地に着陸、凄惨な現場の情景を撮影して帰投しＴＢＳの屋上に撮影フィルムを投下しました。日没もせまり、燃料の関係もあって現場での取材時間は30分もありませんでしたが現場に到着出来たのはＴＢＳ機だけで、夕方のニュースの終わり間近に放送された無惨な現場の情景は大スクープとなりました。

当日夜、ＴＢＳの取材部長宛にＮＨＫの部長から「あのような悪気流にお宅は飛行させるのか」と見当はずれの抗議があったと言うことです。

この時、益子カメラマンが使用したカメラはベルハウエルフィルモというゼンマイ式のシネカメラで撮影したフィルムはわずか100フィート（２分40秒）です。

当時の取材カメラは、殆どが100フィート装填でしたからカメラマンはこの100フィート１本で１取材を完結させる習慣がありました。従って頭の中でコンテを描きじっとシャッターチャンスを待って撮影しました。

フィルムの価格と現像の費用が高価だったことも関係しています。

ＢＯＡＣ機が墜落した前日には、羽田空港でカナダ太平洋航空のDC-8型機が着陸に失敗して64人が死亡、二日続きの航空機事故でした。

1965年10月６日、マリアナ海域でマグロ・カツオ漁船７隻が台風29号に巻き込まれて遭難、死者不明209人を出しました。これは生存者わずか42人と言う我が国の漁船遭難史上最大の被害です。

このニュースは漁業無線によってもたらされましたが、当時の取材力としては現地まで飛ぶ力はありません。

そのうちの１隻が帰港する途中、三宅島付近で巡視船に収容されると言う続報がきてその途中を空撮しようと調布飛行場をセスナで飛び立ちました。

無線など持たず出発前に共同通信による最新位置だけを頼りに三宅島を目指しました。

一口に三宅島沖と言っても広い海原で、どこに漁船が居るのかまったく見当たりません。

どうしても見つからず、下田港に巡視船が帰るとの報道をもとに下田に機首を向けました。式根島の近くで白い漁船が１隻見あたりました。ほかに船影はありません。

２回ほど旋回すると２人の船員が甲板にでてきて嬉しそうに日の丸の旗を振りました。

これは生き残った船員に違いないと勇躍撮影し、赤坂に向けて帰りました。

調布に着陸してオートバイで運搬したのでは昼のニュースに間に合わず、ＴＢＳの屋上めがけて投下する以外ありません。

ヘリなら低速で高度も低くおりられますが、固定翼のセスナではせいぜい上空300メートルが限度です。それも時速100キロ以上ですから、上空から見るとＴＢＳの屋上は小さく小さく見えとても命中しそうには思えません。通り過ぎて一、二、三と数えて投下して下さいとのパイロットの指示に従ってフィルムを詰めた原稿袋を投下しました。直径60センチほどの小さなパラシュートが開き、風にのって遥か虎ノ門方向に流れて行きます。誰かが拾って届けてくれることを祈るしかありません。どこかの屋上に引っかからずうまく路上に落ちてくれよと念じて調布飛行場に着陸しました。

当時はこのようなことが少なからずあったので、投下袋には「これを拾った人は、すぐＴＢＳに届けて下さい」と書いてありました。拾った人の親切心に賭けるしかない今では考えられない方法です。

本社の玄関に帰りついたのとニュースが放送されているのが同時でした。

投下したフィルムが無事に届けられて放送され「甲板に現れた船員が日の丸の旗を振った」と言う私のキャプションの通りのコメントが流れました。

原稿は通行人が届けてくれたそうです。やれやれよかったと安心し、ＮＨＫのニュースを見て愕然としました。私が撮影したのとは全く違う映像が出ているのです。

実は船足が早まって三宅島沖ではなく大島沖で巡視船と出会ったのでした。

私は見当はずれな場所を探しまったく関係ない漁船を撮影し、結果的に誤報を流したことになります。

ＮＨＫは横浜の第三管区保安本部に詰めている記者が最新の情報を入れて大島沖に飛行したのでした。私が早朝、三管に電話で問い合わせた時は「予定通りですよ」と眠そうな声で教えてくれたのに。その予定通りが共同通信の報道のあと大島沖に変更になったとは。あまりにも幼稚な取材態勢の結果でした。

山梨県足和田村根場(ねんば)の全集落が一瞬のうちに鉄砲水に飲み込まれて消滅したのです。

第一報は共同通信のテレタイプでした。当時山梨県は民放はＮＴＶ系だけで、ＴＢＳ系列のテレビ山梨はまだ開局していませんでした。

どの程度の規模の災害かもわからずカメラマンがヘリポートに急行し、我々は車で現場に向かいました。
　まだ中央高速道もない頃です。甲州街道を飛ばしてようやく足和田村に到着したのは午後になっていました。

根場地区に至る一本道は消防によって封鎖されており、緊急車両のみが入っています。

ＴＢＳと言ってもネット放送していないので「聞いたことねえなあ。駄目だ」と進入禁止。地元で最も有名なのはＮＨＫとＮＴＶ系列の山梨放送で、それらの車は無条件で進入しています。仕方なく徒歩で向かおうとカメラとフィルムをバッグに入れ、ちょうど通りかかった県の救援トラックに便乗して現場に向かいました。

現場はそこから約２キロ。１軒も残らず集落全部が消えて一帯は泥流が雪崩の末端のように広がって平坦になっていました。

多分上空から見たら学校の運動場のように見えたことでしょう。私の目の前にＮＨＫのヘリが到着し、地上すれすれでホバリングして飛び降りたカメラマンはすっぽり太股まで泥に埋まりました。

少し残った屋根の残骸と横倒しになった牛の死骸がわずかにここが集落の跡だと知らせるだけで、数百人が生活していた形跡はまったく消えていました。

台風は遠く過ぎ去りこの泥の下に多くの人々が埋まっているなどとは信じられないようなおだやかな晴天でした。

この恐ろしい災害をもたらしたのは御坂山塊から流れ出る普段はなんということのない小川なのです。鉄砲水の恐ろしさをつくづく感じました。

当時の通信手段は、今から考えると全く貧弱で携帯電話はまだありません。無線も富士山で中継しなければ東京に通じないうえにＴＢＳ全体でもそんなに数がありませんから私はなにも通信手段を持って居ません。

撮影したフィルムを持って約２キロの道を駆け戻りようやく到着した本社の応援部隊に手渡し、ヘリで東京に運んで夕方のニュースにやっと間に合うといった状態でした。

ＮＨＫやＮＴＶの地元局も多くは甲府市から山越えで来るのですからそれほどの違いはありません。

数日後、犠牲者の合同葬儀が営まれました。膨大な量の泥に埋まり数人は遺体が収容されませんでした。

根場地区の墓地は集落を見下ろす山の上にあります。当時はこの付近はまだ土葬でした。棺を担いだ葬列が尾根道を登ってきます。ファインダーに映るその物悲しい光景が今でも脳裏に浮かんできます。

この台風では、静岡県の梅が島温泉などでも大規模な災害が発生し山梨・静岡両県下合わせて死者不明314人に達しました。

台風災害といえば、1965年９月18日深夜ラジオ関東の取材車が晴海埠頭から東京湾に転落して記者・アナウンサーら６人が死亡したことがあります。海面が光って舗装道路と錯覚したのだろうと言われました。

別の台風取材の時、伊豆半島に上陸しそうだとの予想で沼津市に宿をとり夜ニュース用の取材をと東海道を西に向かいました。接近前で陸上ではまだ風も強くありません。しかし、海上はうねりが高く、時折り防波堤に高い波飛沫をあげていました。

興津付近でしたか、突然高い波が堤を乗り越えて走っているジープに襲いかかりました。　まだ東名高速が出来る前、国道１号線です。それほどの威力ではないと更に走りだそうとした時、ドライバーがアレッと声を上げました。なんと波の圧力で車がスピンし全く逆方向を向いていたのです。

台風取材には油断は禁物です。我々カメラマンは常に危険と隣り合わせで取材している自覚を持っていなければなりません。

また1981年８月24日は、台風が過ぎ去って安心した翌日に小貝川が決壊しました。上流に降った大量の水が下流に流れた結果決壊したものですが、台風の場合は過ぎ去ったあとも油断してはいけないことを学びました。

★素人カメラマン・編集マンの誕生
1960年代の中期に新しい報道局長が就任しました。新任の島津局長は、「これからのテレビ記者はカメラも扱えて編集もできコメントも書いて喋れるオールラウンドプレイヤーでなければならぬ」と大号令をかけ、素人カメラマンや編集マンが誕生しました。それまでのニュースカメラマンはベテランでニュース映画出身、若手でも映画社出身のプロの集団です。この混乱のなかで多くの笑い話が生まれました。テレビ画面は横長ですから、縦に長いものの撮影には向いていません。ある時、中国を訪問した政治家に同行した記者氏、時の周恩来総理と握手する場面で、普通に撮影しては全身が入らないとカメラを横にして撮影したのです。現像後、ラッシュを見ていた編集マンがびっくりして叫びました。
「あれ！周恩来さんが寝ちゃってるぜ」

★多くの素人編集マンも誕生しました。当時のフィルム編集は和鋏で切断し、ヤスリでノリシロ面の乳剤を削って接着剤を塗布して貼り合わせるのですが、下手な人がやるとすぐ剥がれてしまいました。放送が終わるとテレシネからフィルムが戻るのですが、或る人が担当だった時、放送時に映写機にかけた際に接着個所すべてが剥がれ、１カットずつバラバラになり、籠に入って返送されました。我々が使用していたフィルムは掻き落とし穴(パーフォレーション)が片側だけでしたが、アメリカや外国から送られてくるポジフィルムは両側に穴があいていました。鋏で切り落とした途端に、素人にはどちらが表か裏か判別がつかなくなってしまいます。放送では、天地さかさまに人間が逆立ちして歩いたりラグビー試合で渡来した選手が突然飛び上がって逆走したりしました。

1967年10月８日。佐藤総理の東南アジア・大洋州歴訪阻止闘争で、全学連2500人が羽田空港に通じる弁天橋で機動隊と衝突しました。この衝突で京大生山崎博昭君が死亡。警官・学生双方で負傷者数百人を数えました。警視庁は1960年の安保闘争以来７年ぶりにガス銃を使用。以後全学連と機動隊の対立は激化して行きました。

当時の社会情勢は、前年の早稲田大学学費値上げ闘争以来学生側の団結動員力が高まり、ベトナム戦争の激化とともに後方支援基地の性格を帯びてきた日本政府に対する反戦運動も高まって行きます。

この衝突を横目に佐藤総理の特別機は飛び立って行きましたが、警官・学生側の対峙は夕方まで続きました。

最初衝突の中心で撮影していた私は、後方(蒲田側)のビルの屋上に大勢の見物人が居るのに気が付き私もそこに移動しました。なるほどここからだと対岸の空港側に陣取る警察側と、海老取川のこちら側に陣取る学生の様子がよく判ります。

女子学生が付近の住宅のゴミ用ポリバケツに投石用の石を集めたり、負傷した学生の看護を担当前線の男子学生を支援していました。

衝突は空港に通じる唯一の弁天橋の上で繰り返されましたが、肩の良い学生は約80メートルの海老取川の対岸まで投石し警察を悩ませました。

終盤、満を持していた警察側が一挙に押し出し逃げ場を失った学生は海老取川に飛び込んで泳いで逃げたり、忍者のように弁天橋の橋の下に貼り付いて警察をやり過ごします。

このビルの屋上に居る報道カメラマンテレビでは私だけだったので、この全景がよく撮影できました。この時の撮影で必ずしも衝突の中心に居なくても、一歩離れたほうが時には良い映像が撮影出来ることを学びました。

翌る10月９日には、成田市三里塚で新国際空港建設の為の測量用杭打ちが強行され長い長い成田空港反対闘争が始まります。

第二次越冬隊は、悪天候の為に昭和基地に接近できず1958年２月に越冬を断念、隊員だけを収容し15頭のカラフト犬が置き去りにされました。

1959年１月14日、第三次隊が昭和基地でタロー・ジローの２頭が生存しているのを発見大きな反響を呼びました。

永田武隊長の第一次隊には、報道隊員として当時共同通信社会部の田英夫記者(後のニュースコープのキャスター後に参議院議員)と朝日新聞記者。日映新社の映画カメラマンが参加し、放送局はまだ参加出来ませんでした。

ＮＨＫがテレビからの代表隊員として参加するようになって数年、民放からも参加したいとアピールし文部省クラブで参加が認められ第九次観測隊に初めてＮＨＫと民放の共同取材が実現しました。

この時の文部省の条件が冬山経験者と言うことでＴＢＳの私が隊員として選ばれました。この時ほど学生時代登山をしていて良かったと思ったことはありません。

現地では、登山技術など必要ありませんでしたがまだ探検や冒険の要素が多い時代でした。同行のＮＨＫの加藤慶男カメラマンはベテランで、私が助手のような形でした。

1967年11月に晴海埠頭を新造船「ふじ」で出港し、オーストラリア南西岸のフリマントルに寄港した後年末に昭和基地近くの氷縁に接岸しました。

時折り取材はしますが往復とも船の中は退屈です。隊員や乗組員の船室を相互に訪れたりして親睦を深め、昼間は食堂でおはじきと玉突きをミックスしたような卓上ゲームに興じて時間を過ごします。

時間はたっぷりあるのだからと推理小説をたくさん持参したのですが、一日中揺れる船内では思考能力がマヒするのか複雑なストーリーは追っていけず登場人物の名前も性格も覚えられません。単純な講談ものや冒険ものが最も好まれました。

食堂で週に２回開催される映画も、映画としては優れた作品でも複雑なストーリーは好まれず最も人気があったのは東映の「宮本武蔵」とＴＢＳが寄贈した「水戸黄門シリーズ」(東野英治郎さんが黄門様)でした。

音楽を聴くのは頭を使わないので効果的なストレス発散です。ある時食堂に備え付けの宝塚の舞台公演のＬＰレコードを発見し、しばらくの間これを聴いていました。
　女っ気の全く無い揺れる船内で聴くタカラジェンヌの黄色い歌声はなんとも可愛らしく胸キュンものでした。

現在は全員が船室にビデオデッキを持ち込んでＶＴＲやテレビゲームを楽しんで居ることでしょう。娯楽に関しても隔世の感があります。

家族や所属会社のほか文部大臣などからの激励電報もありますが、最も人気があるのは女優の藤村志保さんです。

隊員のアンケートで最も人気があったのが藤村志保さんで、それ以来南極観測隊のマドンナになっています。

日本へ年賀電報を発信することも出来ますが費用がかかるので大量に出す人は、晴海を出港すると船内で書き出し往路の唯一の寄港地フリマントル(オーストラリア)で投函するN$G$9!#

観測船「富士」が暴風圏を乗り切ると流氷が姿を見せ、日に日に大きくなるとともに数を増していきます。群氷帯に入ると船腹に流氷が当たるようになり、夜間その音がゴーンゴーンと船室に響きます。

時折り、流氷の上に休むアザラシの姿を見るようになると南極近しの感が実感として湧いてきます。浮氷が更に密度を増し、密群氷帯になるといよいよ砕氷行動が始まります。

群氷を押し分けて順調に進んでいた船は、氷の厚さが２メートル近くになると停止後退前進を繰り返す本格的な砕氷作業にかかります。

砕氷といってもぶつかって割るのではなく、一旦後退してから勢いをつけて前進し氷の上に乗り上げて船の重みで割るのです。それでも割れないと船腹の水を移動させて船を揺らします。

この頃になると隊員は全員が甲板に出て砕氷活動を見守ります。船が氷に乗り上げて進む時は思わず力が入り甲板の手すりを押している自分に気が付きます。
同じことを繰り返す単純な作業ですが、見飽きない不思議な光景です。

格納庫に入っていたヘリが引き出されて開水路偵察の為に飛び立ちます。空撮の為に搭乗しましたが、丸い曲線を描く水平線まで見渡す限り白一色の世界は地球は広しと実感させました。

船が昭和基地に近づくと隊長ら幹部と我々報道陣がヘリに搭乗し基地に向かいました。越冬していた隊員にとってはこの時渡される家族からの手紙がなによりの楽しみだす。

昭和基地は南極大陸とオングル海峡を隔てた東オングル島の露岩帯に展開しています。近くには第一次越冬隊からの不要になった廃材などが積み上げられ、必ずしも美しいとは言えません。このどこかにかのダッチワイフが埋もれているとの話でした。

砕氷行動を繰り返して観測船「富士」が基地から１キロあまりの所に錨泊したのは、1968年が明けてからでした。

昭和基地に接岸してから２月に帰路出発するまで約２カ月、昭和基地及び南極大陸を取材しましたが撮影の合間に基地の建物の建設なども手伝いました。報道隊員も身分は文部省の臨時職員でしたから。

基地の建設、隊員の観測風景、大陸への雪上車旅行。ペンギンのルッカリー(集団営巣地)の観察など基地にいる２ヶ月はあっと言う間に過ぎてしまいます。

数年前の越冬中に犬にエサを与えようと建物を出たまま激しいブリザード(雪嵐)に襲われて方角を失い、行方不明になっていた福島隊員の遺体が２キロ程離れた地点で発見されるなど、思い出深い初めての海外出張でした。

村山隊長ら越冬隊員と記者として初めて越冬する朝日新聞の高木記者を残し、｢富士｣は昭和基地を離れました。帰途、ソ連のマラジョージナヤ基地を訪問し、1968年３月南アフリカのケープタウンに寄港したところで越冬帰りの第八次隊員と我々テレビクルーは下船し、フィルムを航空機で日本に発送してパリ経由で帰国しました。

帰国してすぐ特別番組の制作です。ＮＨＫは毎回フィルム構成の記録映画を放送しましたが、初めて参加したＴＢＳは張り切ってスタジオを使用した大番組を制作しました。

当時最大だったＧスタジオに大量の塩と発砲スチールで氷山のセットを組み、南極経験者の田英夫キャスターを司会者に私が報告者、永田武教授や第八次の藤原越冬隊員らがゲスト出演しました。

「あすの南極」と題した１時間半のこの番組は、いまでも南極関係者の間で最高の番組だったと称される優れた番組でした。

30年後、村山隊長にこの番組のコピーを要請され社内ライブラリーを探しましたがフィルム部分が残るだけでスタジオを含めた番組そのもののＶＴＲは発見できませんでした。当時の２インチＶＴＲは高価だったので、しばらく経過してから消去して別の番組に使い回ししたらしいのです。

私が参加してからちょうど20年後に後輩の島田カメラマンが同行取材しました。南極観測隊に初の女性隊員森永さんが誕生した年です。島田カメラマンはインマルサット衛生電話で盛んに本社に連絡してきました。私の時のようにトンツートンツーの無線電信とは隔世の感があります。

それまでにＮＨＫは昭和基地から衛星生中継を実施しましたし、越冬隊員は衛星電話で自宅と会話ができるし電信で通信していた我々の時代とは隔世の感があります。

■カラー化と取材部発足

この頃(1960年代後期)からテレビが一部カラー放送されるようになりました。

但し、カラー受像器は極めて高価で一般家庭には普及していません。初任給の10倍近くしたのです。

ニュース番組ではカラー化は大問題でした。と言うのは、まずカラーのシネフィルムが現像料を含めると高額になること。カラーフィルムの感度が低いこと。現像時間が長いことです。

当時カラーの16ミリシネフィルムはアメリカのコダック社が全盛で、フジフィルムがなんとか牙城を崩そうと頑張っていました。

当時、現像料を含めると100フィート（２分40秒）当たり１万円かかり初任給が３万円程度の時代ですから膨大な量を消費するニュース取材に於いてこの金額は大きな問題でした。また白黒フィルムに比べて感度が低く、暗い所の撮影が多いニュース取材には向きません。

100フィートの白黒のシネフィルムを現像するのに７分程度かかりましたが、カラーだとどう急いでも40分を要しました。

常に追い込みとなる昼ニュースで、この現像時間の長さは致命的でした。しかし、時代の趨勢はカラー化に向かっており避けるわけにはいきません。

そこでＴＢＳは、1968年９月30日から夕方の「ニュースコープ」だけをまずカラーで放送し追い込みが続く昼ニュースは白黒で放送すると言う変則的な措置をしばらくの間続けました。

従って昼と夕方の両方で扱う題材に関しては、白黒班とカラー班の２撮影班が出動すると言う事態になりました。

そのうちに現像技術の発達により、現像時間が白黒当時と同じ位に短縮され全面的にカラー化に移行しました。

ＴＢＳでは、このカラー化を控えカラー撮影には素人カメラマンでは無理で専門家を育てるべきだとの声が高まり９月１日に映像取材を担当する取材部が創設されました。

単なるカメラマンの集団ではなく、中継ディレクターも担当する映像取材全般を一元的に担当する部でこの様な性格の部はＴＢＳが初めてです。

当初はフィルム撮影とテレビカメラによる中継の映像は、フィルムは現像しなければ放送できないなど相いれない性格のものでしたが後にビデオが導入されて一体となり、総合力を発揮するようになりました。

■反戦運動

1967年から70年安保反対闘争、そして成田空港建設反対闘争とこの頃は学生運動と反戦運動が頂点に達した時代でもありました。

1968年は１月に原子力空母「エンタープライズ」が入港するとのことで、各地で反対闘争が繰り広げられました。

１月15日、法政大学を出た所で全学連と警察が衝突、131人が逮捕されましたが逮捕を逃れた約70人が急行「西海」で佐世保に向かいました。

翌日博多駅で学生と警官隊が衝突、17日には現地佐世保の平瀬橋で衝突するなど騒然とするなか19日に空母「エンタープライズ」は２隻の駆逐艦を従えて入港しました。

この博多駅の衝突の模様は各社がニュースで放送しましたが、1969年８月に福岡地裁がＮＨＫ・ＫＢＣ・ＲＫＢ・ＴＮＣの各社に取材フィルムの提出命令を出し司法とテレビの対立の図式となりました。

各社は提出を拒否して特別抗告しましたが11月になって最高裁は公告を棄却、各社は12月に提出を拒否したあと1970年３月に福岡地裁が強制差し押さえしました。

テレビのニュースフィルムの証拠問題と提出命令と言う、日本のテレビ報道にとって大きな問題の始まりとなりました。

この問題は同じく1968年２月に静岡県で発生した金嬉老事件でも同様の証拠提出問題がおき「司法と報道」のX78$KBg$-$JLdBj$rEj$2$+$1$^$7$?!#

この年1968年は、ベトナム戦争が激化するとともに後方支援基地としての日本の存在がクローズアップされ、東京王子の野戦病院反対闘争や相模原の米軍補給廠への戦車搬入阻止闘争など長期取材が続きました。

1968年２月から新東京国際空港建設反対の三里塚闘争が始まり、ＴＢＳのドキュメンタリー取材の車に反対派の主婦が同乗しそのプラカードが凶器準備集合に当たるとして摘発され、ＴＢＳが反対派に便宜を与えたとして大きな問題となりました。

1965年には、日本テレビのノンフィクション劇場のドキュメンタリー「ベトナム海兵大隊戦記」が橋本登美三郎官房長官の圧力で放送中止になるなど、政府のベトナム報道に対する干渉が強まりました。ＴＢＳは左翼とのレッテルを貼られて３月31日にニュースコープの田英夫キャスターは「さようなら」の一言を残して番組を去りました。

その前に田キャスターが北ベトナムを取材し、米軍機による病院の北爆をスクープした特別番組「ハノイの証言」が政府を刺激したことも影響しています。

この「田キャスター降板」はＴＢＳ首脳が政府の圧力に屈したと報道局がストするなど社内で大問題となりました。しかし、こうした事件が続くほど、ＴＢＳは反対派農民の受けがよくそれがまた警察側を刺激するなど悪循環ともなりました。

田キャスターはその後参議院議員に転出し現在に至っています。

■新宿騒乱事件

学生運動はその後もますます強まり６月の東大闘争では、学生が安田講堂を占拠し東大に機動隊が導入された為９学部で抗議ストが始まるなど、1969年１月の安田講堂攻防戦の前哨戦となりました。

1968年10月21日の国際反戦デーは、新宿騒乱事件という大きな事件に発展しました。

この日、防衛庁・国会・アメリカ大使館前など各地で学生と機動隊が衝突、新宿駅では大規模な暴動状態となりました。

学生側は、無尽蔵にある線路の砂利で激しく投石し機動隊が追い散らされて一時は完全に新宿駅が占拠されました。

機動隊はガス銃で対抗しましたが、夜に入って酔っぱらいと野次馬が加わって収拾がつかない状態になりました。

前年の羽田事件では、機動隊はガス銃を使用すべきかどうかで何時間も議論したと言われますが新宿駅では劣勢だったこともあり水平撃ちの乱射状態でした。

この時の機動隊は、装備もまだ貧弱で投石にひたすら耐えてガス銃で反撃する戦法でしたが圧倒的な数の学生・野次馬と激しい投石に劣勢を余儀なくされました。

このような衝突の撮影をする場合、双方の中間に居たのでは投石やガス弾が飛んでくるので危険です。

特に舗装道路やプラットフォームでは、思いがけない方向からガス弾や投石が跳ね返るので危険でした。

学生・警官どちらかの背後やホームの階段の蔭などから撮影するのですが、この日は優勢な学生側の背後から撮影するほうが最初は安全でした。

夜に入って警官側から反対派を撮影すると撮影用の照明ライトが投石の目標にされて、照明マンの負傷が相次ぎました。その関係もあって学生側から撮影するシーンが多くなったのです。

しかし、こうしたアングルの映像が放送されると学生の味方をしている印象を与える結果ともなりました。

深夜になって態勢を整えた機動隊側が騒乱罪を適用し一斉逮捕に踏切りました。

ところが、この時には主だった学生は早くも姿を消し逮捕された「暴徒」の殆どは野次馬と酔っぱらいでした。

この時に取材をしていたラジオニュースの小秋元記者が機動隊のジュラルミンの楯で腰を強打され、後々まで後遺症に悩まされることになります。

当時「デンスケ」と呼ばれた大型の録音機を担いで、ＴＢＳのジャンパーに腕章もしていたのですから「暴徒」に見間違えられる筈はないのですがＴＢＳが意図的に狙われたのだとも噂されました。

■サイゴン支局開設とベトナム戦争

1968年10月、太田記者（現東通社長）と共にサイゴンに向かいました。ベトナム戦争はますます泥沼化し、この年の２月サイゴンのアメリカ大使館が解放戦線に攻撃され一時占拠されると言う事態になりました。いわゆるテト攻勢です。

ＴＢＳ報道局はベトナムに支局を設置していませんでしたが、この事態を見てベトナム戦争取材の必要性を感じサイゴンに支局を開設する準備を始めました。

当時のＴＢＳは労働組合が強く、社員を危険な取材には行かせないと言う姿勢でしたから会社としては慎重で当初はバンコクに出張し、場合によってベトナムも取材すると言う名目で派遣されたのです。

従って１カ月程度の出張と言う扱いで出発し、太田記者は「ツゾー通り」というサイゴンの目抜き通りの洋服屋２階を借りて支局を開設する業務だけで帰国し後任の鈴木記者が初代支局長と言うことになりました。

カメラマンは最初ベテランに話があったそうですが、危険だからと家族の反対などで希望者がなくこうなったらカメラの腕は未熟でもノイローゼになりそうもない奴・・・ということで私に白羽の矢が立ったと言う次第です。

ジャーナリストを目指す者にとってベトナム戦争を自分の目で見られることは、この上ないチャンスです。私は大喜びで単身赴任しました。

ＴＢＳのメインニュース「ニュースコープ」がカラー化されたばかりで、フィルムはコダックのリバーサルフィルムを持参し支局の冷蔵庫に収納しました。

撮影したフィルムをＰＡＮＡＭやエールフランスの貨物便に託して日本に送るのですが、週に２便しかありません。電話も日本から殆どかからない。

現地情報省のプレスセンターに２台あるＴＥＬＥＸが最も早い連絡手段というのんびりした時代でした。世界のどこに居ても本社から携帯電話に指令が来る現在とは比較になりません。

サイゴンには１年間滞在しましたがその間、1969年７月21日アポロ11号が月面に着陸しました。

「私にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な一歩だ」と言うアームストロング船長の中継は、サイゴンのツゾー通りの電気店のショーウィンドウのテレビでベトナム人群衆と一緒に見つめました。

月面から中継出来るのにベトナムからの生中継はまだ出来ない時代でした。ベトナムの放　送局が政府の統制下にあり、衛星中継の設備もなかった為です。

テト攻勢以来アメリカ軍の劣勢は否定出来ず、いまにもサイゴン陥落か・・と思われたのですがサイゴンが陥落したのはこの６年後、アメリカが世論に押されてベトナムから撤退したあとの1975年５月30日でした。

当時の支局員は原沢記者と小田カメラマンで陥落寸前に西側記者は、アメリカ大使館屋上からヘリで脱出したのですが小田カメラマンは混乱のなかでヘリに搭乗する機会を失い、結果的に大統領宮殿に突入する解放戦線の歴史的映像を撮影することが出来たのです。

戦車を先頭に大統領宮殿に突入するあの歴史的シーンは、小田カメラマンによれば実は陥落の翌日に北ベトナムが記録映画撮影の為に再現したものだということでした。

1969年のある日、休暇を日本で過ごしてきたアメリカＡＢＣテレビの千崎カメラマンが　サイゴンに戻りました。アメリカのテレビは半年に１回の休暇があり、スタッフは本国に　帰ったりホンコンやタイなどで休暇を過ごすという我々日本のテレビから見ると夢のような　優雅な条件で出張していました。

「日本でいま流行っている歌を聞かせるからおいでよ。」と一緒に食事したあと誘われ、彼の部屋に行きました。

アメリカのテレビ局のスタッフは我々のアパートと違って、カラベルホテルという旧オペラハウス（上院議事堂）に面した最高級ホテルの一室です。

オープンリールのステレオデッキから流れ出た曲は、由紀さおりの「夜明けのスキャット」と、カルメン・マキの「時には母のない子のように」でした。

サイゴン到着以来聴いた歌といえば、日本人記者会が集まって酔って怒鳴りまくる軍歌とノイズの多いラジオから流れ出るいかにも東洋的なベトナムの旋律だけです。

素晴らしいステレオの音質で流れ出た由紀さおりの清澄なスキャットと、シャンソンのような気怠いカルメン・マキの歌声は衝撃を伴って心にしみわたりました。

日本にもこんな素晴らしい歌が生まれたのかと大感激したものです。

当時のサイゴンは、連夜解放戦線がロケット攻撃し市内各所に被害を出していました。私が赴任する直前に、日経新聞の酒井記者が就寝中自宅近くに落ちたロケットの破片が頭部を貫通して殉職しました。

以来、なるべく通りから奥まった部屋に寝るようにし寝室が表通りに近い人は窓側に砂袋を積み上げてその中で寝ていました。そのような殺伐とした雰囲気の毎日を送っていた我々に、由紀さおりとカルメン・マキの美声は天使の歌声のように響きました。

1969年９月３日、南ベトナムの民衆にも「ホーおじさん」と呼ばれて親しまれていた北ベトナムのホー・チ・ミン大統領が死去し、パリで和平会談が始まりました。

いまにも平和が訪れるような感じがしましたが実際に戦争が終結するには尚６年を要しました。

★ベトナム戦争取材・アメリカ式取材の影響

サイゴン支局の１年間にびっくりしたのは、アメリカのテレビ局のスケールの大きさです。自国が戦争しているのだから当然とも言えますが、ＣＢＳ・ＮＢＣ・ＡＢＣの三大ネットワークが大勢のスタッフを送り込んで従軍取材していました。

私がゼンマイ式の小型シネカメラを使用しているのに、アメリカのテレビは、カメラマン・音声・照明の３人のクルーで、大型のオーリコンカメラを担いで戦場を取材していました。これは400フィートまたは600フィートのマガジンを装着する大型の同時録音カメラで、日本では三脚に固定して撮影する機材でした。彼らはショルダーポッドを利用して軽がると担いで飛び回って撮影します。体格の違いもありますが、同時録音の臨場感を重んじているのです。帰国後私はさっそくショルダーフレームを取り寄せ、日本で初めてのオーリコンカメラの手持ち撮影をしました。それまでにない動きのある同時録音撮影ができるのですから、ディレクターは大喜びです。以後、各社も始めるようになり、キャノン・スクーピックと言う国産の小型同時録音カメラが開発されて同時録音多用時代になりましたが、当初は「お前があんなこと始めるから、俺も重いカメラを担がされて往生したよ」と先輩に嫌味を言われました。

現在ではビデオ取材ですから、同時録音は当たり前です。

■東大安田講堂事件

これは当時の学生運動の象徴であり、いわば全盛期の頂点の事件でした。

1969年１月。私がサイゴン支局に居るさなかの事件で、前年夏から全学連が東大の安田講堂に立てこもり学生運動の聖域となっていました。

東大は入試の為に機動隊の出動を要請、１月18日に機動隊8500人が構内に入りました。

機動隊がガス銃を使用、屋上から落とされるコンクリートブロックなどに対抗して鳥篭のような防護キャビンを作成したり。機動隊にとっても大きな転機になる事件でした。テレビ各局は、中継車を出動させてこの攻防戦を報道しました。

初日は結局決着がつかず、256人が逮捕されたあげく翌日の夕方になってようやく落城しましたが、私は１週間遅れでサイゴンに送られて来る新聞で初めてこの事件を知り本社は忙しいだろうな・・と遠く想ったものです。

東大だけでなく神田では中・日・明大などの学生がカルチェラタン闘争を展開し、３月には京大でも闘争が繰り広げられるなど学生運動の頂点とも言える時代でした。

また1969年という年は、11月に山梨県の大菩薩峠で武闘合宿をしていた赤軍派53人が検挙されるなど過激派が台頭し始めた年でもありました。

いっぽう、８月に映画「男はつらいよ」第一作が封切りとなり国民的アイドル「寅さん」が誕生した年でもあります。

■１９７０年は、３月14日に大阪市で万博が開催された年ですがいっぽうでは

３月31日に「よど号ハイジャック事件」
５月10日に広島～今治市で観光客船「ぷりんす号乗っ取り事件」で犯人射殺。
11月25日に市谷の自衛隊東部方面本部での三島由紀夫の割腹事件

など衝撃的な事件が続きましたが、私は出張が多くこれらの事件の取材には関わりませんでした。

■成田闘争

1971年１月から２月にかけて、冬のさなかに第一次成田闘争が繰り広げられました。成田空港建設に反対する現地農民らが団結小屋を建設し軽量鉄骨で鉄塔を作った為、空港公団が排除の為に千葉県警の出動を要請したのです。

農民を中心にした反対派は激しく抵抗し、トンネルなどを掘って団結小屋に立てこもりました。

左翼運動家は支援と言う形でそれほど表面に出ず、あくまでも農民が主役でした。

柱に鎖で体を巻き付け「女はど根性だぞ」と叫ぶ柳川のおばちゃんの姿を覚えている人も多いでしょう。あれが第一次闘争の象徴とも言える姿ですが、あのカットは矢田カメラマン(現ゴーウェスト社長)が撮影したものです。

ＴＢＳ取材部の日勤カメラマンは当時10人程度だったのですが、その半数以上が成田に長期出張しました。私が現地キャップとして三里塚の旭屋旅館に泊まり込み、フィルム原稿運搬のヘリが往復しました。

千葉県警も長期戦になるにつれ機動隊の疲労も重なり日曜は休戦になりしました。反対派の鉄塔のスピーカーから演歌が流れるなど、のんびりした攻防戦でした。そんな日は農民は自宅に帰り本来の農作業に従事しました。

その様子を取材に行ったＴＢＳのカメラクルーが人参の箱詰めなどを手伝ったりしました。ＴＢＳは1968年の三里塚事件以来、反対派に好意的に受け入れられＴＢＳだけが団結小屋の内部などの撮影を許されたりしました。こんなことから「ＴＢＳは左寄りだ」と当局からにらまれたのも事実です。

結局、力の差はいかんともしがたく団結小屋は取り壊され柳川のおばちゃん達ががんばった谷間もあっと言う間にブルドーザーに埋められました。

学生など左翼運動家が前面に出てきたのは、秋の第二次闘争からです。

■浅間山荘事件

1970年３月の「よど号ハイジャック」から始まった連合赤軍の活動は、1972年２月に長野県軽井沢で発生した浅間山荘事件で頂点に達しました。

この事件の発端は、群馬県妙義町で猟銃発砲事件があり犯人が山に逃げ込んだ・・というもので、当初は赤軍の事件とは判りませんでした。

泊まりのカメラクルーは、到着する頃には解決しているだろうと甘い考えを抱きつつ背広姿にゴム長で現地に向かいました。

ところが、犯人は山岳伝いに長野県側に越境し軽井沢町郊外の別荘地帯に現れて浅間山荘の管理人の奥さんを人質に立てこもったのです。

浅間山荘は標高600ﾒｰﾄﾙ付近。山の中腹にあり２月の厳冬期で夜間にはマイナス10度位まで冷え込みます。最初に出動した野口・田中クルーは、背広にゴム長で震え上がったものですが増援部隊が防寒装備を持参して一息つきました。

この事件は約10日間続いたのですが、表側(玄関側)と裏側の２カ所が撮影ポイントです。各社１クルーがそれぞれのポイントで張り番をするのですが、じっと立ち続けるカメラマンにとっては耐え難い寒さです。

ＴＢＳのカメラ助手が、石油缶を改造してコンロを作り軽井沢の町から炭を買ってきました。早朝、撮影ポイントに到着するとまず火を起こし湯を湧かしてインスタントラーメンを作るのが日課になりました。周囲のカメラマ%s$K$b$4CZAv$7$?$N$G$9$,!"Bg9%I>$G3FM5$,$J$$$N$G$9!#

終盤の攻防戦では、機動隊の隊長が射殺されるなど我が国の警察史上でも未曾有の大事件となったのですが、ＴＢＳ系列でもＳＢＣ信越放送の小林カメラマンが足を撃ち抜かれるなどの被害がありました。

私が担当していた裏側は、時折り窓から発砲する坂東などの姿を望遠レンズで撮影します。300ミリの望遠レンズに２倍のアタッチメントを装着して、絞りは解放の為ピントが甘くなってしまい現在のビデオカメラだったらもっと鮮明に撮影出来たのにと思います。

２月28日、機動隊が突入して制圧した合図に部隊旗を打ち振りました。その姿をファインダーに覗きながら、ああ終わったんだな・・ようやくこの寒さから解放されると感慨無量でした。真冬の夕闇せまる16時過ぎで撮影できるぎりぎりの明るさしかありませんでした。

この時もニュース取材はシネフィルムでした。我々はフィルムを列車で東京に送って現像するので、放送に使用されるのは時間的に夜の最終ニュースにしか使用されません。

夕方までは生中継のテレビカメラが大活躍で、速報には生中継にかなわないと我々ニュースカメラマンは無力感を覚えたものです。

言うなれば、同じ映像取材部にいながら生中継担当者は大張り切り我々シネカメラマンは新聞社のカメラマンに近い立場でした。

この事件は、ＴＢＳではＣＭを外して一日中生中継するなどテレビ報道の歴史にとって特筆される大事件でした。

連合赤軍は、５月30日に岡本公三がテルアビブ空港で乱射事件を起こすなどその後も国際的テロ活動を展開して世界に知られました。

■エベレスト取材

1973年に初の秋季登頂を狙う「日本エベレスト登山隊」にＴＢＳが後援することが決まりました。当時私は映放クラブのキャップとして国会に詰めていたのですが、この計画を聞いてぜひとも参加したいと中村プロデューサーに直訴しました。中村Ｐも撮影の責任者として社員のカメラマンを物色していました。取材部のカメラマンで冬山の経験者は私だけですから、南極に続いてのラッキーチャンスです。

エベレスト登山隊に参加することは、登山家にとってオリンピックに出場するようなものです。登山家としてはとても選抜されないが、後援社であるＴＢＳに居るおかげで参加できるのです。国会映放クラブの任期は半ばでしたが、こんな機会は二度とないので強引に参加させてもらいました。

松本市の信州大学医学部の減圧タンクでの生理テストなどを経て、７月に日本を出発しました。

この登山隊は、技術的に非常に難しい南壁を登攀してエベレスト頂上に至る計画で全国の山岳会・大学山岳部から岩登りの猛者を選抜した大登山隊で、愛知学院大学の湯浅助教授を登攀隊長に、総隊長は登山愛好家の自民党の橋本竜太郎代議士です。総隊長は資金集めの為に有力者に就任してもらうもので、後の橋本総理大臣です。橋本代議士は公務の合間を縫ってベースキャンプまで激励に訪れました。ここまで登った現職代議士は日本では初めてではないでしょうか。

バンコク経由でネパールのカトマンズ入り、約一ヶ月のキャラバンを経て８月下旬にベースキャンプを建設しました。

★放送まで２週間、酸素不足のリポート

ベースキャンプは標高5300メートル。酸素は平地の半分、少し動いただけで息が切れます。三脚にカメラを固定して、シャッターを押し５メートルほど歩いてカメラの前でマイク片手にニュース用のリポートをするのですがこれだけ動くにも息が切れてしまい、わずか１分喋るのに息も絶え絶えの状態です。

ベースキャンプと標高6000メートルの第２キャンプの２ケ所でリポートして本社に送りましたが帰国後、あのリポートは臨場感があって良かったと誉められました。

現在なら現場から衛星生中継するのですが、当時は撮影したフィルムをメイルランナー(飛脚)に託してカトマンズから空路日本に送ってもらうのですから、放送されるまで早くても２週間を要しました。

★史上最大の雪崩

エベレスト周辺では９月に入って快晴が続き、気温が上がる午後には必ず雪崩が発生しました。10月初めのある日、エベレストの西側斜面に大雪崩が発生しました。ベースキャンプの真正面です。

周辺の景色を撮影した直後で、近くに置いてあったカメラを急いで手に取り電源ケーブルをつないでシャッターを夢中で押しました。雪崩がこちらに向かって駆け下り、画面全体が真っ白になったら撮影を止めて逃げ出そうと思っていました。こんな時に限って超ワイドレンズを装着してあるのです。

魚眼に近いレンズですから、大雪崩の雪煙もなかなか画面いっぱいになりません。

近くに居た登山隊員は岩陰などに退避しています。

地形の関係で雪崩の本流はここまでこないと確信していましたが、雪煙の先端が押し寄せてファインダー全体が真っ白になった途端に爆風で吹っ飛ばされました。近くのテントも跡形もなく吹き飛ばされ、気がつくと全身が10センチほどの雪に覆われていました。

「さすがプロのカメラマンは逃げないね、根性があるねえ」と隊員にからかわれましたが、末端の雪煙でこれだけの威力ですから本流に巻き込まれたらひとたまりもありません。この時ほど超ワイドレンズの画角の広さを呪ったことはありませんでした。

この雪崩はヒマラヤでも珍しいほど大規模なもので、撮影されたものとしては最大級のものです。数年後、日本テレビで雪崩をテーマにしたドキュメンタリー番組が放送されましたが、私が撮影したこの雪崩のシーンが使用されていたのでびっくりしました。ＴＢＳで放送した作品をフランスの放送局が購入して再構成したものを日本テレビが逆輸入したものと判明しました。

この雪崩のシーンは新潟県の雪崩研究所の資料として一般に公開されているはずです。

★エベレスト････極限の人間記録

10月に入って天候が悪化し、雪崩でシェルパ一人が死亡したり先頭の隊員が8200メートルの南壁の途中で吹雪に閉じ込められるなどして、順調に進んでいた登山活動が大幅に遅れました。10月末に南壁からの登頂をあきらめ、ノーマルルートに転進した石黒・加藤の２隊員がようやく登頂に成功しました。秋季の登頂は初めてです。しかし、日程の遅れと食料燃料不足から、8000メートルのサウスコルから一気に登頂したため帰途日没になり二人は標高8500メートルの高所でビバークしました。加藤隊員O;@AG%\%s%Y$NITD4$G$=$ND>A0$+$i!!9bEY>c32$N>I>u$,$G$F$$$^$7$?!#

無線連絡は途絶え二人は絶望とあきらめるなか、翌朝ふらふらになって下山する二人を救援に向かった長谷川恒男隊員が発見するなどの壮絶なドラマが展開しました。

この高所で無酸素でビバークして生還した例はありません。

私が参加したこの登山記録は「エベレスト・・・極限の人間記録」と題して、1974年１月２日の19時半から90分番組で放送されました。正月のゴールデンアワーに登山記録を放送することは稀有のことです。ＴＢＳがいかに力を注いでいたかが判ります。

加藤保男隊員はこの時の酸素不足で凍傷になり、両足の指をすべて切断しました。これにもめげず、不屈の闘志で登山家としてカムバックしましたが1982年末、エベレストの冬季無酸素初登頂に成功したまま烈風の彼方に消えました。

二人を救助した長谷川隊員は、その後世界初のヨーロッパ三大北壁の冬季単独登頂者となりましたが、1991年10月にヒマラヤ・ウルタル峰で雪崩のため死亡しました。

★番組制作裏話
この作品は、この年のイタリア山岳映画祭に出品しグランプリを受賞しました。これをフランスの放送局が購入しめぐりめぐって日本テレビの番組に使用されたのです。

私としては全力投球で撮影した作品だったので思い残すことのない仕事でした。行動中は殆ど軽量のサイレントカメラで撮影したので、重い同時録音は第２キャンプまでしか使用していません。

帰国後、番組を制作するにあたってスタジオに大量の氷を運び込みハンマーでたたいてピッケルで斜面を削る音を作ったり、無線の会話をアテレコで入れたり雪崩の轟音を効果音で作ったり映画と同じ作り方でした。

この登山は予定より大幅に遅れて11月下旬に帰国したのですが、遠征中はテレビもラジオもありませんので赤軍の丸岡とアラブゲリラが日航機をハイジャックして中東を転々としリビアで機体を爆破したことや、８月の金大中拉致事件、空母ミッドウェーの横須賀入港や石油ショックでトイレットペーパーの買いだめ騒ぎなどは知らずにいました。

■ＪＮＮ総力特番「天ざる一枚」

1975年、報道局は系列各社からスタッフを集めて大型企画番組を計画しました。

北海道のＨＢＣから九州のＲＫＢ毎日まで各社から記者やカメラマンが結集し、春から何をテーマにするか連日話し合いました。その結果、もっとも日本的な食べ物「天ざる」を題材に、日本の食料輸入の現状乏しい自給状況を描くことにしました。

このテーマが決まるまで侃侃諤諤数ヶ月を費やしました。

そば粉はカナダ、エビはインドネシア、ゴマ油はスーダンなど、世界各地へ取材クルーが出かけました。

私はゴマが担当です。ゴマはエチオピアが最大の輸入先なのですが、当時はゴマの産地のエリトリア付近が内戦状態で入国できないため第２の輸入先である隣国のスーダンにでかけました。カメラマン兼ディレクターが私で助手の西村君と羽田を出発。レバノンのベイルート支局でリポーター役のＲＳＫの片山記者と合流しました。

取材した７～８月のスーダンは雨季で、ゴマの生産地である奥地に行くには飛行機でない　と無理で各方面を奔走して国連機関のセスナ機をチャーターしてようやくゴマ畑近くの泥だらけの滑走路に着陸しました。そこからは水田のような泥濘の道で、四駆でも走れないので大型の耕運機で畑に向かいようやく取材して首都のハルツームに戻りました。収穫季がすでに終わっていたため淋しい絵柄となりましたが、このような奥地からはるばる日本へゴマが運ばれているのだと感慨深いものがありました。

スーダン情報省の次官に「わが国の農業事情を外国のテレビが取材に来たのは初めてのことで大変喜んでいる。」と歓迎され、高級ホテルで次官主催のランチョンまでセットされつたない英語で答礼したことを覚えています。

現在なら現地から衛星リレー中継でリポートするところですが、まだ衛星中継はできずフィルムを持ち帰ってスタジオで報告する形をとりました。

このような大型番組は民放ではまだ珍しく、お寒い自給態勢と輸入に依存するわが国の食糧事情を鮮明に描いたと好評でした。

放送後、愛知県のゴマ油のメーカーが面会にきました。現地のゴマ畑の様子を聞きにきたのです。ゴマ草はどのくらいの間隔で植えられているのか、など撮影時はそんなに注意していなかったことを聞かれました。原材料を輸入しているメーカーも現地には行ったことがないとのことでした。

ＪＮＮ総力特番は、その後台風や地震災害などをテーマに数回制作されました。

スーダンで取材している間に、クアラルンプルで赤軍が米・スウェーデン大使館を占拠、政府が超法規措置で過激派７人を釈放しました。

★沖縄海洋博

沖縄海洋博は1975年７月19日に開幕し翌年１月18日に閉幕しましたが、入場者数は期待はずれにおわりました。

当時日本テレビは沖縄にネット局がなかったため、現地にVR-3000という3/4インチのオープンリールＶＴＲを持ち込みＮＴＴの回線を使用して素材を東京に送りました。わが国でニュ<%9

ＴＢＳは琉球放送（ＲＢＣ）とネットしていたためそのような苦労はありませんでした。

■ビューティフルサンデーの大ヒット

1970年代、ＴＢＳの朝の番組で数人のリポーターが各国を巡るコーナーを放送していました。７時20分からの「おはよう720セブントゥーオー」という番組内で、４人のリポーターが世界を巡り「パスポート４」というコーナーで放送していました。

一人のリポーターが一ヶ月から一ヶ月半の取材で10回から15回放送分を取材しました。原則としてひとつの国に滞在し、観光客が行かない村に入り込んで一般家庭の生活を描くスタイルの海外リポート番組は初の試みで、その新鮮さが受け入れられその後の個人の海外旅行ブームに火をつける一因になりました。
　この番組は「キャラバン２」と名を変えてその後も続き、ＴＢＳスタッフも世界の隅々まで取材に出かける経験を積みました。

1975年の秋に伊藤ディレクター・土井かつえリポーターと東西ドイツを取材しました。当時東ドイツの入国は難しく、こうしたリポート取材を認められたのは極めて珍しいことでした。

このシリーズは冒険家の横田紀一郎さんをチーフとするドライバーチームが２台の車でポルトガルのリスボンを出発し、各国を取材しながら日本へ向かっていました。主人公は２台の車とリポーターです。

ドイツ取材の間、横田さんはロンドンで仕入れた曲をカーステレオにかけながら運転していました。その軽快な曲が、私と相棒の南君・リポーターの土井かつえ嬢のお気に入りとなりドイツ編放送の時のテーマミュージックとして流そうよと伊藤ディレクターに提案しました。

当初、伊藤ディレクターは乗り気ではありませんでした。というのは、伊藤氏は２台目の　車に乗っていたためこの曲を聴いていなかったのです。我々がしつこく薦めるうち、ドイツ滞在の後半には全員で口ずさんでいました。

放送日は翌年の１月でしたが、土井かつえ嬢がベルリンの公園内をサイドカーに乗って走るタイトルバックに流したところあの曲はなんという曲だと放送後に問い合わせが殺到しました。

「ハッ！ハッ！ハッ！ビューティフルサンデー・・・」とダニエル・ブーンが歌う軽快な　曲は朝の時間帯にふさわしく、日を追って反響が大きくなりました。そこで伊藤ディレク　ターは音響の専門家であるラジオ技術の加藤茂樹さんと協議し、レコード会社と提携してこの曲を日本でも発売することになったのです。当時朝８時からの番組に出演していた田中星児さんが日本語の訳詞で歌い、ミリオンセラーとなりました。

レコードが発売されて数ヶ月後、別の取材で新潟県長岡市へ出かけた時のことです。つれづれに入ったキャバレー「長岡ハリウッド１号店」でこの曲が大音響で流されていました。我々も嬉しくなり、同席のホステス嬢にドリンクを振舞ったものです。

「この曲いいでしょ。ビューティフルサンデーって言うのよ」

「ああ知ってるよ。この曲は俺たちが日本に紹介したんだ」と言ってもホステス嬢が信用しなかったことは言うまでもありません。

ちなみに、私と相棒の南君はＢ面の「スカイダイバー」と言う曲のほうが気に入っていたのですが・・・。

■ロッキード事件

1976年７月の田中角栄元総理の逮捕ほど衝撃的なことはありませんでした。

評論家立花隆氏が執筆した文芸春秋の「田中金脈」に端を発したロッキード事件は、アメリカ議会の公聴会で疑惑が浮上し２月に右翼の大物児玉誉士夫周辺の取材から始まったのです。

我々は検察による強制捜査を予測し、連日自宅の張り込みを開始しました。

児玉邸の張り込みは、都内とははいえ真冬で寒く脚立の上で終日座り込むのは辛い作業でした。テレビ・新聞各社の取材車がずらりとならび、時ならぬ騒動に近所の人は迷惑したと思います。

右翼がチャーターした小型セスナが児玉邸に突っ込んだのもこんな最中でした。

児玉誉士夫は持病が悪化して新宿の病院に入院しました。病室の児玉を撮影しようと各社が試みましたが、ＴＢＳの野口カメラマンは近くのマンションの１室から望遠レンズで偶然カーテンを開けて窓から覗いた児玉の姿をスクープ撮影しました。

ロッキード疑惑は、商社・全日空・運輸省幹部から政界へと波及して行きました。

５月からこれら高官・要人の自宅の張り込み取材が始まりました。

検察の強制捜査は通例として早朝から着手されますから、担当者はＴＢＳを５時半には出発します。自宅前に到着後、それら要人が出社あるいは登庁するまで追いかけると言う毎日が始まりました。検察から検察の関連施設に極秘に呼び出される可能性もあった為、間違いなく議員会館や勤務先へ入ったのを確認して帰社したのです。

各社も同様でシフトを組んでいましたが、ＴＢＳはマンツーマンで同じカメラマンがずっと張り付きました。

７月27日、大物逮捕の情報が入り各社検察庁にカメラマンが出動しました。規制のロープが張られやがて黒塗りの車が到着、ヨッと右手を挙げるいつものしぐさで田中角栄が現れた時は各社仰天しました。

まさか、いきなり頂点に行くとは想像も出来ず各社ノーマークだったのです。

この田中元総理の姿を撮影した時、カメラマンは身が震えたと感想を述べています。

翌日から橋本元運輸大臣らの張り込みはより念入りに行われました。

やがて秋風がたつ８月下旬になり、20日に佐藤孝行元運輸政務次官、21日に橋本登美三郎元運輸大臣らが逮捕され、長い長い張り込み取材は終了しました。

全日空の若狭社長を担当した愛甲カメラマン（当時日本ビデオ）は、一ヶ月半にわたって休みをとらず連日早朝取材を続けたのにたった一日休みをとった７月８日に若狭社長が逮捕されてしまい、泣くに泣けぬ一日となりました。

２月の児玉邸の張り込みから数えると約半年、ＪＮＮ系列各局カメラマンの応援を得たテレビニュース史上希有の長期取材でした。

この事件は、翌年の初公判や1983年10月の地裁判決などに40クルー以上のカメラマンを動員する空前の取材となりましたが、「蜂のひと刺し」で榎本三恵子女子が有名になるなど各方面に数々の歴史を残した事件でした。

1976年は、ロッキード事件のほか、９月７日、函館空港にソ連のベレンコ中尉が最新鋭のミグ25で飛来して亡命した事件がありました。

■テレビニュースの革命：ＥＮＧ導入

ＥＮＧは「Electric News Gathering」の略で、ビデオ(電子)カメラによる取材システムのことです。

1975年の沖縄海洋博覧会にＮＴＶ(日本テレビ)が現地に3／4インチのＶＴＲとカメラを持ち込んだのが、本格的なＥＮＧ取材の始まりと言えます。

当時ＮＴＶは沖縄に系列局がなかった為に、東京のスタッフが出張しました。従来のフィルム取材では現地で現像・編集作業を行わなくてはならない為、ＮＴＶはＶＴＲを持ち込んでＮＴＴのマイクロ回線を使って東京に伝送したのです。

ただ、当時のＶＴＲは3／4インチのオープンリール式でかなり大型で機動性には欠けていました。

次に3／4インチＶＴＲがカセットタイプになって開発され、ＥＮＧシステムとして大々的に発売されました。

しかし、日本のテレビ局はフィルムに比較しても画質が劣るとなかなか採用しませんでした。しかし、アメリカのテレビ局はその機動性に注目してニュース取材に採用しました。

「アメリカでは、ニュース取材に日本製のビデオカメラを使用し電波でその素材をどんどん伝送して最新の映像を放送$7$F$$$k!#$3$l$>%F%l%S%K%e!<%9$N

日本のテレビ局も導入の方向に傾きました。

機材はすべて日本製でシステムの逆輸入でした。

ＴＢＳでは技術の専門家である中継技術部が、試験的に機材を導入して運用を開始し群馬県で発生した上越線の脱線転覆事故の取材に威力を発揮しましたが、報道局ではまだ使用されませんでした。

ＴＢＳ報道局では1975年頃からＥＮＧの導入を賛否なかばするなかで検討を始めていましたが、1976年にロッキード事件が発生しその長期取材に力を注いだ為に導入が半年ほど遅れたのです。

ＴＢＳのニュース取材に初めてＥＮＧビデオカメラが使用されたのは1977年の４月です。

カメラは日立製のＳＫ80型。ＶＴＲはビクターのＣＲ4400Ｌのセパレート型です。カメラだけで12キログラム。ＶＴＲを担ぐ助手はバッテリースペアを含めると20キログラムを超える重量を負担するなど、重く大きい機材でした。

機材の重量は「腰を痛める」など労働組合で問題にもなり、ＮＨＫでは報道取材部が採用を拒否して技術系の部が「ＮＣ９」のニュース取材をしたりしました。

最大の欠点はバッテリーの時間が保たないこと。ＶＴＲの始動に時間がかかること。湿気に弱いなどでフットワークが必要な事件ものの取材には向かず、当初はイベントとか季節ものなどいわゆるヒマネタ専用でした。

撮影済みの素材はオートバイで運搬するなど、従来のフィルムと同じ使用方法というよりむしろ厄介者的存在で、その便利さに私達自身が気が付いていませんでした。

画質的には、陰影と色彩の深みなどフィルムとはかなり異質なもので「ビデオは画質に深みがない。単調である」と嫌うフイルムカメラマンもいました。

★「日立市の誘拐事件報道」ＥＮＧ取材の転機

ビデオカメラが威力を発揮したのが、1978年10月に茨城県日立市で発生した女子中学生誘拐殺害事件の取材です。

ＴＢＳでは、この前に小型中継車を稼働させていましたがこの事件で取材部は初めてＥＮＧカメラと中継車の組み合わせで出動しました。

他社は事件ということで、従来通りフィルムカメラで出動しました。

ＴＢＳは、「テレポート６」の料治キャスターが現場から中継リポートし、あらかじめ送信したＶＴＲテープ素材を混ぜて放送しました。

ここで生中継とニュースカメラマンが撮影した素材との時間差がなくなりました。

「現像」の必要がなく電波に乗せて伝送出来ると言うことは、遠隔地でも同時速報が出来る。「素材を電波で送れる」ことの効用を改めて認識しました。

他社はフィルムを現像する為にヘリやオートバイで東京に運んだ為、ＴＢＳとは約半日の差が出ました。

おおよその取材が一段落し翌日の昼ＴＢＳの中継車が山を下る頃、他社の中継車があわてて山に登ってくるのとすれ違いました。

他社も、素材を電波で送れる便利さを認識したのです。

これまで遠隔地のニュースは東京までフイルムを送る時間がかかる為、従来はよほどの事件でないと放送されませんでした。それがＥＮＧによって時間差がなくなりました。

ここに初めて東京と地方の時間差がなくなったことになります。理論上は衛星中継を使用すれば世界中の時間差がなくなり、これはテレビニュースにとって革命と言えるものでした。

これまで光学のメディアであるフィルム(映画)を借りて報道していたのが、初めて取材から送出までテレビ本来の電子のメディアで統一できたのでした。

この事件以後、「現像の必要のないビデオの便利さ。電波でニュース素材を送れる機動性」を各社とも認識し遠隔地の事件ほどＥＮＧで出動するようになりました。

しかし、ＥＮＧの機材が高価で編集機まで含めると初期の設備投資に膨大な費用がかかる為、完全にＥＮＧ化されるには数年を要し全国系列局がＶＴＲ取材に全面的に移行するには更に数年を要しました。

1979年になってSONYが、BVP-300と言うカメラを発売しました。これは従来のカメラより数キログラム軽く消費電力も少ない飛躍的に性能が向上したカメラで、ＶＴＲも録画能力だけを備えたBVU-50と言う小型のものが開発され、ニュース取材に必要な重量による機動性の難点が解消されました。

この頃から従来のフィルム取材とＥＮＧ取材の比率が逆転し、編集室もフィルム中心からＶＴＲ編集主力へと転換してきました。

そこでＴＢＳは、ＶＴＲ編集専門のＥＮＧセンターを1980年９月22日に稼働させ、1981年には関東各県に居る駐在カメラマンにもＥＮＧカメラを配備して、ＥＮＧ態勢が一応完成しました。

★１／２インチベータカムの採用

1980年代の末期になって、従来の3／4インチより一回り小型の1／2インチベータカムシステムがSONYによって開発されました。

同じ頃、松下電器はＭフォーマットを開発し1／2インチ時代に入りました。

ＶＴＲテープは小型になりましたが、録画方式の開発によって画質は向上しました。

カメラも従来の光電管方式から、ＣＣＤ方式になって調整が容易になり軽量化も進みました。

数年して、カメラとＶＴＲが合体した一体型カメラが開発され小型中継車による伝送態勢の整備も進んでＥＮＧシステムは完成しました。

現在では録画方式がアナログからデジタル方式へと変換し、テープもより小型になりました。更に近い将来はディスクへと電子技術の発達はとどまる所を知りません。

■神野寺のトラ脱走

1979年８月２日深夜、千葉県君津市の神野寺境内の小動物園からトラ２頭が脱走しました。給餌のあとカギを締め忘れたのです。

その夜、私は新人の氏家カメラマンと宿直勤務でした。「子供のトラが逃げた」と起こされたのは明け方です。虎が脱走と聞いてもぴんとこず、氏家君に「子トラだからたいしたことはないだろう。現地に到着する頃には解決してるだろうが、新人にはちょうど良い訓練だから行ってごらん」とのんびり送り出しました。

その後一ヶ月以上にわたって展開されたトラ騒動の幕開けになろうとは想像もしませんでした。

氏家君が到着した頃、現地は地元の猟友会を動員して大騒ぎになっていました。脱走した虎は子供と言っても体長２メートル近いし人家も近く危険ということで、応援カメラクルーや中継車が出動して現地はにわかに騒然とした雰囲気になりました。

神野寺門前の旅館や料理店を各社が借り切りで泊まりこみ、長期取材の態勢になりました。ＴＢＳの宿舎はウナギ料理店で座敷に数十人のスタッフがごろ寝です。

店主も消防団員なので、昼間虎狩りに出かけ帰ると我々の夕食用に鰻をさばくという忙しい毎日です。

虎はみつからないまま、警察・消防による数百人態勢の捜索は続きました。周辺は標高300メートル前後の丘陵が連なり、標高の割には谷が深く雑草や潅木がびっしりと生い茂り蔓草が足にからみつきます。真夏の暑さと草いきれ、重いカメラ機材は肩に食い込みカメラマンにとっては非常につらい毎日でした。

ＴＢＳ取材部にはこの年、氏家・橋本の２新人が配属になっていました。氏家君は東京大学のアメリカンフットボールの選手、橋本君は早稲田大学のラグビー部の主将で２人の強靭な肉体とスタミナは各社の中年カメラマンを圧倒しました。

10日経過したある日、近くの民家の軒下にうずくまる虎が目撃され橋本君が見事撮影に成功しました。直ちに包囲網が縮められ、翌日射殺されました。体長２メートル、射殺した地　元のハンターは日本でトラ狩りができるとは思わなかった・・・と大興奮です。

もう一頭の行方はその後もまったくわかりません。捜索陣も疲れて餓死したのではないかと希望的観測を述べる人がでてきた頃、麓のあちこちで飼い犬が居なくなりました。虎の餌食になったらしいとのことで大捜索が再開されました。

夕暮れになると付近の民家は固く門戸を閉ざし、残暑が厳しいなか窓を締め切って寝苦しい夜を過ごしました。

２頭目の虎が射殺されて終結したのは一ヶ月以上もあとでした。

人的被害はなかったが連日テレビニュースを賑わせた、どこか滑稽な事件でした。

■ケニア奥地の白人

1979年10月、キャラバン２の取材でケニアにでかけました。リポーターは「サインはＶ」の主演女優岸ユキさんです。動物サファリを中心に取材したのですが、日本人観光客が滅多にこない奥地のキャンプにでかけました。

経営者はケニア生まれの白人です。このキャンプに数日滞在し、連日徒歩や車でゾウ・キリン・チータ・ライオンなどの動物を追いました。

夕方キャンプに戻るとＶＴＲで再生して撮影内容を確認しますが、その時になると案内兼ポーターのマサイ族が背後に群がって試写を眺めながら「おい、お前が映っているぞ。あれは俺だ。いい男だなあ」などと大騒ぎします。

数日して白人経営者がやってきました。

「毎日試写しているそうだが、いつ現像したんだ」と問います。

「これはフィルムじゃないんだ。ＶＴＲだから現像の必要がないんだ」と説明するのですが、どうしても理解できないようです。

奥地生まれでケニアから出たことのない白人で、ＶＴＲをみたことがないのです。フィルムは知っているので、そこからどうしても発想が抜けだせません。

「これは映像を電気信号に変えてテープに記録しているので、フィルムのように現像する必要はないんだ」といくら説明しても理解できないのです。

「それにしても、いつ現像したんだ」と引きさがりません。しまいに「ジャパニーズ・マジック」とつぶやいて自宅に引き上げました。

なまじ、フィルムの知識があるだけにその世界から抜け出せないようでした。

その点ドロウボウ族というマサイ族の一族は、日本人が持参したこの機械はすぐ映像が見られる機械なのだ・・・と素直に受け入れて、なんの疑問も持たないようでした。

■秘境ムスタン探訪

1982年、日本ヒマラヤ協会がネパール・中国国境にそびえるブリクティ・サイル峰の登山許可を取得したので後援しないかとの話しがもちこまれました。ブリクティ峰は6800メートルの無名といってよい山ですが、その山に登るために秘境ムスタンを通行することが　出来るのです。

ムスタンは、ネパール領ではありますが住民はチベット族で藩王が居り独自の分化を伝えている秘境です。中国との国境に面しかつてチベット革命の頃、チベット族ゲリラがここを拠点に中国領に出撃したために外交的配慮から外国人の立ち入りを禁止してきたました。ネパール自体が開国したのが近年ですから、ムスタンはいまだかつて外国のテレビは勿論、新聞記者も入域したことのない「幻の王国」でありネパール好きに取っては垂涎の的の秘境でした。

登山はともかく、ムスタンに入域できるということでＴＢＳは「報道特集」で取り上げることになり登山隊の一員として４月に成田空港を出発しました。

日本ヒマラヤ協会の菊池隊長ら登山隊員とＴＢＳスタッフは私と助手の新妻・中里の計３人。私がカメラマン・ディレクター・リポーターを兼ねるコンパクトな陣容です。

ネパールの首都カトマンズで、ネパール側隊員のザンブーとキショール氏と合流しました。この隊は日本ヒマラヤ協会とネパールのトリブバン大学の合同登山隊ということで登山が許可されたからです。ザンブーは高地民族シェルパ族の同大学生。キショール氏はカトマンズの新聞「ライジングサン」の記者。ネパールのマスコミもムスタンに入るのは初めてのことなのです。

カトマンズから西部の都市ポカラまでバス。あとは徒歩でムスタンに向かいました。地方空港のあるジョムソムから一日のカグベニ村を過ぎるといよいよムスタンです。

カグベニ村を過ぎた峠で、「ここから先にテレビカメラが入るのは史上初めてのことです」と最初のリポートをしました。

ネパールでは、登山隊にはリエゾンオフィサーといって登山活動のコーディネーター兼監視役として警官または軍人が同行します。

この時は登山経験のない警官が同行しましたが、この役は初めてとのことで緊張しなんでも禁止と融通がききません。

秘境ムスタンの首都ロー・マンタンには幻の王様が居り、今でも住民間の紛争などの調停役や相談役を勤めています。登山活動より、この王都を訪問してリポートするのが私の目的なのですがリエゾンの指定したコースは王都を通らJ$$N"39F;$G$7$?!#39F;$H8@$C$F$b0lF|Jb$$$F$h$&$d$/4(B<$K=P2q$&$H$$$&?MN$$O$J$l$?;3F;$G$9!#

「これではムスタン探訪では番組が成立しない。登山活動も取材せざるを得ないなあ、それも我々ＴＢＳスタッフが登頂してリポートしないと話題にもならない」と新妻君と話し合い、われわれも登山活動に参加することにしました。

我々は登山隊には参加したけれども、最初からムスタン探訪が目的でしたから登山靴もピッケルも持参していません。急遽登山隊の予備の備品から登山靴やピッケル、アイゼンを借りることにしました。

ムスタン領に入って約１週間、殆ど取材できないまま最後の村タンゲに到着しました。ここからはベースキャンプに向かうだけ、標高3500メートルの最後の人里です。

人口は約100人ほど。人のよさそうな村長さんがいます。

これが最後のチャンスと我々は高度順化するため３日ほどこの村に滞在する。あとから追いかけるからと、登山隊と分れて村に残りました。監視役のリエゾンは登山隊と一緒に登って行きました。

村の男はチベットから入ってくる塩などの交易品を持って年に２回ほどネパールの町にでかけるので外国人を見た経験はありますが、村からでたことのない女たちには我々は生まれて初めて接する外国人です。我々のテントの廻りに早朝から女子供が集まってきゃあきゃあ見物されるのには参りました。

夜に村長の自宅に招待されました。この地方の建物は石造りです。石を積み上げて壁を作り梁には材木を渡して粘土の床を貼ります。１階は羊などの家畜小屋。２階から上が住居で２階から３階建てが多い。冬寒いためか窓は小さく室内は真っ暗です。

ろうそくは贅沢品で、燈芯をいれた皿に菜種油を入れて燃やす日本で言えば江戸時代の代物です。撮影の為にバッテリー照明を点灯すると明るすぎて目がまぶしい。

珍客が来たとのことで米を炊き、ヤギの肉のスープを作るという大ご馳走を振舞ってくれました。

ヤギのスープは温かい時はうまいのですが、さめるとにおいがきつい。

この地に限らずチベット人は風呂に入る習慣がありません。高地のため水も冷たいので洗顔や手洗いもあまりしない。お湯を沸かす薪も貴重品だから風呂など思いもよらぬことなのです。ですから彼らの衣服は油まみれで真っ黒だし、顔も手も垢と油とすすでで真っ黒。

米を研いでいる奥さんの手がみるみる白くなっていくのを呆然とみていました。

翌日は村中で用水路の補修工事です。村から２キロほど離れた渓谷から幅１メートルの用水路を延々と引いてあるのですが、側壁が崩れたりするので年に数回補修するのです。

村人全員が朝からでかけ、昼時になると女たちは現場で煮炊き。仕事が終わり近くなると数人の婆さんが作っていたどぶろく状の酒（チャン）を回し飲みして踊ります。

これはやや発酵した大麦を手で揉んで水で薄めただけでアルコール度は低いのですが、滅多に口に出来ない贅沢品なのですぐ酔っ払うのです。

昨夜、村長の家でも振舞われてうまいうまいと飲んだ助手の新妻くんは、麦を揉んでいる婆さんの手がみるみる白くなっていくのを見て卒倒しそうになりました。

日本で言えば江戸時代の山村はこうであったろうなという生活で非常に興味深く、何を撮影しても絵になりました。

この村には結局３日滞在し、ベースキャンプに移動して登山活動に参加しました。

この地域に入山するのは我々が初めてで、地図もおよそ100年前のイギリス製のもので地形がまったく違う。まず目的のブリクティ峰はどこなのかを探す。現在のヒマラヤでは考えられない探検から始まりました。主峰を探すのに約10日間。ようやく登山ルートが決まりました。

助手の新妻君は余り冬山の経験がないので、アイゼンとピッケルの操作法を急遽実習させ何回か第一キャンプを往復して高度順化しました。

もう一人の中里君は登山はおろか海外出張が初めてで、標高4500メートルのベースキャンプで高度障害が出てしまい、ベースキャンプで滞在です。

５月中旬になってアタック隊の佐久間隊員ら２名が初登頂。翌日我々も登頂しました。

頂上から見下ろす北のチベット高原は茫漠とどこまでも続いています。振り返ればアンナプルナやダウラギリ、マナスルなどの8000メートル峰が連なります。

撮影しながら実況中継のようにリポートしましたが、撮影が終了すると果たしてちゃんとシャッターを押していたろうか、撮影中を示すタリーランプが点灯していただろうか不安になります。厚い手袋をしたままなので感触も定かでないのですが、いまやったことの記憶が定かでないのです。高度障害の現れだと思いますが、結局おなじことを３回撮影しました。帰途、バンコク支局ど試写してみると３回ともちゃんと撮影してあったのですが。

100年前の地図には高度6800メートルとなっていますが、頂上で計った高度計は6400メートルを示していました。

とにかくも43歳になってヒマラヤの頂上を踏んだのですから感激です。また４分の３インチのＶＴＲとプロ用のカメラをヒマラヤの頂上に担ぎ上げたのはこれが世界ではじめての筈です。当初は登山するつもりではなかったのですから重い機材しか用意していなかったのです。もし、登山が最初から計画にあったら家庭用の小型ホームビデオで登ったと思います。

帰国してこの年、1982年７月の「報道特集」で放送しましたが新聞各紙のテレビ欄でも取り上げてくれてかなりの反響を呼びました。

私が取材してから10年後にＮＨＫが「世界で初めてムスタンを取材」と銘打ってＮＨＫスペシャルを放送しました。「世界で初めて取材許可をとっての取材」でテレビ取材としては私のほうが10年早い。そんなことはどうでも良いのですが、このＮＨＫの番組が後日「やらせ」が発覚してＮＨＫを揺るがす大問題となりました。

私は登山隊として入域したために、王都ロー・マンタンの取材は許可されませんでしたがＮＨＫは王都をはじめ各所を堂々と取材できたのです。

やらせなどせず、そのありのままを取材すれば充分興味深かったのにと惜しまれてなりません。